脳出血後遺症

発作=地震説

 ダンナのリハビリ通院の日。
 リハビリ前の診察で、主治医の先生に昨日の出来事を話し(昨日のうちに一度電話で伝えていたので話が早かった)、大学病院からの手紙を渡す。主治医の言葉は、昨日の大学病院の先生と同じ。昨日点滴を受けて薬を処方されて、それでそのあと再発してないので、同じ薬を続けてみましょうということになった。
 
 癲癇の薬はたくさんあって、合う薬が見つかれば
発作は抑えられるという。いやもう、神様仏様薬様な気分。全世界の薬メーカーと研究者に心からの感謝を捧げたい。
 ということで、まずは今の薬を続けてみて、2週間後に血液検査をしましょうと言われた。それで薬成分の血中濃度が一定量に達してるかどうかを判断し、達してるようならOK、足りないなら増やす、多いなら減らす、効果がないようなら薬を替えるなどの対応をとるそうだ。
 なるほど、定期的に「薬が効いてるかどうか」を数値で確認できるというわけか。

 先生曰く、「薬を飲んでても発作を起こすケースもないわけではない。でもそれはどうしようもないことだからね、
癲癇では死なないから。薬をちゃんと飲んで、睡眠不足にならないよう規則正しい生活をして」とここでも昨日と同じことを言われたよ。

 リハビリでは、発作のことよりむしろ「大矢さん、その顔は!」とお岩さん状態が話題の的だったらしい。ただ、CTでは見えない部分の脳の異常という可能性を考え、療法士さんが麻痺の度合いの変化を丹念に見てくださった。その結果、「肋骨打って痛いのと疲れてるせいで動きは悪いけど、麻痺自体に悪化は無い」という診断。一安心。

 そしてST(言語療法)の時間は、「癲癇って脳がシェイクされるわけだから、失語症が亢進しちゃうことがある」ということで、言語聴覚士さん──拙著に出て来た羽柴先生(仮名)がいろいろテストしてくださったらしい。その結果、大きな問題はなし。ただやはり昨日の今日なので脳も疲れてるらしく、聞き取りと情報処理のレベルがやや下がってると言う。しばらくはそのつもりでコミュニケーションをとってください、とのこと。
 本人も、「なんか今日は言葉が入ってこないなあ」とちゃんと自覚できてるらしい。先生も「昨日、脳がシェイクされたばかりなのに、なぜそんなに落ち着いてるの?」と逆に不思議がってたくらいなので、大丈夫でしょ。

 ということで大過なく通常生活に戻ったわけだが、そうは言っても、やはり心配の種は尽きないわけで。大学病院の先生も主治医の先生も異口同音に、「
発作で死ぬことはないけど、突然意識を失うので、倒れて頭を打つとか、入浴中で溺れるとか、車を運転中で交通事故を起こすとか、食事中で食べ物を詰まらせるとか、そういう二次的な状況の方に危険がある」とおっしゃったが、でもさあ、風呂や食事をやめることもできないし、じゃあどうすりゃいいのよ?
 やっとダンナに留守を預けて、一晩出かけたりが出来るようになってたのに、前に逆戻りかなあ、できるだけ離れないようにした方がいいのかなあ、でも離れないって言っても実際にはそんなこと不可能だし。
いつどこで起きるかわからない、そもそも起きるかどうかもわからないことに、対処のしようなんかないじゃないか。心配や不安といった感情の問題に折り合いをつける方法はあるのかな?

 で、知り合いにも心配をかけたので、ツイッターに書いたわけですよ。「発作自体では死なない。怖いのは転んで頭をぶつけるとか入浴中で溺れるとか、そういう二次的な状況の方」と。
 したらばさ! 
ヨウゾウさんのこのリプライに蒙が啓かれた。

 
地震で「揺れたことで人が死ぬ」ことがないように、ですね。

 わあ、そうか、そうだよ! 地震と同じだよ!
 起きるかもしれないし起きないかもしれない。起きるかどうかはコントロールできない。でも、起きても、それ自体が原因で死ぬってことはない。ただ起きたとき、何をしてるか、どこにいるかで運不運がわかれるだけ、と。

 地震と癲癇、まるっきり一緒じゃないか!

 火を使ってるときに地震が来るかもしれない。足場の悪いところにいるとき、地震が来るかもしれない。海水浴の最中に地震が来て津波に遭うかもしれない。だからって、料理もせず階段も登らず海にも行くのもやめる、なんて人はいない。
 自分が留守をして、家族がひとりでいるときに地震が起きるかもしれない。だからって、それが心配で、四六時中家族と一緒にいて、家から一歩も出ず、トイレにも風呂にもはいらないなんて人はいない。

 なあんだ、そう考えればいいんだ!

 もちろん健康な人よりは、罹患者の方がリスクは高い。でもそれって、ヨーロッパに住んでる人より日本にいる人の方が地震被災のリスクが高い、てのと同じじゃない?

 この
ヨウゾウさんの一言で、ものすごーーーーーーーーーーーく気持ちが楽になった。
 とりあえず、薬の効き目についてある程度の目処が立つ2週間後までは、長時間の外出は控えよう。でもその間再発がなければ、またちょっとずつ自立作戦を復活させるのだ。外出中はマメに連絡をとるとか、いろんなサービスを利用するとか、方法はいろいろあるさ。他人様を巻き込む恐れがあるのは車の運転だけど、これは今は既にやめてるから問題無し。
 癲癇の経験者は少なくないという。でもみんな薬を飲んで普通に生活してるんだもんね。やることをちゃんとやって、あとは気楽にいこう。

 ダンナ本人も「これで薬を飲めるようになったんだから、今後は安心。可能性を知らないまま、薬も飲まず、いきなり危ない場所で倒れるリスクが減った」という(意味のこと)を言ってます。あたしもノンキな方だと思うけど、ダンナもダンナで前向きだなあ。

 というわけで、ご心配下さった皆様、お見舞いツイートを下さった皆様、ありがとうございました!

初めての癲癇発作

 びびびびっくりしたー!

