屍の命題門前典之/原書房


 うっわああ、すっげえチカラワザ!! 豪腕っつーか無理矢理っつーか、いやあ、よくこんなこと考えたなあ。なんかもう、笑ってしまうほどにチカラワザなんだもん。つか、実際に笑っちゃったもん。<誉めてます。

  亡き大学教授の山荘に集まった6人。もてなす側の教授夫人が参加できなくなったため、6人だけで過ごすことになる。教授の趣味だった昆虫標本を飾った部屋や、屋敷の前に設置されたギロチン台など、どうも気味が悪い。そして雪が積もり、電話は通じず、車のタイヤは切り裂かれ、吹雪の山荘にて次々と人が死に──そして誰もいなくなった……

  これでもかーーーっ!と言うくらいの典型的な吹雪の山荘モノ。足跡の無い雪密室ありぃの、切断された死体ありぃの、伝説が伝わる湖ありぃの、奇妙な館ありぃの、そして誰もいなくなりぃの。「まだ来るか!」と思うほど、畳み掛けるような本格のガジェット。いやもう、お好きな人にはたまらんのではないかしら、これ。

  でもってこのチカラワザぶりには……わははは、だめだ、やっぱ笑いが漏れてしまう。著者の意図はさておいて、これは「ケレンたっぷりの本格ミステリ」でしょうかそれとも「バカミス」でしょうかというアンケートをとったら、五分五分か、もしかしたら「バカミス」の方が多くなるんじゃないかしらん、というくらい微妙なラインなのよね。絵面を想像するとスゴいんだもん。特に、雪のつもった庭で殺されて、周囲に足跡がなかったという一件の真相なんて、その状況をビジュアライズしたらかなりのギャグ映像になるよ。死体移動の真相も……ものすごい状況なんだけど、絵を想像すると「いや、ないって! それはなんぼなんでも無理だって! ちょっと落ち着け!」と探偵役にツッコミを入れてしまった。いやあ、演出によってはとてつもなくホラーなシーンになるところなんだけど、恐怖感を感じる前にツッコミを入れてしまうってのは、やっぱ、バカミス寄りってことかと。あ、サプライズは充分ですよ。ホントに驚いた。いろんな意味で。

 大掛かりなトリックというか、チカラワザというか、豪腕というか──そういうトリックものが好きな人は読み逃しちゃいけません。あと、バカミスが好きな人も。でもね、見た目のケレンを除いて真相の骨格だけ見ると──ものすごく緻密に練られてるんだよ、これ。単なる豪腕バカミスってだけでは、ないようですぜ。