福家警部補の再訪大倉崇裕/東京創元社


 実に映像的! ドラマになったのも頷ける。コロンボや古畑というヒット作の先例もあり、このパターンの倒叙モノってだけで安定感抜群なんだが、伏線の妙が抜群で、読みながら「そこかあ!」とのけぞること多々あり。ただ、福家警部補のキャラが「一見刑事には見えない」ってことで、毎回毎回プチ水戸黄門的(権威という意味ではなく、まさかそうとは思わなかったという脱力系)展開があるのが、続けて読むとやや面倒くさくも感じるんだが……単発なら気にならないんだけどね。ここらでちょっと違った趣向の展開があってもいいかな、とは思いましてよ。

 今回、「あ、そうか」と膝を打ったのは後書きだ。コロンボ同様、本書では福家の内面描写をしていないという話。これを著者本人に言われるまで気付かなかったあたりが我ながら悔しいのだが、なるほど確かにその効果たるや大きなものがある。たとえば東野圭吾の加賀恭一郎も、倒叙に限ったものではないけれど、内面描写をしないことで成功した例だし。内面を描写しちゃうとシリーズとして同パターンの話を続けられなくなってしまう、というのは考えればわかることで、長く続くシリーズには続かせるだけの工夫があるのだなあと感心した次第。手法といい、本格としてのレベルといい、コロンボや古畑が好きという人には安心して薦められるシリーズだ。

「マックス号事件」
豪華客船の中で起きた殺人事件。マヌケな理由でそこに居合わせた福家が、現場の不自然な状況に気付く。これが面白いのは、福家より先に犯人が自分のミスに気付くところ。

「失われた灯」
人気脚本家が骨董商を殺し、放火。手がかりはすべて燃えてしまったかに見えたが……。ああ、これは小説じゃなくて映像で見たいよ! 映像で見た方が「おお!」と思えるような話。ただしかし逆に映像にしちゃうとあからさまになっちゃうかな?

「相棒」
ベテラン漫才師の片割れが二階のバルコニーから転落死。事故か自殺に見えたものの……。これは謎解きよりも物語としての背景がすごく切なくて印象的。雨という天気は小道具としても必要なのだけど、それ以上に物語全体を彩るひとつの悲しい演出になっている。

「プロジェクトブルー」
おもちゃ会社の社長が恐喝者を殺した。しかしその計画は意外なところから破綻して……。っていうか、福家、趣味広すぎじゃないのか。「相棒」では演芸にめっちゃ詳しいところを見せたかと思えば、こんどは特撮かよ! しかもかなりマニアックだし。こんな変な個性を出しておいて内面描写がないんだから、そりゃやっぱ惹かれるわなあ。