 早朝のラジオの仕事を済ませ、街でなんだかんだと所用を済ませて帰宅したのが午前11時。
 いつものようにダンナはひとりで起きてひとりで朝食を支度し、食べ、片付け、薬を飲んで、そのあとは自室でパソコンで遊んでいた。その間、何度かメールをやりとりしてたが、いつもとまったく変わりなかったのよ。

 帰宅して、あたしは昼までに送らねばならない原稿を仕上げ、編集さんへのメールを書いていた。そのとき。ダンナの部屋の方から「ああああああああああ」という声がした。
 バランスを崩してコケるときなど「わぁー!」という悲鳴をあげることはあったが、そのときの声は、まるで扇風機に向かって「あー」と声を出したときのような、妙に震えるような声。何が起きたかと、ダンナの部屋にダッシュした。

 眼に飛び込んできたのは、床に倒れたダンナ。「わあ、コケたかな」と思って助け起こそうとしたとき、全身が激しく痙攣しているのに気付いた。健康な左半身も妙に硬直してる。荒い呼吸はあるけど、呼びかけても反応がない。

 何が起きたかわからないのだが、とっさに考えたのは、嘔吐して喉につまらせるとまずい、ってこと。痙攣を続けるダンナの体を少し持ち上げ、体の下に膝を差し込み、どうにかこうにか横を向かせる。その姿勢のまま、手を伸ばして電話をとり救急車を呼んだ。
 いやあ、このあたり、我ながら慣れたもんだよなあ。3度目だしな、救急車呼ぶの。

 痙攣が激しくて家具に頭をぶつけそうだったので、とりあえずクッションをかませる。眉間の近くから血が出ていた。これは倒れるときにぶつけたんだろう。左目の下にもぶつけたような痕が出ている。
 そうしてるうちに次第に痙攣はおさまってきた。が、いまだに意識はなし。いびきのような呼吸。ときどき眼を開けるが呼びかけには反応せず。何なんだろうなあ、これ。とりあえず、救急車の到着に備えて玄関の鍵をあけ、通路を確保する。

 救急隊の人たちが来てくれたので(4人も!)、2年前に脳出血をやったこと、その後遺症で右麻痺と失語があることを伝え、お薬手帳と保険証と障碍者医療証を用意。ダンナのiPhoneと眼鏡も鞄に入れた。脳出血のときにかかった大学病院が受け入れてくれることになったので、その病院のカードも用意。火の元と戸締まりの確認。

 そしてこの間に、さっき書いた原稿を編集さんに送信。←これは自分を褒めていいと思う(笑)。
 今だから言えるが、実はこの原稿、お気楽介護についてのエッセイだったため、万一のときは全没を覚悟したのであった。そういう事態にならずに済んで良かったあ。

 救急車の中でモニタを確認すると、血圧は正常。まえに脳出血をやったときは救急車内で血圧200を超えたので、脳出血の再発ではないと考えられる。ちょっと安心。ダンナは救急車内で意識を取り戻した(ただあとで訊くとまったく覚えてないらしい)が、呼びかけへの反応は鈍い。
 このとき、救急隊の人に「失語症はどの程度ですか」と訊かれたことが印象深い。つまり、ダンナの失語症レベルを知らない人にしてみれば、今のこの反応の鈍さが「いつもどおり」という可能性もあるわけだ。正常なのか異常なのか、麻痺や失語がある場合は、いざというときのために第三者にも常態がわかるような手段が必要だなあ。

 病院につき、処置だの検査だの、お医者様から倒れたときの様子の聞き取りだの。
 CTの結果、少なくとも脳内に新たな出血は見られないってことで、再発の恐れはなくなった。良かったー、それが何よりだよー。でも、だったらこれは何?

 「癲癇(てんかん)の発作だと思われます」

 ああ、これが!
 その途端、思い出した。脳出血をやったとき読んだ本の中に書いてあったよ。脳卒中経験者は、脳細胞の死んだ部分が傷となってるので、後遺症として癲癇を起こすケースがある、と。お医者様も同じ説明をしてくださった。読んでたのに忘れてたよ! なんのための勉強か。
 それにしても、発症から2年も経ってから起きるものなんですか、と尋ねると、発症後すぐに起こす人もいるし何年も経ったあとで起こす人もいるとのこと。へえええ。

 痙攣を抑える薬を点滴してもらい、当座の薬の処方箋を貰った。この時にはダンナの意識もほぼ正常に戻っており、トイレに行きたいだのなんだの言っていた。そして倒れたときにぶつけたと思しき顔面の腫れと皮下出血がえらにことに(笑)。
 処方箋を貰って気付いた。普段飲んでる薬を、明日とりにいかねばならない。そのあたりの兼ね合いはどうなるのかと思い、「明日がリハビリ病院での主治医の診察の日で、薬を出してもらう予定なんですが」と伝えたところ、主治医宛への手紙を書いてくださったではないか。え? あれ?

 「あのー、ってことは、明日は普通に外出して、リハビリも出来るってことですか?」
 「ええ、大丈夫ですよ」
 「今日このまま入院するなんてことは」
 「点滴が終わったらお帰り戴いて結構です。すぐにまた発作が起きるようなら入院して
  一晩監視した方がいいですが、その心配はあまりいらないと思いますよ。
  明日、リハビリに行かれたときに主治医の先生と薬のことを相談してください」

 そんな程度のことなのかあ。なんか拍子抜け。
 お医者様のお話のポイントは、

 ▽癲癇の発作そのものは数分で治まるし、
命にかかわるものではない
 ▽15分以上続くようなら危険なので救急搬送の必要があるが、大抵はすぐ治まる。
 ▽ほとんどの人は
薬で予防できる
 ▽睡眠不足やアルコール、暗い部屋で点滅するテレビ画面が誘因になることもあるが、
  ぶっちゃけ何がきっかけになるかはまったく予測できないので、
  薬をちゃんと飲んで規則正しい生活をするくらいしか出来ることはない。

