アンソロジー

蝦蟇倉市事件(1)(2)伊坂幸太郎他/東京創元社


 風光明媚にして歴史ある地方都市、蝦蟇倉市。ここはなぜか不可能犯罪が頻発する都市でもあった──。そんな蝦蟇倉を舞台に書かれたミステリの競作アンソロジー。まえに祥伝社が同じような企画で「まほろ市の殺人」を出したけど、物語同士の相互リンクはこちらの方が楽しめる。何がいいって、カバー裏の地図がいいよ!

 執筆陣が1巻が道尾秀介、伊坂幸太郎、大山誠一郎、福田栄一、伯方雪日。2巻が北山猛邦、桜坂洋、村崎友、越谷オサム、秋月涼介、米澤穂信。

 どれが良いかってのは読者の好き好きだけど、まずいきなり道尾秀介「弓投げの崖を見てはいけない」にヤラれた。ドラマチックにしてテクニカル。意外性に驚き、ラストでまた驚き──でも一番驚いたのは巻末の著者の言葉を見たときだ。え、あたし何も疑問に思わずそのままスルーしちゃったけど、あ、そうか、幾通りか考えられるパターンがあるんだ。それからは読み返しいの地図見いの。

 そして次の伊坂幸太郎「浜田青年ホントスカ」で、いきなり「弓投げの崖を見てはいけない」に出て来たちょっとしたエピソードとのリンクがあったりして……こういうのって、つまりは遊び心なんだけど、それがいいよなあ。そうそう、「浜田青年ホントスカ」で印象深かったくだりをひとつ挙げておこう。「不可能犯罪って何ですか」という問いかけに続いて、こんな会話がある。

 「普通では不可能としか思えない犯罪のことですよ。鍵の閉まった部屋で誰かが殺されていたり、鍵の閉まったトイレで誰かが死んでいたり、鍵の閉まった納戸の中で五月人形が壊れていたり、そういった不可能状況での犯行を主に指します」
 「それだけ鍵が関係してるなら、鍵屋の仕業だと思いますよ」

 吹き出してしまった。わははは、そうだよなあ。2巻の越谷オサム「観客席からの眺め」にも、本格ミステリの設定自体を揶揄するような、あるいは非難するようなくだりがある。そうかと思えば、2巻の桜坂洋「毒入りローストビーフ事件」のような「パズルのためのパズル」に特化したような作品もある。これぞ本格という感じの大山誠一郎「不可能犯罪係自身の事件」(ここに登場するキャラクタはこの後に引き継がれて行く)、もはやバカミスだと笑ってしまった伯方雪日「Gカップ・フェイント」、この幅の広さもアンソロジーの魅力だ。

 そして掉尾を飾る米澤穂信「ナイフを失われた思い出の中に」で、「あっ」と飛び起きた(寝転がって読んでたんです)。うわあ、こんなところで再会できるとは! ここに出て来る登場人物は、あたしが最も好きな米澤作品の人物なのだ。シリーズ物ではないと思ってたので、まさかこんな嬉しいサプライズがあるとは思わなかったよ。この一編を読めただけでも2巻を買う甲斐はある。そうか、今はモンテネグロなのだなあ……