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2005年某月某日。
ダンナの母親が行きつけのブティックに誘ってくれる。お洋服をたくさん買ってくれる、とても良いお姑さんなのさ。このスカートなんかどうかしら、このワンピースならちょっとしたよそ行きにもなるわね、などと義母が選んだものを試着していると、義母がブティックの店長に話しかけている声が聞こえてきた。
「博子ちゃん(あたしのことですよ)に洋服を買うのは、孫に買ってあげるのと同じなのよ」
ああ、それって嫁であるあたしを孫のように可愛がってくれてるということかしら。ありがたいお義母さんだなあ。感動。試着室の中で感動に胸を奮わせていると、義母はこう続けた。
「だって去年の服が、1年で着られなくなるんだもの」
が〜〜〜ん!
孫と同じって、そういうこと? そういうことなの? 思わず試着室でくずおれる嫁。
義母の名誉のために言っておくが、これは別に嫌味で言ってるとか嫁いびりとかでは決してないのだ。ただ素直に、感じたことを脳味噌を通さずに(あわわ)そのまま口から出す性格なだけなのだ。無邪気なのだ。素直なのだ。正直なのだ。ピュアなのだ。でも無邪気でピュアな六十代ってちょっとどうか。
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ここで話は10年前に遡る。
10年前、30歳の頃。
今のあたしを知る人には信じられないかもしれないが、あたしは痩せていた。
初めて会った人には大抵「細いねえ」と言われるくらい、痩せていた。おまけに当時から巨乳だったので、そりゃもうアンタ、ちょっとしたナイスバディだったのさ。こら、そこ、笑わないように。ホントなんだから。
特にトレーニングするでなく、食べ物に気を遣うでもなく、それでも「細いねえ」と言われる体型を苦もなく維持していたので、あたしは食べても太らない体質だと思いこんでいたのだ。
ああ、今ここにタイムマシンがあったら、10年前の自分にコンコンとその勘違いを説いて聞かせたいよっ。10年前の自分の肩をつかんで揺さぶりながら、「それ、大間違いだから!」と泣き叫んでやりたいよっ。
「加齢」というものを、バカにしてはいけない。
25歳がお肌の曲がり角なら、30歳は体型の曲がり角だ。
巨乳が垂れぬようキープしていた胸の筋肉、ウエストのくびれを作っていた腹の筋肉、ヒップをきゅっと持ち上げてくれていたお尻の筋肉などなどが、30歳を境にいきなり「疲れた……」と言い始めたのである。
「パトラッシュ……僕もう疲れたよ。なんだかとっても眠いんだ……」(by 筋肉)
寝るなーーーっ! 寝たら死ぬぞーーーっ!
と叫んでみても後の祭り。30年間頑張ってくれた筋肉たちの、その頑張りのもとは「若さ」だったのだ。「若いから、なんとかなってた」のだ。そして30歳。もう若くはない。筋肉が、次第にヘタれてきた。すると必然的に体型もヘタれてくる。
今思えば、31歳で結婚したことも運命の一里塚だったのかもしれない。
テレビ局というハードな職場を辞め、三食昼寝付きの生活が始まる。それでも、もともと大食いの方ではないので、食べて太るということはあり得ないと思っていた。でもね、主婦の人なら分かってくれると思うが、自分はさほど食べたくなくても、ダンナには三度の食事を作らなきゃならないわけですよ主婦ってのは。で、作れば自分も食うわけですよ。「そんなにお腹が減ってるわけじゃないんだけど」と思いつつ、ちゃんと2人前作って、自分の分はきっちり食べちゃうわけですよ。はぁ。
そして筋肉がヘタれる三十代。
運動はまったくしていない。
ほんの1km先のスーパーまで行くのにもバスか原チャリ。
甘いものはあまり食べないが、代わりに清涼飲料水が大好き。
これで太らないワケがない。
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【問題】
ひろこさんの体重は、1年で1kgのペースで増えました。
ひろこさんの体脂肪率は、1年で1.5%のペースで増えました。
ひろこさんの体重と体脂肪率は、10年でそれぞれどれくらい増えたでしょう?
【答】
今あなたが暗算した通りです。
今、自分で数字を書いてて、思わず倒れそうになったね。つか、20分くらい倒れてたよ。
それだけ増えたつっても、体重はまだ良いんだよモトが痩せてたから。でも脂肪が……脂肪が……。
体格を測る指数になるBMI値(体重(kg)÷身長(m)の2乗 標準は22 18.5以下は痩せ、25以上が肥満)では、まだかろうじて「標準」の範囲内に留まっているのだ。しかし、体脂肪率(30〜40代女性の適正体脂肪率は20〜27% 30%を超えると肥満)を見ると……。
ひゅるるるーーーーー(<心の中に木枯らしが吹いた音)。
そしてこの「肥満度」は、如実に「見た目」に現れるのである。よく、体重は普通かそれ以下なのに体脂肪率がやたら高い人を指して「隠れ肥満」などというとが、事ここに至っては、隠れてない隠れてない。まったく隠れてないよ!
途中、気付くきっかけは何度もあったのだ。
年に一度、里帰りをするたびに妹が「姉ちゃん、……太った?」と遠慮がちに聞いてきた。
初対面の人が挨拶のように言っていた「細いねえ」「スタイルいいねえ」という言葉が、いつの間にかまったく聞かれなくなった。
独身時代の洋服が軒並み入らなくなり、知り合いの若いお嬢さん方に貰ってもらった。
会うたびに「おっぱい柔らかそう! 触らせて〜」と自慢の巨乳を揉みたがっていた女友達が、去年の夏には「柔らかそう! 触らせて〜」と二の腕を揉んできた。
独身時代からの付き合いのある自転車友人が、去年、ふと気付いたように「あれ? 顎が二つになった?」と無邪気に訊いてきた(その場で殴った)。
ええ、もちろん、「これじゃイカン」と何度も思いましたよ。
結婚4年目あたりには、「痩せるお茶」ってのを飲んでみた。そしたら、お通じは良くなったものの体重にはさしたる影響なし。ところがいきなり生理が不順になってしまい、逆にヤバイんじゃないかと思って断念。
やっぱりウォーキングでしょ、と思って1日1万歩を目標に歩き始める。その翌日、股ぐらの粉瘤が再発、歩行できなくなり断念。
独身の頃にやっていた自転車でのロングランを再開しよう、と決意。ところが当時のウェアを数年ぶりに着てみると、これは何かの罰ゲームかと思うほどパッツンパッツンで血が止まりそうになって断念。
世間はダンベルダイエットがブームらしい! これならできそうだ。さっそく2kgのダンベルを友人に譲って貰い、張り切ってダンベル体操を始めたところ、3日で四十肩になってしまいドクターストップ。
神様はあたしに「痩せるな」とおっしゃってるの?
そんな折りも折りの、冒頭の義母の発言である。
そしてその時、ブティックの店長が「博子さんに似合いそうだから」と用意してくれたブラウスとスカートを着てみた。ら。
なんかね、デザインは良いんだけどね、生地も良いんだけどね、でも……。
この服、痩せてる人が着たらカッコイイだろうなあ。
と、思ってしまったのよ。
そしてようやく、ハタと気付いた。
どうしてあたし、こんな卑屈なこと言ってるの?
痩せてた頃には、こんなこと、考えたこともなかったのに!
こんな自分はイヤだ。こんなの、本当のあたしじゃないわ!
痩せなきゃ!
こうして大矢の減量大作戦は幕を開けたのである。