空想オルガン初野晴/角川書店

 来たよ来たよシリーズ3作目だよ!
 舞台は東海地方にある高校の吹奏楽部。体育会系な中学時代を送っていた穂村千夏が、心機一転、女の子らしくフルートを吹くんだと吹奏楽部に入ったはいいが、部員はたった3人。そこから紆余曲折と謎解きを経て次第に部員を増やしていく──というエピソードが「退出ゲーム」「初恋ソムリエ」の2冊で綴られてきた。
 この2作がもう、素晴らしくて。ときには緻密に構成され、ときには豪腕でねじ伏せる本格ミステリと、朗らかな中に苦みを含んだ青春小説が、ヒロイン千夏ちゃんのポップ&当意即妙の語りでくるまれる。サプライズもキャラクタもナラティブも、どこをとっても随一。

 そして第3作だ。これまでは「謎を解けば部員が増える」という、そりゃいったい何のRPGだというような設定がベースにあったが、今回はついに大会にエントリーするということもあり、ちょっと趣向が変わった。第一話「ジャバウォックの鑑札」は県内での地区大会が、第二話「ヴァナキュラー・モダニズム」は県大会までの準備期間が、第三話「十の秘密」は県大会が、そして第四話「空想オルガン」では東海大会が舞台となる。さすがに事ここに至っては、一編ごとに部員が増えるというようなことはない。代わりに「大会」というこれまでになかった物語と、四話全編を貫くひとつの物語がある。

 「ジャバウォックの鑑札」は迷子の犬を青年と少女がそれぞれ「自分のものだ」と主張する話。決め手になる〈あるモノ〉は暗号ミステリとして実に秀逸。シンプルだが、あっと言わされた。
 「ヴァナキュラー・モダニズム」にはハルタの姉が登場。ハルタのアパート探しの過程で、夜な夜な謎の音が響くという建物の謎を解く。これ、映像で考えるとものすごいぞ。ある種、館モノと言ってしまっても良い。そして近年の館モノの短編ではピカイチ。あんま短編で館モノってのも見ないけどさ。
 「十の秘密」は県大会のライバル校の話。独特のコスチュームで揃え、奇妙な秘密を共有する女の子たちに隠された悲しい真実。
 そして「空想オルガン」は、そこまでの話にちょこちょこ顔を出していたある人物の物語になる。

 一話と二話が暗号&館という本格のモチーフを使っていたのに対し、三話と四話は〈洞察〉の物語だ。これがまた、小さなエピソードがいちいち味わいがあって、小粒ながら胸にズンと来る。メインの謎もそうなんだけど、それ以外の謎とは言えないような小さな謎解き──なぜ少人数でオペレッタの演奏が可能なのかとか、芹沢が吹奏楽部の応援に来ていることの意味とか、オルガンリサイタルの意味とか──そういう部分に「えっ」と思わされ、「ああ……」と溜息をつく。

 文章も巧いんだよね。あ、違う、とにかく何はさておき、文章「が」巧いんだ。語彙の選び方が秀逸で、演出に合ったセリフ回しがわざとらしくなく、自然に出てくる。言葉にもエピソードにもムダなものは何ひとつないのに、遊びがある。だから読んでいて楽しく、くいくい読めて、笑って、そして笑っているところに不意打ちで驚きがやって来る。

 このシリーズ、まだ終わらない。なんとなく一区切りっぽい感じにも見えるけど、チカちゃんとハルタの恋にも決着はついてないし、草壁先生のこともわからないし、きっと続いてくれるはず。待ってる。待ってるぞ!