カオスの商人ジル・チャーチル/創元推理文庫


 奥さん、ジェーン・ジェフリイ・シリーズの新刊が出ましてよ!

 コージー好きなら知らない人はいないだろう、ジル・チャーチルのこのシリーズ。その魅力と、あたしの思い入れは過去にもウザいほど書いているので繰り返さないが、デフォルメされているようでいて実はかなりリアルな主婦像、「いろいろたいへんなことは多いけど、今日も元気にいきまっしょい!」という主婦像が読んでいて実に楽しく、元気が出るシリーズ。主婦業頑張ろう、と家事の虫が湧くシリーズ。主婦業、捨てたもんじゃないよね楽しよね、と思えるシリーズ。しっかり繰り返しとるがや。

 とまれ、そう感じる読者は多く、「次作の翻訳はまだか」と読者から出版社に催促が入るほどの人気シリーズなわけだが、今回はもうひとつ注目点がある。前作「飛ぶのがフライ」を遺作にして亡くなった浅羽莢子さんの後を継いで、新谷寿美香さんが翻訳を担当されているのだ。これほどの人気シリーズで、しかも浅羽さんの名調子が読者の心にしっかり根付いているんだもん。新谷さんのプレッシャー、察するに余りある。やりにくかったろうなあ。
 翻訳家が変わったことによる違和感は、正直「無かった」と言えば嘘になる。特に読み始めてまもなく気になったのが、ジェーンやシェリイの話し言葉。「~だよ」なんて語尾、使ってたっけ? あたしの脳内では(たとえ現代日本では既に話し言葉として廃れていようとも)「~なのよ」「~だわ」っていう喋り方だと思ったんだがなああの二人は。
 ──と思ってシリーズ前作をぱらぱらめくってみた。ら、おやおや、「なのよ」「だわ」もあるけれど、「だよ」もたくさん使われてたよ。ごめんなさい新谷さん、濡れ衣でした。好きなシリーズだけに、けっこう自分でイメージ作っちゃってた部分があったのかもな。翻訳家が変わったという事実を知っていたから、「何か変わったはずだ」という先入観で読んでしまっていたのかも。シリーズ読者ってのは厄介なもんだね。

 とまれ、誤解だったとは言え最初感じた違和感も読み進むうちにすぐに慣れたし、全体的なテイストはまったく問題無し! 翻訳家が変わることによるイメージの変化については、マクラウドのシャンディ教授シリーズで「田村正和と吉幾三が同じ役を演じている」と感じたくらいかけ離れた訳を読まされケツの穴からエノキが生えそうな気分になったことがあるので、あれを思えば浅羽訳との差などまったく無いと言っていい。これは嬉しいことよ。ありがとう新谷さん。

 ただミステリとしては、シリーズ内でも屈指のグダグダぶりだな今回は。つか、あらすじも何も書いてないことに今気付いた。書影をクリックして書誌データ見て下さい。<そんなテキト~な。