何か文句があるかしらマーガレット・デュマス/創元推理文庫


 うきゃあ、面白い面白い! こういうシリーズを待っていた!

 ヒロインは三十代で、小さな国なら一国賄えるほどの財産を持つセレブのチャーリー。道楽の演劇修行でロンドンを訪れ、そこで出会った男性ジャックと恋に落ち、電撃結婚。ダンナ様連れで地元のサンフランシスコに帰ってきたのだが、新居が決まるまでと泊まった高級ホテルのバスルームに見知らぬ女性の死体があった。そして彼女が所属する劇団にも災難が相次ぎ、そんな中で夫の意外な面が出て来て──。

 本書を読んだときのワクワク感と興奮は、イヴァノヴィッチの
『私が愛したリボルバー』を初めて読んだときの興奮に似てる。それまでになかったヒロイン像、テンポがよくてしゃれた会話、個性的なキャラクタ、ぶっとんだ設定、けれどリアルな生活感と人間関係があって、ストーリーは疾走感に、読後は爽快感に満ちた物語。ご都合主義上等!
 
 等身大のヒロインが身近な場所で頑張る話も大好きだが、こういう桁外れの金持ちが金持ちならではの力を使って問題に取り組むというのもまた爽快で面白い。そして金持ちというのは、問題解決の手段に金銭的な制約を受けないというだけであって、彼女の価値観や考え方や感覚はとっても身近。そのバランスが絶妙だからこそ、読者は「わかるわかる」と頷く部分と「わはは、すげーな」とひっくり返る部分の両方を楽しめる。
 チャーリーは買い物好きで、料理が嫌い。好きなものを好きなレストランで好きなときに食べられる財力があるんだから、料理なんてする必要がなぜあるの、てなもんだ。金さえあればあたしもそう思うよ。
 その一方で、結婚したら次は子ども、と当たり前のように言う友人にカチンと来たり、夫が妻をコントロールしようとしたり命令したりすれば侮辱と受け取るという、現代女性として思わず納得の感覚を持っている。このあたりも読者の共感を呼ぶところ。

 まあ、その向こう見ずさで誘拐犯を追いかけたりしてちょっとピンチになったりもするんだが、そこはそれ、お約束だしね。それに決してバカではないので、状況を見て自分でコントロールする術も知っている。自分に非があることはちゃんと認め、改めるよう努力する。三十代の大人の女性だもの。それがまた心地良い。

 チャーリーを巡る登場人物たち──夫のジャックはもちろん、叔父のハリーや友人のアイリーン、ブレンダ、サイモン、ボディガードのフランク、家政夫(でいいのかな?)のゴードン、夫の同僚のマイク、ヤハタ警視など、それぞれも個性的なだけでなくプロフェッショナルなのがいい。仲良し友達でわいわいというだけじゃなく、皆自分の分野に一家言持っている。キャラ小説と言って言えないことはないが、そのキャラが自分の生活をきちんと持ってる大人なのがいいんだよね。

 そして肝心のミステリ部分も(本格ではないので推理は無理だが)サスペンスと意外な展開に満ちていて飽きさせない。これは楽しみなシリーズが登場した。これまで創元推理文庫のシリーズでは、ジル・チャーチルとコリン・ホルト・ソーヤーが不動のTOP2で第3位にエレイン・ヴィエッツがつけてたんだが、正直、ヴィエッツを抜いたね。追いかける。断固追いかけるぞこのシリーズ。