Nのために湊かなえ/東京創元社


 卓越したストーリーテリングでぐいぐい引っ張られた、としか言いようが無い。

 実は読み終わってから落ち着いて考えると、なんか放り出された感はあるし、張りっぱなしで回収されてない伏線はあるし(それとも伏線じゃなかったのかしらん?)、事故だか事件なんだか明確になってない箇所はあるし、なんかこう、落ち着くべきところに落ち着いてない状態で終わってしまったような、そんな釈然としない気持ちは残るのよ。ただ読んでる最中は、展開が気になってどんどんページをめくらされた。途中でやめられなかった。行き着く先を見たい、と強く思わされた。その「行き着く先」が気に入るかどうかは読み手の好みの問題。

 物語は、あるセレブな夫婦の自宅マンションで殺人事件が起きたところから始まる。死んだのはその夫婦。その場にいたのは夫婦の友人であり、そこに招かれていた杉下希美と安藤望、レストランの出張サービス係・成瀬、そして犯行を自供した男、西崎。彼らの事情聴取が第一章だ。

 そして時間はいったん未来に飛んだ後、過去へ戻る。そして読者は驚かされることになる。もともと友人だった安藤と杉下以外は、お互い大きな関わりはないとされた関係者たちの、思わぬ関係が徐々に明らかになるから。どこまでが計画だったのか。その目的は何だったのか。誰が知っていて誰が知らなかったのか──章が変わるごとに提示される新事実には、その都度「わあ」とのけぞり──そして、ワクワクした。「どうだ!」とばかりにこれ見よがしに新事実を明かすのではなく、ごくごく淡々と、当たり前のように時間を遡って「企みの過程」を描写する、そのさりげなさ。さりげないが故に、著者の「にやり」が見えるようで実に楽しい。構成のマジシャンと呼ばせて戴く。

 ただ、彼らの過去は、決して楽しいものではない。この物語に登場する若者たちは皆、ここではないどこかへ行きたいと思っている人たちばかり。逃避という意味ばかりではなく、もっと前向きに、そしてもっと切実に。足掻いている、と言っていい。その足掻きと、テクニカルな構成が実に巧くマッチしている。NのためにのNとは、誰の(あるいは何の)ことなのか、幾通りもの解答を楽しまれたい。

 それにしても──子供時代が決して幸せとは言えなかった彼らが足掻いて足掻いて、感情移入させるだけさせといて、その結末がこれかと思うと……話は冒頭に戻るが、「落ち着くべきところ」に落ち着かせて欲しかったよなあ、やっぱり。