ハ行の作家

ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけL・T・フォークス/ヴィレッジブックス


このタイトルを手打ちするときはカナ変換に気をつけないと「ピザまんの事件簿」という冬のコンビニのレジみたいな話になるので要注意。いや、そんなこたあともかく。なんかイカにもって感じのタイトルなので、最初はあまり期待してなかったのだが、これがアンタ、大当たり!

 主人公は刑務所から出てきたばかりの元大工。財産をすべて別れた妻にとられてしまったので、友人の家に居候しながらピザ店でデリバリーの仕事を始めた。ところがピザ店の同僚が殺されて……というお話。

 大当たりだなどと言っておきながらこんなことを書くのもナンだが、謎解きっていう点では、まぁ別にたいしたことはないのよ。でもね、裸一貫から出直す主人公の明るさと生活力、そして彼の周囲に集まる友人たちがすごくいいの。頼りになる同僚が紹介してくれたトレーラーハウスに友人と同居し、ピザ屋で働きながらも持ち前の大工の腕で友人の家にウッドデッキを造ってあげる。屋外で重機が動き、木材が組み立てられ、差し入れのビールが来て、太陽の下でみんなで小休止。慣れないピザのデリバリーも頑張り、変な客や同僚を軽くいなし、夜はビールを飲んで寝る。いいなあ。なんかすごくいいなあ。ちょっと巧く話が運び過ぎって観もあるにはあるが、それも含めて読んでいて実に心地いい。
 十代の頃、男同士の友達付き合いってのがとてもうらやましく思えた時期があった。女同士にはない、どこかあっけらかんとした、こだわらない付き合いっていうのが出来てる気がして。これを読んでるうちに、そんな気持ちを久しぶりに思い出したよ。

 つまるところ、これはまさに「男コージー」という感じなのだ。ちゃんとコージーの要素は満たしてるのよ。小さなコミュニティの出来事で、個性的な登場人物がそろってて、知り合い同士の中の事件で、でもってしっかり生活感があって、料理も出てきて、ユーモアたっぷりで。これであとは謎解きさえちゃんとしてれば完璧だった(<それは致命的なのでは?)。ここまで男ばっかりの、しかもどっちかってえとガテン系の、ゴツくて豪快で汗臭いコージーがかつてあったろうか! もはやコージーミステリは女だけのものじゃないのだ。本国では3作目まで出てるという。早く訳出してくれい。