 そして気をつけるのは、「発作で死ぬってことはないけど、突然意識を失うので、倒れて頭を打つとか、入浴中で溺れるとか、車を運転中で交通事故を起こすとか、食事中で食べ物を詰まらせるとか、そういう
二次的な状況の方に危険がある」ということ。なるほどねえ。
 だからって風呂に入らないとか食事をしないなんてことはできないわけで。意識的に控えられるのは運転くらいのもんだ。だからできることは、
ちゃんと薬を飲んで予防に努めることと、万一発作が起きたときに適切に対処すること。それがすべてなんだな。あ、起きたときの対処ってのは、火や金属など危険なものを遠ざけるとか、状況によっては気道を確保するとか、ゆすらないとか、大声を出さないとか、そういうことね。

 というわけで、救急搬送されてから4時間後には自宅に帰ってきました。
 発作そのもので脳が疲れてるのに加え、転んだときの顔のケガ(そりゃもうお岩さんのように!)や、肋骨もちょっとやっちゃったらしく、頭も体も消耗していたためダンナはそのまま熟睡。
 ベッドで横になってくれてる分にはたとえ発作が起きても「倒れてぶつける」「溺れる」心配はないので、その隙にあたしは買い物だの家事だのを済ませる。全て世は事も無し。

 夜、食欲あるかなー、食べられるかなー、と思ってダンナに声をかけると、起きてきた。そして食事をしながらテレビをつける。

 「
ゴチの新メンバー、誰だろ」

 わ、こりゃ心配いらないわ(笑)

失語'11

 脳出血から2年と1ヶ月、ダンナの失語症は当初から見れば長足の進歩を見せている。長い文や早口や急な話題転換にはついていけないが、ゆっくり短く話せば大抵通じる。発語の方も迂言(特定の単語が出ないときに他の表現を使って説明すること)を駆使しまくってるし。

 ただ、言葉ってのはただ意志を伝えるだけのものではなく、なんつーか、使う語彙や表現によって、好むと好まざるとにかかわらず、感情や評価も伝わるもんだよね。たとえば「何か飲む?」という問いに対して「コーヒーがいい」と「コーヒーでいい」では、受ける印象がぜんぜん違う、みたいな。
 こういう細かい機微といったものは、ダンナにとってはかなり難しいところなので、受け手としてはできるだけ「印象」を排して意志のみを受け取るよう努めなくてはならない。ちょっとした言い方でカチンと来ることがあっても、それはダンナにとっては本意ではなく、ただ要点を伝えるために一生懸命言葉を探した結果なのだと。それを分かってないと、余計な軋轢を生んでしまいかねないわけだが。

 でもさあ、先月30日、あたしが文春のI井さんと打ち合わせを兼ねた食事に行っていたときのことを表現するのに、

 「ほら、あの日。
あんたが、文春の人を、ムリヤリ飲みにつき合わせた日

 っていう表現は、どー考えても何か込められているとは思いませんかどうですか。

年賀状の落とし穴

 わー、もう19日なのにまだ年賀状何もやってねええっ!
 と焦りまくっていたらダンナが「宛名のチェック、やるよ」と声をかけてくれた。ああ、それは助かる。

 ダンナの患っている失語症というのは、ただ単に言葉が不自由になるってだけじゃなくて、処理速度が遅くなったり、マルチタスクが苦手になったり、集中力が続かなくなったり、注意力が落ちたりという、複合的な障碍がついてくる。これを高次脳機能障碍と言います。
 ただ、気長なリハビリでかなりの分、回復する。パソコン使ったりってえのも脳への刺戟には良いので、時間かかってもいいからダンナに任せられれば、あたしも楽だしダンナのリハビリにもなるって寸法だ。てか、高次脳機能障碍のはずのダンナの方が五体満足のあたしよりパソコンには強いんですけどね。

 で、「このソフトを使えば、こうで、こうなって」と説明してくれるダンナ。昨年年賀状を出した一覧をリストにして我が家の共有フォルダに入れたから、削除や変更があったら指摘しろと言う。言われるがままに○×をつけてダンナに返す。

 永井するみさんの項を線で消すとき、ちょっと泣きそうになったりしつつ。

 で、ファイルを戻されたダンナがそれを宛名ソフトに取り込み、あーだこーだやって、「途中まで出来たよ」と言ってきた。おお、早い。あとは、今年の新規追加分を渡して、家族用と仕事用に分けて──枚数が出たらハガキ買ってこなくちゃね、と考えてたらダンナが言う。

 「大矢の親戚は、はずしたけど、大分(あたしの実家)は?」
 「え、何が? はずしたって、何で?」
 「喪中だから」
 「あれ? 喪中の家、あったっけ? でもあたしの実家は関係ないから出すよ?」
 「いや、だから、喪中だから」
 「大矢の親戚が喪中でも、あたしの実家は関係ないっしょ?」
 「だから、
喪中なんだってば! うちが!

 へ?

 
「今年、おばあちゃん、死んだじゃん!」

 
どっしぇえええええええええ!

 そそそそうだった、夏に父方のおばあちゃんが亡くなったんだったーーー! 忘れてた忘れてたよ、どうしよう。だってもう12月19日。今から喪中欠礼のハガキ出したって、受け取る方が困るだろう。いや、喪中の側が年賀状を出してはいけないってだけで、貰う分には構わないのだ。だからいいのだ。いいのだけれど、でも慣習として喪中欠礼のハガキを貰ったら、そこには出さないよねえ。年賀状書いちゃったあとで喪中ハガキが来るってのは、余計な混乱を引き起こすだけだろう。

 「どうしてもっと早く……せめて11月のうちに思い出してれば」
 「何度も言ったよ。でも、伝わってないなあ、って」

 嗚呼、これが失語症。そうか言ってたのか。伝えようとしてたのか。しくしく。
 そう言えば! 年賀状の話題になる度に、「もち、もち」と。餅は正月だ、てかアンタ嚥下障碍もあるんだから餅は危険だよやめとこうよと思ってたのだが、あれは喪中の意であったか! ごめんよわかってあげられなくて。あきらめずに、伝わるまで頑張って欲しかったよダーリン……。

 「まあ、仕事は、喪中とか、関係ないから、いいかって」

 ……そう、そうよね。うん。おばあちゃんは心の中に生きてることにしよう。

 このことをツイッターに書いたら、
太田忠司さんを「わあああ、たった今、大矢さん宛の年賀状の印刷をしてしまった。」と慌てさせてしまった。すみませんすみません。
 ということでおばあちゃんはまだ死んでないことにして、何食わぬ顔で年賀状書きますので、どうか皆様、お気になさらず。

