ふたりの距離の概算米澤穂信/角川書店


 古典部シリーズ最新作。
 校内マラソン大会、そのゴールまでに
奉太郎は古典部のとある問題を解決する必要に迫られていた。春先に古典部に仮入部した大日向友子が、前日、いきなり入部しないと言い出したのだ。別に入らないなら入らないでいいんだが、ちょっと釈然としないことがある。学年別クラス別に時間差スタートをとるマラソン大会で、奉太郎は時間と距離を調整しながら関係者に話を聞く──。

 基本はマラソン大会のスタートからゴールまで。その合間に過去のエピソードが挿入される、いわば
『夜ピク』古典部バージョンとも言える設定。
 回想シーンで展開されるプチ日常の謎(新歓での製菓研究会の謎や、喫茶店の店名などなど)も、「どうだ!」というケレンがまったくなくて、とてもスタイリッシュに展開される。基本的に、あまり熱くならずサラリと躱す感じの推理。これもいつもの通り。

 でもってこのコーコーセーたちがもう、かわゆーてかわゆーて。
 米澤作品の高校生ってのは、どの作品でもそうなんだけど、「本当の自分」「理想の自分」「他人にこう見られたい自分」の3つの中で揺れてる感じが、もう若さならではでタマランものがあるのよ。この感覚、大人になってからも覚えてて、それをこうして青さ満載のキャラクタにできる(しかもその自意識をさらっと実にスマートに表現している)ってのは、すごいなあ。
 でもってその青さ、若さというのが、物語の核であり同時に謎を謎たらしめている要素でもあるわけで。だってさ、新入生が部活に入部するとかしないとか、自分が他人にどう見られているかとかって、まあぶっちゃけ四十路の目からみると、どーでもいいことだったりするんだよね。でも、そんなどーでもいいことが生活のすべてになっちゃうのが高校時代なのだよ。でもって、そんなどーでもいいことを、自分の美意識に合わせた形で解決しようとしちゃうのも高校時代なのだよ。そういうことをいちいち思い出せてくれるもんだから、おばちゃんたまりません。

 なんかぜんぜん内容の説明になってない気もするが、謎そのものが浮上する過程つーか、そのテクニックも著者の魅力のひとつだと思うので、先入観なしに読んで戴いた方が良いかと。若い読者には「自分に近いのに、でも決定的に自分とは違うかっこよさへの憧れ」を、中年以上の読者には「若いって渦中にいるときはわかんないけど、実はけっこう苦いよね」という思いを味わえるシリーズだと思う。

 それはさておき、その喫茶店のネーミングセンスは如何なものかと。