さ行の作家

家元探偵マスノくん笹生陽子・ポプラ社

 副題は「県立桜花高校★ぼっち部」。ぼっち、てのはひとりぼっちのことだが、その対義語は「リア充」なんだそうだ。

 桜花高校に入学した倉沢チナツ。けれど入学直後に食あたりでしばらく欠席してしまったため、クラス内のグループ分けに乗り遅れ、なんとなくひとりで過ごす日々を送っている。そんなとき、ひょんなことから入った部は、「自分ひとりの部の部長」ばかりが集まる「ぼっち部」だった。
 演劇部と袂を分かち、第二演劇部部長を名乗る女優志望のタカビー女・ユリア、エア彼女を持ちRPG的生活にどっぷりハマる戦士部のサトシ(別名・覇王丸豹牙……わはは)、ネットからしか参加しない謎のスカイプさん、そして探偵部部長を自称する華道家元の息子、マスノ。
 彼らが校内で見つけたり巻き込まれたりした事件とその顛末がユーモラスな筆致で語られる連作集。

 タカビーで女優きどりなユリアも、自分は戦士だというサトシも、まあ実際にいたとしたらかなり痛々しいキャラ。そりゃ友達もいなかろう。リア充死ね、って小説で出てくるの初めてみたよこのフレーズ。
 となると普通は彼らが社会性を取り戻し──つまりは「リア充」の良さを知り、という方向に進むのかと思うよね思うでしょう。ところが。大きく言えば確かに彼らは「リア充」に近づくのだけれど、でもキャラクタ自体はブレないのだ。女優きどりも、戦士きどりも最後まで変わらない。その痛々しいキャラクタのまま、リア充に近づくという、まあなんとも不思議な、けれど何だか嬉しくなるような展開なのだ。

 その秘密は「ぼっち部」にある。ぼっち部の理念は「孤独に負けない強い心」そしてコミュニティのNGワードは「一致団結」「和気あいあい」なのだ。つまり孤独上等、孤高万歳、なのである。だから彼らは、最終的には「リアル友達じゃん!」と突っ込まれるくらい仲良くなるのだけれど、それでも彼らは変わらない。自分が是とする自分を、まず貫く。

 なんかね、人間関係ってこれでいいじゃん、と思わせてくれるのよ。相手に合わせて他人に合わせて自分を無くしてまで築く関係にどんな価値があるだろう。ぼっち部の彼らは、自らを戦士といい覇王丸豹牙と名乗るサトシを「はいはい」と受け入れ、時にはツッコみ、それはそれとして普通の高校生同士の会話をする。お菓子造りが趣味の女の子と、覇王丸豹牙が、それぞれの言葉で会話をし、ちゃんと通じる。

 ……ていうかさ、いやあ、語り口調って大事だなあと改めて思うよ。書かれてる話そのものはね、特に捻ったミステリというわけでもないし、瞠目するような仕掛けがあるわけでもない、キャラ先行のYA小説。ただチナツの語り口調が、すごくいいのだ。ですます調で飄々としてて。リア充死ね、とブチ切れるサトシも、チナツが描写するとすっごくキュート。深刻なシーンも、痛々しい描写も、チナツのほんわかおっとりした口調で語られると、「ま、いっかあ」という気持ちになってくる。実際は、おっとり口調と見せかけて、相当辛辣なツッコミを入れてたりもして、それが妙におかしかったり。──というか、地の文はほとんど全編がチナツの「おっとりツッコミ」なんだよね。うん、このかたり口調は芸だわ。

 いかにもイマドキな感じのネット系用語やゲーム用語が頻発するが、それがまた妙なおかしみがあって、おばさんでもするするついていけちゃうぞ。丁寧なですます調とネット言葉のコラボがこんなに面白いとは。てかここまで書いて主役(の筈の)マスノ君の話がゼロなんだが、まあいいや。本書はチナツの語り口調と覇王丸君のお笑いキャラだけで充分だ。

 それにしてもこの裏表紙のバーコードの位置が! 覇王丸君がしっかりつぶれちゃってるじゃないかー。