メグル乾ルカ/東京創元社


 おお、ステキな連作短編だ。ファンタスティックで、でもリアルで、ちょっぴり怖くて、そして最後は暖かくて。
 物語の始まりはどれも、大学の学生部。ユウキという女性職員が、バイトを探しに来た学生に「あなたはこれよ。断らないでね」と勝手にバイト先を指定する。仕方なくバイト先に赴いた学生たちを、不思議な奇跡が待っている──というお話。

 通夜の夜に遺体のそばで一晩過ごす「ヒカレル」、病院の売店での商品整理をする「モドル」、飼い主の旅行中に飼い犬に餌をやる「アタエル」、雇い主が作った豪勢な料理をただ食べるだけの「タベル」、そして庭木の冬装備をはずす「メグル」。
 「ヒカレル」はホラーテイスト、「モドル」はミステリ、「アタエル」はサイコサスペンス、「タベル」はファンタジー、「メグル」は幽霊譚、というふうに分けようと思えば分けられる。けど細かくジャンル分けせずとも、ざっくりと「不思議で怖くて暖かい話」と表現するのが一番いいかも。

 ただ特記しておかねばならないのは、いずれも奇跡の物語であるにも関わらず、登場人物や物語の設定は実に地に足の着いたリアルなものであるということ。「ヒカレル」で描かれる、ひとりで死ぬ事の寂しさ。「モドル」「タベル」に登場する病気の現実。「アタエル」で明らかになる家族の問題。「メグル」で描かれる理不尽な運命。
 詳細を書くとネタバレになるので書かないが、誰もが向き合う可能性のある〈不幸〉に、ときには当事者として、そしてときにはちょっと関わるだけの間柄として実際に向き合ったとき、どんな葛藤を抱き、それをどう解決して行くかというところに本書の眼目はある。ファンタジックな演出は、それを後押しするに過ぎない。根っこがリアルで、ディテールが具体的だからこそ、ファンタジックな展開も生きる。特にお薦めは「モドル」。これは確か推理作家協会だか本格ミステリ作家クラブだかの年鑑にも捕られてたんじゃなかったかな。最もファンタジィ風味の少ない一編。

 個人的にのけぞったこと。5つの短編のうち3つに病気のエピソードが出てくるのだが、そのうち2つが、あたしのごく身近にいる人と同じ病気だったのだ。ひとつはメジャーな病気だけど、もうひとつはマニアックというかマイナーというか、けど難病指定されてる知る人ぞ知るって病気で。まさか自分に近いところにある病気が続けざまに連作短編集に出て来るとは。読む側として感情移入も一入。
 それが奇跡で治るものよりは、治らないという現実にちゃんと向き合うものの方が、個人的には読んでて納得できたな。ま、それは個人的な事情だけど。