女房元気で留守がいい・その2

 書評とかコラムとかエッセイとか、文章でお金を頂戴するようになって10年以上経つ。その間、いわゆる出版関係のパーティとか集まりに顔を出したことは一度もなかった。
 例えば名古屋在住なので東京まで出るのに時間と費用がかかるとか、作家さんとオトモダチになってしまうと書評が書きにくいので距離をとっておきたいとか、過去に書きたい放題評した作品の著者に出会ったらバツが悪いなとか、てかあたしが行ったところで「誰?」と思われるのがオチだろうとか、まぁ理由を挙げようと思えばナンボでも思いつくが、つまるところ、
面倒だった、のだ。

 だがしかし。今回初めて、東京創元社の鮎川哲也賞贈呈バーティに出ることにした。
 10年もやってると、ありがたいことに文庫解説や書評を書いた作家さんから編集さんを通じて御礼や感想を頂戴する機会が増える。ところが、いろいろお声をかけて戴くのに地方在住を言い訳に不義理を重ねてしまった。一度ご挨拶しなくちゃ、と思っていた──というのが表向きの理由。
 裏向きにして最大の理由は、
ダンナの一人暮らしトレーニングにある。

 ご存知のようにウチのダンナは脳出血の後遺症で体に障碍があるため、入浴や食事の支度など、ひとりでは難しかったり危なかったりということが多い。そのためこれまであたしはダンナを残しての遠出ができなかったんだが、
前の記事にも書いたように、それではイカンだろうと。
 イカンだろうとは思いつつ、それでも心配なものは心配で、これはもう「いくら心配でも出かけるしかない」という状況を作る他ない、と思っていたところにちょうどこのパーティのことを思い出したという次第。
 10月上旬なら冷房も暖房も要らないので、「寒くないかしら、暑くないかしら」という心配をする必要もないし。って、今書いてて思ったけど、どんだけ過保護だあたし。

 それで、10月8日の昼前から9日の昼過ぎにかけての一泊二日、ダンナがひとりで留守番する、ということにした。編集さんにも出席の連絡をしたので、もう戻れない。昼食と夕食は介護保険を使った配食サービスを頼み(
旧なまもの日記の今年の9月9日参照)、必要なものはすべて分かる場所に出し、お風呂は入らないことにする。寝る前と起きたときにはメールを入れること、こちらから出した安否確認メールにはすぐ返事を出すこと、普段やらないようなことにチャレンジしないこと、あたしのいない間に勝手に通販で高価な鉄道模型を注文したりしないことなどを約束。うーん、こうして書くとやっぱり過保護だなああたし。子どもに初めて留守番させる親御さんってこんな感じ?
 そしてそれでも起きるかもしれない緊急事態──コケて立てないとか──に備え、名古屋に本拠を持つタクシー会社経営の、緊急かけつけサービスに加入した。

 
あんしんネット21というそのシステムは、契約者の家庭とオペレーションセンターが端末で結ばれ、ボタンを押すだけで担当者と会話ができ、助けが必要な場合はヘルパーの資格を持ったタクシー運転手さんがかけつけてくれる(鍵を預けておいたり内緒の場所に置いておいたりして、家に入れるようにしておく)、というもの。普通に加入するとけっこうお高い上に、出来ること出来ないことがあったりするらしいのだが、介護保険を使うとお値打ち且つ便利に利用できるのだ。

 この会社のタクシー(つばめタクシー)には、ヘルパーの資格を持つ運転手さんが乗り降りの介助や見守りをしてくれるというサービスがあり(別料金です)、それを過去に何度か使ったことがあった。ものはついでなので、このタクシー会社の
身障者用カードも作る。
 これがあれば身障者割引で10%安くなる(更に名古屋市の障碍者用タクシー助成で740円分のタダ券もある)上に、現金支払いの必要がなくなるのだ。なので名古屋市の障碍者タクシー利用券とこのカードを出せば、片手しか使えないダンナが財布からお金を出したりしまったりという手間がいらない。
 ちなみにタクシーを呼びたいときは、上記の
あんしんネット21の端末を使ってボタンひとつで呼べる仕組み。もしあたしの留守中にどうしても出かけなくちゃならなくなっても、これで大丈夫、のはず。

 これだけ準備をすれば、ダンナを残して一泊くらいの旅行をしても大丈夫なんじゃなかろうか。てか、もう他に何かすべきことを思いつけない。これだけやってダメならしょうがない。岩瀬で負けたらしょうがない、というのと同じである。準備は万全なんだから、あとはやってみるのだ。杏より梅が安しというじゃないか。酎ハイか。そうでなくて。案ずるより産むが易しと言うじゃないか。

 ということで、いよいよ明日は初めての「ひとりで一晩、お留守番」の日である。
 ひとりで一晩、お留守番。なんかラップみたいだな。ひとりでひとばんおるすばん、ひとりでひとばんおるすばん、HEY、YO! 言うてる場合か。