自転車チーム飲み会

 夜は雨の中、自転車チームVerdadの飲み会。
 チームジャージ配布会(破れたりサイズが合わなくなったりするので、年に一度、チームジャージの補充を行うのだ)と
拙著の出版記念会を兼ねた飲み会で、場所はチーム御用達のいつものお店だ。

 なんせダンナの発症後はいろんな面でお世話になったチームメイトたちなので、全員に献本せねばならないところなのだが、こっちの実入りがなくなってしまうので涙をのんで拙著への出演者だけに献呈。
 けれど他のメンバーも自腹で買ってくれてて(ありがとうございますありがとうございます)プチサイン会も開催。いろいろ助けてくれた上に足しげく見舞いに来てくれたS芝さんの名前を間違えたことは今日最大の痛恨事だ。もう一生、人名はひらがなで書こうと心に誓う。

 今日は、この先ダンナがひとりで外出できるよう「タクシーを使う」練習も兼ねていた。身障者用タクシーチケットとタクシー会社のカードを出せば、現金を出すことなく精算(しかも割引付き)できるので、片麻痺のダンナでも難なく利用できるシステムなのだ。
 ところが、往路に乗ったタクシーの運転手さんには「わあ、
このカード、出されるの初めてだもんでやり方わからん。現金で貰っていい?」と言われた……。大丈夫かTタクシー。

 とまれ、そんな事情なので、今日は酒も飲めるのだ。あ、いや、決して自分が飲みたいためにタクシーを使ったんじゃありませんよダンナの練習のためですよホントですよ! ただ、せっかくだから飲んでるだけですよええホントに。

 敢えてダンナからは離れて座り、気心の知れた店の人に(どれくらい気心が知れてるかというと、混んでるときに注文すると「あとで」と言われるくらい)「料理は一口大に切ってください」とお願いしてあとは放置。
 いつもうちで使ってる、滑り止め付きの箸や食べこぼしチェックの鏡や皿をずらさないためのマットなど、お助け用具一切無しでの外食。まあ困ったことがあったら同じテーブルのチームメイトが助けてくれるさと、もう徹底して完全放置。他に手があるときは任せて休むのだ。ふっふっふ。

 店内では中日がバカ勝ちしてる日本シリーズ第2戦が流れ、7点目あたりから「昨日打てー!」の大合唱。あたしはチーム監督夫人のK子さんと楽しいガールズトークに花を咲かせたのさ。ま、
更年期と肩こりと整体の話をガールズトークと呼んでいいのかは、要検討ではあるが。たいへん楽しゅうございました。

女房元気で留守がいい・その3

  8日から9日にかけて一泊で東京に行って来たわけだが。
 これはダンナの「ひとりでひとばんおるすばん」訓練でもあり、
前にも書いたような準備を整えて出かけた。まあやっぱり心配っちゃあ心配だったわけだが、東京まで行っちゃえば心配してもしょうがないと割り切り、あたしはあたしで結構楽しんで帰った次第。そもそもダンナがどうしてるか心配する前に、自分が道に迷って泣きそうになってたしな。

 8日、「夕飯来た」とか「薬飲んだ」とか、随時メールが届く。なんとかやってるらしい。
 そして9日の朝、写メが届く。

morning

朝食用意しとるがね!

 体中の毛穴からビックリ汁噴射。その勢いで月まで飛べそう。
 トースト焼いて、コーヒー入れて、野菜ジュースついで、フルーツのゼリーも器に出してある。
 いやあ奥さん、ごくごくシンプルな朝食で驚くほどのもんじゃないと思うかもしれんが、ダンナは片麻痺なんですよ左手しか使えないんですよ。それがどういうことか、わかる?

 パンを焼くのはまだしも、コーヒーメーカーにペーパーフィルタを入れて粉入れて水セットしてスイッチ入れて、冷蔵庫から牛乳出してというのを、片足で移動しつつ、片手でやったということ。ジュースもしかり。
 そしてゼリー。ちょっと想像していただきたいのだが、ゼリーの容器にぴったりはりついたビニールの蓋を片手で剥がすのって、かなり難しいのよ。しかもこのゼリーは果汁たっぷりってやつで、「蓋を剥がすとき果汁が飛び散りますのでご注意下さい」と注意書きがついてるほど。それを片手で開けたのかー。

 しかも昼過ぎ、帰宅したときには更なるサプライズが。
 
台所のシンクがピカピカになっている! コーヒーメーカーが洗ってある!
 麦茶も自分で沸かして、自分でジャグに入れてある!


 そんなの今までやったことないのに、と思っていたらダンナの言うことには。
 自分のペースでちょっとずつやった、と。自分のペースで自分の好きにやれるからできた、と。

 そして一泊二日、ひとりで過ごしてみて「出来ることと出来ないことがはっきりすれば、もっと長い期間でも一人でどうにかできると思う」と言う。失語症でたどたどしくも頑張って話すダンナの報告を聞く。

 「できないのは、皿洗い。それと洗濯。
  あ、食パンの袋の、プラスチックの留めるやつ。あれ無理。パン乾く」

 あははは、あの小さい四角いストッパか! なるほどそれは確かに片手では難しかろう。
 洗い物も食洗機があるものの、細かい作業はたくさんあるしなあ。
 洗濯は洗濯機がやるとは言え、洗濯物を干したり畳んだりは厳しかろう。
 まあ、片麻痺の主婦の皆さんは皆工夫したり、OT(作業療法)で習ったりしてやってることなんだが、家事経験皆無の男性にそれを求めるのは酷というものだ。

 「朝ご飯は出来た。昼と夜は、弁当を届けてもらえば、食事も大丈夫。
  買い物は、弁当の人がやってくれる(買い物代行サービスのこと)。
  掃除機もかけれる(充電型コードレス使用)。通院は、タクシー使う。
  お風呂もたぶん一人で入れると思うんだけど……」

