初恋ソムリエ初野晴/角川書店


  08年の最大の痛恨時が「年末のベスト投票の時期までに「退出ゲーム」を読んでおかなかったこと」だったあたしにとって、本書は是が非でも読まねばならないトッププライオリティの一冊。が、既に「このミス」の〆切はすぎてしまった……学習しろよあたし。その分「本ミス」でプッシュしておきますからね! 「週刊文春」の方は読者層が違う気がするので、本シリーズへの二年越しの情熱はすべて「本ミス」に注ぎ込みますことよ!

 というわけで「退出ゲーム」に続く、高校の吹奏楽部を舞台にした青春ミステリの連作シリーズ第2弾。へなちょこの吹奏楽部が、一作ごとに事件を通じて一人ずつメンバーを増やしていくという趣向だった前作を引き継ぎ、本作でもメンバーが増えます。謎を解く度にメンバーが増えるって、冷静に考えるとすごいな。

 何がいいって、まず語り手のチカちゃんがいいのよー。「ああ、こういう女子高生でいたかった!」と遥か三十年前に思いを馳せる四十路のおばさん読者。明るくてまっすぐで素直で、けっこう鈍かったり抜けてたりもするんだけど、いろんなことを笑い飛ばせる強さがある。なによりユーモラスで、当意即妙のツッコミには何度も笑わせてもらった。

 面白いのはチカちゃんだけじゃない。会話のひとつひとつ、描写のひとつひとつが実によく出来たセンスのいい漫才のような感じで、とにかくテンポがいいのだ。くすくす笑ったりぶはっと吹き出したり、とにかく読んでいて楽しい。その楽しさがイコール彼らの高校生活の楽しさを表しているようで、「いいクラブだなあ」とにこにこしてしまう次第。

 だがしかし。笑っていると背負い投げを食らうのだ。「退出ゲーム」でもそうだった。彼らの漫才に笑っているうちに、事件の真相にかくされた悲しみや傷がいきなりあぶり出され、ぞくりとさせられる。その対比がすばらしい。

 本格ミステリとしても秀逸。4つの収録作すべて「あ、もしかしてこういうことかな?」と読者にいい感じに推理させ、あたらずとも遠からずというところまで行かせておいて、その一歩先を見せてくれることに驚く。まったく予想だにしない意外な真相というわけではなく、いいセン行ってたんだけど肝心なことが分かってなかった、という実に気持ちのいい裏切られ方。これもまた、瑞々しい青春ミステリにふさわしい趣向だ。  とにもかくにもお勧め。「退出ゲーム」とセットでお勧め。今、いちばん次作が待ち遠しいシリーズだ。