おさがしの本は門井慶喜/光文社


 市立図書館を舞台にした連作ミステリ。主人公はリファレンスコーナー担当の司書・和久山。彼の所に持ち込まれる本探しの依頼がそのまんま謎になるという趣向で、楽しい楽しい。「人形の部屋」で見せたペダントリーも、今回は文学方面に特化した分、更に磨きがかかってるぞ。

 「図書館ではお静かに」はレポートの資料を探しに来た女子大生、「赤い富士山」は五十年前から図書館に置きっぱなしの私物の本を探して返して欲しいという依頼。「図書館滅ぶべし」は“図書館閉鎖論”を持つ新館長からの本探しの挑戦。「ハヤカワの本」は図書館の蔵書を返却しないまま夫が亡くなったというおばあちゃんの話。そして「最後の仕事」は図書館存続をかけて市の公聴会で演説をぶつ一方、市会議員からの思い出の本探しの依頼──という五編を収録。

 いやあ、実は「図書館ではお静かに」を読み始めたとき、最初に感じたのは主人公・和久山に対する「こいつナニ様?」という反発だったんだよね。森鴎外の本名・森林太郎を知らずに「シンリン太郎」と口にした女子大生に対し、「浅学菲才の徒」「十ページ以上ある本を読み通したことがあるだろうか」などと考えるあたりに初手からカチンと来てしまったのだ。書評なんて仕事をしてるあたしが口にするセリフではないかもしれないが、別に本をどれだけ読んでるかなんて、人の価値にはあんまり関係ないだろー。寧ろ読書家であることが何かスペシャルなことであるかのように思う方が歪じゃないか……などと考えていたわけよ。彼女は森林太郎は知らなくても、和久山の知らない「本以外のこと」をたくさん知ってるんじゃないのか?と。

 ところが読み進むにつれて笑いが漏れた。そういう鼻につく和久山の態度が、ちゃんとウッチャリを食らうのだ。ベタではあるが気持ちいい。気持ちいいが故に、第二話以降のペダントリーも、鼻についたりカチンと来たりすることなく、寧ろ和久山の「書物に対する思いと矜持」というふうに受け取れるようになった。巧いなあ。そうやってタクトを一回逆方向に大きく振っているからこそ、その後が映えるんだな。  実際の図書館員がリファレンスコーナーでいかに奮闘しているかというのは、縁あってあたしもその一端を知っているので、本探しの道筋はとても興味深く楽しくエキサイティングだった。本探しってホントに推理なんだよな、という思いを強くする。

 ただちょっと気になったのは、「赤い富士山」なんだよね。私物なら背表紙の図書シールや蔵書印の類が無いはずだから、すぐに見つかると思うんだけどなあ……。それとも五十年のうちに蔵書にされちゃったのかしらん? まあ、たいした問題ではないし、そこらの説明をあたしが読み落としてるだけかもしれませんが。