 うん、見ている限りでは、お風呂もたぶん大丈夫。あたしが心配でつい見てしまい、世話を焼いてしまうだけのこと。ただお風呂での「万が一」はホントに怖いからなあ。それにお風呂掃除も、バスタブ洗いはまえにトライしてちゃんとやってくれたけど、すのこを上げて排水溝掃除してなんていうレベルは無理でしょ。あと、ダンナは思い至ってないようだが、家事と言えばゴミ出し&郵便受けチェックも多分厳しい。それと足が不自由なため、自宅でもリハビリ用の室内履きを履いてるんだが、靴を洗うなんてのも難しいよ。

 「だから、できないところだけやってもらえる、ヘルパーさんを頼めば
  アンタが一週間九州に帰るとかってなっても、たぶん大丈夫。
  緊急時は、ボタン押すし(
あんしんネット21かけつけサービスの意)」

 ああ、介護保険でも名古屋市の
身障者福祉サービスでも、確かに在宅でヘルパーさん利用というのは可能だ。「あたしの安心」ということだけを考えれば、そりゃショートステイとか施設を利用する方が断然安心なんだが、それはあたしの感情的な都合。先々のこと・本人のことを考えれば、自立を目指す方がいいに決まってる。

 じゃあ、これからも少しずつ一人でやることを増やしていって、「これは助けが要る」っていう項目をちゃんと仕分けていこうか。他に今回の留守番で出来なかったことはなかった?

 「出来なかったのは……鉄道模型の予約が、〆切過ぎて、申し込めな──あっ」

 
調子に乗って語るに落ちたなダンナ!

 
留守番の3か条を忘れたか。
 1 無理・無茶はしない。
 2 随時、連絡を入れる。
 
3 勝手に鉄道模型を買わない。

 自立の道、まだまだ遠し。

 なお、この翌日から、
朝食はダンナが(できる範囲で)用意してくれるようになりました
 原稿書きで夜遅くなったとき、朝をダンナに任せられるって、すっごく助かる!
 あたしが家をあけることで、こうしてダンナの出来ることが増えるなら、これからもどんどん出かけるよ。椎名桔平に声をかけられたら明日からでも愛の逃避行に出るよ! だから桔平ちゃん、いつでもプリーズ!

女房元気で留守がいい・その2

 書評とかコラムとかエッセイとか、文章でお金を頂戴するようになって10年以上経つ。その間、いわゆる出版関係のパーティとか集まりに顔を出したことは一度もなかった。
 例えば名古屋在住なので東京まで出るのに時間と費用がかかるとか、作家さんとオトモダチになってしまうと書評が書きにくいので距離をとっておきたいとか、過去に書きたい放題評した作品の著者に出会ったらバツが悪いなとか、てかあたしが行ったところで「誰?」と思われるのがオチだろうとか、まぁ理由を挙げようと思えばナンボでも思いつくが、つまるところ、
面倒だった、のだ。

 だがしかし。今回初めて、東京創元社の鮎川哲也賞贈呈バーティに出ることにした。
 10年もやってると、ありがたいことに文庫解説や書評を書いた作家さんから編集さんを通じて御礼や感想を頂戴する機会が増える。ところが、いろいろお声をかけて戴くのに地方在住を言い訳に不義理を重ねてしまった。一度ご挨拶しなくちゃ、と思っていた──というのが表向きの理由。
 裏向きにして最大の理由は、
ダンナの一人暮らしトレーニングにある。

 ご存知のようにウチのダンナは脳出血の後遺症で体に障碍があるため、入浴や食事の支度など、ひとりでは難しかったり危なかったりということが多い。そのためこれまであたしはダンナを残しての遠出ができなかったんだが、
前の記事にも書いたように、それではイカンだろうと。
 イカンだろうとは思いつつ、それでも心配なものは心配で、これはもう「いくら心配でも出かけるしかない」という状況を作る他ない、と思っていたところにちょうどこのパーティのことを思い出したという次第。
 10月上旬なら冷房も暖房も要らないので、「寒くないかしら、暑くないかしら」という心配をする必要もないし。って、今書いてて思ったけど、どんだけ過保護だあたし。

 それで、10月8日の昼前から9日の昼過ぎにかけての一泊二日、ダンナがひとりで留守番する、ということにした。編集さんにも出席の連絡をしたので、もう戻れない。昼食と夕食は介護保険を使った配食サービスを頼み(
旧なまもの日記の今年の9月9日参照)、必要なものはすべて分かる場所に出し、お風呂は入らないことにする。寝る前と起きたときにはメールを入れること、こちらから出した安否確認メールにはすぐ返事を出すこと、普段やらないようなことにチャレンジしないこと、あたしのいない間に勝手に通販で高価な鉄道模型を注文したりしないことなどを約束。うーん、こうして書くとやっぱり過保護だなああたし。子どもに初めて留守番させる親御さんってこんな感じ?
 そしてそれでも起きるかもしれない緊急事態──コケて立てないとか──に備え、名古屋に本拠を持つタクシー会社経営の、緊急かけつけサービスに加入した。

 
あんしんネット21というそのシステムは、契約者の家庭とオペレーションセンターが端末で結ばれ、ボタンを押すだけで担当者と会話ができ、助けが必要な場合はヘルパーの資格を持ったタクシー運転手さんがかけつけてくれる(鍵を預けておいたり内緒の場所に置いておいたりして、家に入れるようにしておく)、というもの。普通に加入するとけっこうお高い上に、出来ること出来ないことがあったりするらしいのだが、介護保険を使うとお値打ち且つ便利に利用できるのだ。

 この会社のタクシー(つばめタクシー)には、ヘルパーの資格を持つ運転手さんが乗り降りの介助や見守りをしてくれるというサービスがあり(別料金です)、それを過去に何度か使ったことがあった。ものはついでなので、このタクシー会社の
身障者用カードも作る。
 これがあれば身障者割引で10%安くなる(更に名古屋市の障碍者用タクシー助成で740円分のタダ券もある)上に、現金支払いの必要がなくなるのだ。なので名古屋市の障碍者タクシー利用券とこのカードを出せば、片手しか使えないダンナが財布からお金を出したりしまったりという手間がいらない。
 ちなみにタクシーを呼びたいときは、上記の
あんしんネット21の端末を使ってボタンひとつで呼べる仕組み。もしあたしの留守中にどうしても出かけなくちゃならなくなっても、これで大丈夫、のはず。

 これだけ準備をすれば、ダンナを残して一泊くらいの旅行をしても大丈夫なんじゃなかろうか。てか、もう他に何かすべきことを思いつけない。これだけやってダメならしょうがない。岩瀬で負けたらしょうがない、というのと同じである。準備は万全なんだから、あとはやってみるのだ。杏より梅が安しというじゃないか。酎ハイか。そうでなくて。案ずるより産むが易しと言うじゃないか。

 ということで、いよいよ明日は初めての「ひとりで一晩、お留守番」の日である。
 ひとりで一晩、お留守番。なんかラップみたいだな。ひとりでひとばんおるすばん、ひとりでひとばんおるすばん、HEY、YO! 言うてる場合か。

なまものリハビリ日記が本になるよ!

