長い廊下がある家有栖川有栖・光文社
11/01/04 格納先:あ行の作家

【長い廊下がある家】
道に迷った青年がたどり着いたのは、幽霊が出ると評判で雑誌のクルーが取材に来ていた廃屋だった。その地下道で死体が見つかる。けれどそこは密室のはずで──。
空間認知力が激しく劣っているので、脳内でいろんな図面がぐるんぐるんしている。いまだにちゃんと分かったかどうか自信がない。が、面倒なはずの設定でもくいくい読ませてしまうのがリーダビリティの高さだよなあ。
【雪と金婚式】
雪の日に起きた殺人事件。ある事に気付いた関係者が、それを警察に届ける直前に事故で記憶を失ってしまう。彼はいったい何に気付いたのか──?
まずこの設定が魅力的! 事件そのものじゃなくて、何に気付いたかを探るっていうのがいいなあ。そしてこの解決のロマンティックなことと言ったら。
【天空の眼】
心霊写真に怯える女子学生。しかしその背後にあったものは──。
トリックそのものより、なぜ心霊写真だなどという話になったのか、そちらの方に膝を打った。あ、トリックがダメってんじゃないのよ。あたしは物理的なトリックには惹かれないクチなのでそちらの印象が残りにくいというだけの話です。でもそういう読者であっても、トリックの萌えなさ加減を補ってあまりある動機、そして動機に気付く過程、そういうあたりでちゃんと楽しめる。
【ロジカル・デスゲーム】
火村だけの物語。過去に起きた事件について、父が話したいと言っている──そんな申し出を受けてとある人物の家に向かった火村だったが、そこで彼はある賭けをつきつけられる。死ぬか生きるか、確率の問題。火村が〈ロジカルに〉考えて出した答とは?
本作品集の中でイチオシ。これの何に感心したって、確率の問題として解くことは可能なのよ。中でも解説されてるけど、この賭けはそのスジではけっこう有名な話(何年か前になまもの日記でも取り上げたよね)で、自分が助かる確率を大きく上げる方法がある。けれど。その方法を知っているからと言って、事件が解決されるわけではないってことに注意したい。賭けに勝つことが目的ではなく、事件を解決することが目的なんだから。
でもそれは、ともすれば本格ミステリではないがしろにされがちな部分でもあるんだよね。論理的にWHOやHOWを突き詰めるのが本格ミステリなので、「論理はさておき皆でハッピーになろうぜ」みたいなケースは無視されちゃうことが、ままあるのだ。もちろんそれはそれで理解できる趣向だけど、まあ、なんつーの? オトナの解決っつーの? そういうのが要求される場って、断固として存在するじゃん、ねえ?
本編はそのひとつの形。「オトナの解決」を「ロジカルに」導き出している。もちろんこれも論理ゲームの一種ではあるけれど、勝負に勝つための論理ではなく、解決させる手段としての論理であるところに強く感じ入った次第。