捨て猫という名前の猫樋口有介/東京創元社


 久しぶりだー久しぶりの草平ちゃんの長編だー。おおお、草平ちゃんがケータイ(作中表記はケイタイ)持ってるよ! 仕事にパソコンを取り入れようなんて考えてるよ! でも初登場の90年(19年前!)から変わらず38歳のままだよ! つか、いつの間にか草平ちゃんのトシを超えてしまったのねあたし……。草平ちゃんがあたしより若いだなんて(愕然)。

 気を取り直して。元刑事で現在はフリーライターの柚木草平。別居中の妻と娘(小6)あり。ある日、草平が契約している雑誌の編集部に妙な電話がかかってきた。先頃起きた女子中学生の自殺事件は実は自殺ではない、柚木草平に調べさせろと言うのだ。不審なまま件の女子中学生のことを調べ始めた草平は、一風変わった少女と出逢う──。

 出て来る女性が軒並み美女で、それに対して飄々と“口説き芸”を見せる草平ちゃんという図式は相変わらず。でも読者は草平ちゃんの身持ちの堅さを知っていて、ホントにそんな関係には絶対ならないって分かってる。女は冴子さんだけ(つか、別居中の奥さんの存在があるのに“冴子さんだけ”って表現もヘンだが)なのが草平ちゃんの魅力なのだよな。

 事件そのものはとても後味が悪い。印象的な場面で雨が降るせいか、全編通してずっと雨に濡れているような、そんな湿り気と薄ら寒さがある。ここで起きた事象だけをすくいあげればホントに陰々滅々としちゃうような話なんだけど、そこにいつもの草平ちゃんを配することによってメリハリをつけ、時には和ませるという効果は確かにある。柚木草平というキャラクタの持っている単体としての魅力ももちろん相変わらずなんだが、むしろ物語全体に及ぼす効果の方が強く印象に残る。主人公のキャラクタにはこういう使い道もあるのだ。ただまあ、もて過ぎだよなあやっぱり。わはは。

 さて、上で「変わらず38歳のままだよ!」と書いたが、実はシリーズ初期と比べるとその変化ははっきりと見てとれる。初期は軽妙なハードボイルドの中にペーソスを滲ませた、というイメージだったが、本書はハードボイルドの設定を借りた人情話のように感じられることが多かったのだ。著者が時代もの(これがまたいい!)を書いているせいもあるかもしれない。そしてこの変化は、悪くない。著者も読者も年齢層が上がったせいもあるのだろうけど、結構草平ちゃんに似合っていると思うのよ。