トップページでも告知しましたが、ダンナの脳出血発症から1年間の日々のあれこれを綴ったお笑いリハビリ日記が本になります!

『脳天気にもホドがある。 燃えドラ夫婦のリハビリ日記

  著者 :大矢博子
  出版社:東洋経済新報社
  配本日:2010年10月21日
  定価 :1300円+税
  造本 :四六版ソフトカバー 244ページ
  ISBN :978-4-492-04399-8

  表紙イラスト:
ラジカル鈴木
  
本文イラスト:みほろ

 右の書影をクリックすると、大きな表紙がでます。
 帯のコピーや推薦文などはそちらでご確認戴けます。

 3章構成で内容は以下の通り。

 episode 1 脳出血と緊急入院と立浪引退発表  (書き下ろし)
 episode 2 右片麻痺と失語症と開幕投手・浅尾 (書き下ろし)
 episode 3 退院と鉄ちゃんと燃えよドラゴンズ (「なまもの日記」再構成)

 ……章題を見ればお分かりの通り、なんか随所にドラゴンズが滲み出てまして。
 そのおかげで
帯にドアラの推薦コメントを戴きました。アンタ今そんなことしてる場合じゃなかろう、というツッコミはさておき。ありがたいことですドアラ先生。
 あ、でも、これまでのなまもの日記をご存知の方はご承知でしょうが、他チームのファンの方でも楽しめるように書いたつもりですので、警戒せずにご笑覧戴ければ幸いです。

 
予約も始まってます。楽天ブックスbk17net shopping

 まえがきより、一部抜粋します。
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 夫が脳出血で倒れ、右半身の自由と言葉を失いました。
 ──と書いたら、愛と涙の感動闘病記だと思うでしょ。泣けると思うでしょ。
 えーっと、ごめんなさい。たぶん、泣けません。
 ホント申し訳ないんですけど、本書は泣ける本ではないんですの。
 闘病記やそれを巡る家族の話って、ハタから見ると感動的だったり泣けたりするのかもしれないけど、いざ自分がその立場になってみると。
 愛だの涙だの言ってるヒマないって!
 山のようなお役所手続きに、みっちり組まれるリハビリ計画、大幅な変更を強いられる将来設計。もちろん日々の仕事や生活もある。家族が倒れようが光熱費は引き落とされるしゴミは分別しなくちゃいけない。どえりゃあ忙しい。正直言って愛より実務、涙より行動っすよ。

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 本のテーマとしてはね、言いたいことはひとつだけ。
 病人だって、介護する人だって、休んだり楽しんだり笑ったりしていいんだよ。

 ダンナが脳出血を発症して後遺症が残ることが分かったあと、同じ環境にある人のブログがとても参考になりました。ご本人が書かれてるものもあるけど、立場という点では、ご家族の書かれたブログが良かった。感動闘病記とかじゃなくて、より具体的に、日々の工夫や楽しみを書いているようなものが何倍も役に立ったの。
 そういう情報を発信できれば、というのが本書の目的です。同じ病気、同じ障碍のご家族がいらっしゃる方はもちろん、より広範囲の方にちょっとでも参考になればと思います。

 ……その割にはドラゴンズネタとか鉄道模型ネタとかが多いけどな。

 
そして本文中に、ミステリ系ネット者にはお馴染みの、みほろさんがステキなイラストをたくさん書いてくださいました!
 そればかりか、販促用に内容紹介のステキなチラシを作ってくれたのさ。可愛いぞ〜。みほろさんのイラストも載ってるぞ〜。リンクをクリックして「ほえ〜」と思ってくれたまい!

 本を出すって決まったとき、真っ先に「みほろさんに絵を書いて欲しい!」と思って依頼し、お忙しいのに快く引き受けてくださいました。感謝感謝です。ホントに可愛くて面白いイラストなので、あたしの本文はさておき、イラストを見るだけでも本書を買って戴く価値があろうかと。
 基本的にはお気楽で、面白おかしく書いてるけど、内容が内容だけにところどころ(ホントにところどころだけど)は真面目です。でもそういうところにみほろさんのお茶目なイラストが入ってるので、読み易いと思います。

 この他のネット書店での予約や名古屋での書店の展開など、また詳細が出ましたら随時このサイトで告知していきますので、どうぞよろしくお願い致します。

女房元気で留守がいい・その1

 ダンナが脳出血を発症して1年10ヶ月、退院して1年半、その間骨折&人工骨頭置換による入院&リハビリが2ヶ月あったりもしたが、リハビリに頑張ってくれたおかげで今は「食事の準備」「入浴」「外出」を除けば、まぁだいたいのことはひとりでも困らなくなった。ビバ、リハビリ!
 それに応じて、生活も少しずつ変えていこう、という段階に来ている。
 退院直後はいろんなことに介助が必要で、あたしが家をあけるってのがなかなかできなかった。食事を三度三度作らなくちゃいけないから、ホントに昼間に2〜3時間てのが外出の上限だったのね。でも。

 たまには友達と時間を気にせず、ランチとか飲みとか行きたい。
 編集さんが来名されたときには、名駅や栄でちゃんと時間をとってお会いしたい。
 東京での打ち合わせやパーティなんかも、断ってばかりでは申し訳ない。
 九州にいる実家の両親の年齢を考えると、いつ帰郷の要請があっても不思議じゃない。
 偶然街で出会った椎名桔平から愛の逃避行に誘われる可能性がないとは言えない。

