ゲゲゲに騙されてはいけない

 『ゲゲゲの女房』も放送最終週に入り、何かにつけてホロリとさせられているわけだが。でもって全国の視聴者も、今日の「夫が妻に感謝の花束を渡し、姑も娘たちもにっこり」てな場面で感動したことと思うが。
 騙されてはいけない。
 何年も、何十年も、毎日毎日頑張って来て、それに対して何十年も経った後に一度だけ労われ御礼を言われる、というんじゃ、割に合わないこと甚だしい。

 前に、何かのインタビューで道行く中年・壮年男性に「奥さんに感謝の気持ちを伝えたことはありますか?」と尋ねるというものがあった。驚いたことに、多くの男性が「照れるから、恥ずかしいから、あらためて感謝の気持ちを伝えるなんてことは、していない」「口にしなくても、わかってくれてると思う」と答えたのだ。

 なーに言ってんだ。

 あんたらは子供のとき、「親切にしてもらったり、助けてもらったりしたら、ありがとうと言いましょう」と習わなかったのか? 「おはよう、ありがとう、しつれいします、すみません」のオアシス運動を小学校でやらなかったのか? お店で買い物したときに店員さんが「言わなくてもわかってるだろう」と「ありがとうございました」と言うのを一斉にやめて無言で商品を差し出したとしたら、そりゃずいぶん感じの悪い店になるとは思わんか?

 以前読んだ本に、こんなのがあった。
 我の強いお姑さんに仕えるヒロインの話。嫁としてどんなに頑張っても褒められたことがなく、あら探しをされては嫌味を言われる。良いことはやってもらって当然、悪いことだけをあげつらわれ、文句を言われる。そのお姑さんが年を取って、身の回りの世話をヒロインがするようになっても、その傾向はかわらない。むしろお姑さんのわがままはどんどんひどくなる。
 ほとほと疲れたヒロインが自分を責め、もう投げ出したいと思ったとき、「未来が見える」という人物が、お姑さんは内心ではあなたにとても感謝していて、亡くなる直前にあなたに「ありがとう」って言うよ、と伝えるのだ。「それであなたの長年の苦労は報われるよ」と。それを、さも「いい話」のように書いてあった。

 アホか。

 たとえ十年後に報われたとしても、それまで悩み苦しんだ十年間は帰ってこないじゃないか。辛い十年のあとで幸せな一瞬がくるより、十年ずっと幸せな方が良いに決まってるじゃないか。報われる十年先が来るまえに、逃げ出したり、ブチ切れて刃傷沙汰に及んだり、自殺したりしたらどうすんだ。「十年後にありがとうって言うつもりだったんです」てのは何の救いにもならんだろう。
 心の中でどんなに感謝していても、言葉や態度に表さなければ、それは感謝してないのと同じなんだから。「ありがとう」と「ごめんなさい」は人間関係の基本。その都度ちゃんと言えよ。

 『ゲゲゲの女房』を見た男性陣が、「妻には何年かに一度、優しくしてやればいいんだな」などと思わないことを祈るばかりだ。それはもちろん、女性側も同じ。家族のために頑張ってくれてる夫や親に対して、妻や子供はそれを当たり前と思ってはいかんのよ。