 介護する側だって我慢してばっかりじゃストレスがたまるし揺り戻しが来る。介護する側が無理をすると、介護される側だって負担になるだろう。ってことで、あたしも少しずつしたいことをしたいようにしようと思ってる次第。
 でもって普通、こういうときにはデイサービスとかショートステイを使う。つまり、専門のところに預かってもらうという方法。食事も入浴も介助してくれるし、何かあってもプロが常に控えているので預ける側も安心。名古屋市内にはリハビリに重点をおいたホテルみたいなショートステイ施設もあるし、いいんじゃね?と思ったのだが。

 ところがこれをダンナが嫌がった。かなり頑に嫌がった。
 まあ、そういうところはお年寄りばかりだしなあ、無理もないかなあ、と思ったのだが。先日京都から遊びに来てくれた自転車友人のN川君・H川君にその話をすると、一言のもとに否定されたのよ。

 「違いますよ、
奥さんのいない間、ひとりで好きに過ごせるのが楽しみなんですよ」

 
なななな、なんだとう?!

 言われてみれば。ダンナが病気になる前、たとえば自転車レースの遠征などでダンナが3日間留守をするなんてときには、あたしは「ひとり暮らしだ〜♪ お休みだお休みだるんるん♪」と嬉しくて嬉しくてしょうがなかったよなあ。あれか。あれなのか。

 よーし、そっちがその気ならわかった。遠慮はすまい。打ち合わせに東京行ってやる。出版社のパーティにも出てやる。忘年会だって三次会まで行ってやる。
 その代わり。
 ダンナがひとりでできること・できないこと、できないことをどうするか、緊急時の対応など、きちんと考えておかねばならない。

 かくしてダンナの「一人暮らしできるもん」計画がスタートしたのである。
 明日はちょっと告知がらみで別件の日記を書く予定なので、明後日以降、具体的な方策を紹介するよ。

球場の車椅子席の価格

 ドラゴンズの命運は今日からの関東2連戦にかかっているわけだが、それに先んじて、公式サイトでクライマックスシリーズ(CS)のチケット販売要項が発表された。ナゴヤドームで試合が行われる場合のチケットです。おかげさまで3位以上は確定してるんでね。

 でもってCSってのはやっぱりスペシャルなイベントだし、普段にはないいろんな経費もかかるだろうし、営業的に見てもドル箱だろうし、通常価格よりも高くなっている。それは市場原理として理解はできる。だから「いつもより高いじゃん」ということに対して文句を言うつもりはまったくない。のだが。

 ちょっと値上げ幅をご覧戴きたい。席名のカッコは普段の呼び名。

 内野指定S席       (通常)5.800円 → (CS)8,000円
 内野指定A席       (通常)4.800円 → (CS)6,000円
 5階指定B(パノラマA) (通常)2.500円 → (CS)4,000円
 外野応援A席       (通常)1.800円 → (CS)3,000円
 外野応援ビジター     (通常)1.800円 → (CS)3,000円
 外野応援B(パノラマB) (通常)1.500円 → (CS)2,500円
 車椅子席         (通常)2.500円 → (CS)5,000円

 
車椅子席の値上げ率だけ、倍って!

 他の席も値上げはしてるけど、だいたい3割増ってところ。なのに車椅子席だけ倍増。しかも介助者も同じ金額が必要なので、車椅子の人と介助者がCSを観戦しようと思うと1万円ですよ奥さん。
 ご存知の方はご存知のように、うちはダンナが脳出血の後遺症で片麻痺になってまして。普段は杖を使えば歩けるんだけど、ドームの急な階段や、スタンドの狭い通路や跳ね上げ椅子は無理なわけ。人も多いので、杖歩行では本人にも周囲にも危険だから、野球を生観戦したいなら、やはり車椅子席を利用することになる。でも普段がふたりで5千円てことを考えると、1万円は高いなあ。

 あ、誤解されないように言っておくけど、あたしは「障碍者様なんだから優遇しろ」などという考えは
一切ありません。障碍があろうがなかろうが、払うべき対価はきちんと払うのが当たり前だと思ってる。今、いろいろな分野で障碍者割引とか減免とかもあるけど、別に優遇してもらう必要のないことまで優遇してくれなくていいから、ちゃんと払うから、その分の費用で建物や道のバリアフリー化をしてほしいなと考えてるほど。だからCSのチケットが高いということ自体にも不満はない。

 ただここで問題なのは、ドームでは
車椅子利用者には他に選択肢がないってことなのよ。
 これがもし健康な人なら「いつもは内野指定で見てるけど、CSは高いから外野にしとこうかな」ってな選択ができるでしょ。ところが車椅子席は1種類しかないから、そこがダメならもう生観戦はできないのだ。倍額を払うか、観戦を諦めるか、ふたつにひとつしかない。これが残念。

 ちなみに昨年までのクライマックスシリーズ開催実績がある他の球場の車椅子席も調べてみた。

 東京ドーム(09年) (通常)2,500円 → (CS)3,000円
 大阪ドーム(08年) (通常)1,500円〜2,500円 → (CS)2,000〜3,000円
 札幌ドーム(09年) (通常)1,500円 → (CS)1,500円
 西武ドーム(08年) (通常)2,500円 → (CS)4,000円 ※日本シリーズの値段
 Kスタ宮城(09年) (通常)2,100〜6,500円 → (CS)4,300〜6,500円
               ※Kスタ宮城は介助者1名無料。
 YAHOOドーム(10年) (通常)2,500円 → (CS)4,500円
 千葉マリン(10年) (通常)?円 → (CS)1,000円

 
安っ!

 何この値段。いや、球場によって設備や環境が違うから、一概に値段を比較することに意味はないんだけどさ。他の球場は通常ゲームとCSの値段の違いってせいぜい500円じゃないか。札幌ドームなんか値上げ無しだよ。ナゴドに一番近い価格設定をしてるのは福岡のYAHOOドームだけど、それでもCS時はナゴドより500円安い。Kスタ宮城は高いように見えるけど、介助者1名が無料なので実質はこの半額と考えていい。

 しかも、大阪ドームとKスタ宮城は、車椅子席にも内野席と外野席があるのだ。それで値段が違うから、「こっちは高いから、あっちにしよう」という選択が可能。うわあ、いいなあ。羨ましいなあ。
 こうしてみると、もしドラゴンズが日本シリーズに進めたら、パ・リーグのホームの方に応援に行くほうがいい気がしてきたぞ。その場合、ロッテがベストだな。よし、ロッテ応援しよう。<交通費のことを考えてない。……てか、ロッテってチケット販売の告知してるけど、CS確定したんだっけ?

 他球団がこれだけのことをやってるんだから、ナゴヤドームだけ出来ないってことはないと思うんだが、どうだろう。てか、CSチケットは車椅子席だけ倍額、という価格設定の理由が知りたい。納得できる理由があるのなら文句なんて言わないさ。5千円が1万円でも払うさ。
 もしも「こういう理由なんじゃ?」というのが分かる方がいらしたら、ツイッターででもメールでも良いので、ぜひ教えてください。

リニューアル

 さて、「なまもの!」リニューアルオープンですよ奥さん!

 レンタルブログを使えば簡単なんだけど、著作権てあたりにちょっと不安もあり、どうせならダンナに作ってもらおうかな、と思っていた。脳出血の後遺症で失語症を患うとパソコンの使い方を忘れているケースが多いそうで、リハビリを兼ねてMovable Typeあたりいじってみちゃくれないかと。
 だがしかし、あたしが「こんなサイトにしたい」といくつかの先例を見せながら希望を言うと、やっぱり高度なもの・煩雑なものには対応できないという。「これくらい、前なら出来たのに」と本人は悔しそう。

 それでも数あるサイト構築ソフトを比較検討してRapidWeaverを選び、円高のうちにと日本からじゃなく海外(どこ?)から買い、出来合いの設定をいろいろカスタマイズしてアレンジしてくれて、こんなサイトになりましたのよ。充分だと思わん?
 むしろ、プログラミングについては「前はできたのに今はできない、レベルががた落ち」と言っている現時点のダンナのやってることが、あたしにはサッパリわからないんですけど。

 夫「どういうテーマ(ウェブデザインの意)がいいの」
 妻「なんかね、もうちょっとススっとして、ほげっとした感じっつーか」

 どっちが失語症なんだか。

 まあまだテスト期間中で、これからじわじわあちこち充実していくと思います。旧サイトも残してる(っていうか14年分をこっちに移植するパワーはないから、あっちはあのまま)ので、書評なら書評ページから、日記は日記ページからバックナンバーに飛べますからね。
 あ、トップからも飛べるようになってます。
抜粋なまもの日記企画ページもぜんぶあります。「2000年の雪国」「新選組はこれを読め!」も、ちゃんとあるからご安心ください。

 ところでプログラミング云々は忘れたと言ってるのに、海外から通販でモノを買う方法(電話番号の入力は市外局番の0を抜くとか)はしっかり覚えてるのが解せん。そういうところは別に忘れてくれててもいいんですけど。特に鉄道模型関係は。

ゲゲゲの女房

 『ゲゲゲの女房』を毎朝楽しみに見ている。個人的には連ドラ史上『てるてる家族』に匹敵するヒット。……って、今気付いたが、昭和が舞台なのがツボなのかなあたし。

 でもって今朝の『ゲゲゲの女房』で、ヒロインの父親が脳梗塞で倒れるというシーンがあった。
 ダンナが脳出血をやって以来、こういう場面になると「おっ」と思って身を乗り出してしまうのよね。別に辛いとか忌避感だとかはまったく無くて、「どこまでリアルかな? どういう症状を想定してどういう演技をするのかな?」と興味津々で見ちゃうのだ。いい趣味とは言えんが。

 そこで『ゲゲゲの女房』の大杉漣さんの芝居はというと。
 意識を保ったまま、まず右麻痺を発症。湯のみを取り落とし、「おかしい」と言いながら、座ってもいられず床に転がるという形。お、うちのダンナのケースに似てるぞ。そうそう、麻痺は右だけだけど、バランスがとれないから倒れちゃうんだよね。
 言葉も、ちょっと発音しにくいってな感じのお芝居をしてるが、失語はなかったという設定らしい。よかったなあ。まあ、ドラマで失語症を表現するのはややこしくてしょうがないってだけのことだろうけど、フィクションですら「右麻痺?! だったら失語は?!」と気にするようになった自分がいることよ。
 つか、奥さん、倒れたダンナをゆすっちゃダメだろ。「大丈夫?!」って騒ぐだけじゃ事態はかわらんつーの。まず119通報。と思ったら「××先生呼んできて!」……ああそうか、そういえばうちの田舎でも、すぐに飛んで来てくれる掛かり付け医がいたよな。

 そしてそこから日が経って「軽くて済んだ」という説明が入った後。
 入院を嫌がったので自宅で布団に寝てるという形だったんだが、いや、入院しようよ! 本人は自宅の方がいいかもしれんけど、それ、家族たいへんだから! 特に同居してる長男の嫁がめちゃくちゃたいへんだから! この頃ってまだ介護保険制度もないし、入院しなかったら負担がぜんぶ家族に行くじゃないか。
 しかも布団て。右麻痺が出てるのに、ベッドくらい用意したらどうか。もう昭和も終わりの頃なんだから、ベッドだって普通に使ってるだろうに。もしかして右手がダメなだけで、足は大丈夫だったってことなんだろうか。でも、だったら寝てる必要はなかろう。

 同種のドラマで思い出すのは 『Dr.コトー診療所 2004スペシャル』で朝加真由美さんが右麻痺&運動性失語症を演じていた回。なかなかりリアルだった。リハビリとか、用語とか、リハビリ入院先を探すとか、家庭での介護の苦労とか、自助具とか、改築とか。そういうのも含めて、制作スタッフや俳優さんたちは相当リサーチされたんだろうなあ。

 このスペシャルはダンナの発症の前の放送だったんだけど、ダンナが同じ立場になったあとで、DVDを見返して感心したことであったよ。ただウチの場合、なんか全般にもっと淡々と対応してた気がする。ドラマのような「身を切るがごとき慟哭」みたいな状況にはならなかったなあ。何も考えてなかっただけですかそうですか。