09 January 2011

今週のワタクシ1/15

1月9日 日曜日
 昨日の夜遅く、脳内をあるメロディが回り始めて止まらなくなった。その曲のタイトルが出てこない。気になって気になってしょうがないので、ツイッターに「♪ぱらっ、ぱらら、ぱっぱっぱー ♪ぱらっ、ぱらら、ぱっぱっぱー ♪ぱら、ぱらららら、ぱららぱらっぱぱらっぱぱ〜」「ラッパ系で行進系」と書いてみた。

 すぐに「クワイ河マーチ」と答が出た……。
 すげえなツイッター。いや、すごいのはこれで分かった人たちか。
 
1月10日 月曜日
 直木賞候補作、犬飼六岐「蛻」を読む。時代小説にしてばりばりの本格ミステリ設定に仰天。
 そのあとは、文庫解説を書く作品の作者さんの、他の作品をざくざく読む。

1月11日 火曜日
 全国で伊達直人が児童施設に贈り物をしている。ランドセルや文房具が主流らしい。ここらでテニスラケットを寄付する「クルム伊達直人」の登場が待たれる。

 「小説推理」用のレビュー原稿を書き上げ、送信。次の文庫解説に着手。

1月12日 水曜日
 ニュースをつけっぱなしにしていたら、民主党の党大会だかなんだかの映像が映ってて、若手議員が党の姿勢について何やら意見を述べていた──と、そこに出た名前を見て「おや?」と思う。改めてその議員の顔を見て「ええっ!」と思う。
 あたしが気象会社に勤めていた頃の、後輩じゃないかーーーーーー! うわあ、あの子がここここ国会議員に! どっしぇーーーー!

 思えばあたしが会社を辞めてからもう16、7年になるわけだから、そりゃみんな当時のままじゃないよな。それにしてもびっくりした。


1月13日 木曜日
 CBCラジオ
「多田しげおの気分爽快!朝からPON」に出演。今日紹介したのは、今尾恵介の「消えた駅名 駅名改称の裏に隠された謎と秘密」でした。

 出演後はいつもはしばらく栄をぶらぶらしてるんだが、先週の木曜にダンナが発作を起こしたので、今日はできるだけ早く帰ろうと、今日はコーナーが終わるなり帰途につく。ただし朝マックだけは食べた。<そこは譲れないらしい。

 今日発売の「週刊文春」1/20号で、石田衣良『池袋ウエストゲートパークX PRIDE』の書評を書いてます。IWGPもこれで一区切りだそうだ。
 
1月14日 金曜日
 なかなか頭が原稿書きモードにならないので、すぱっと割り切って確定申告のための事務仕事をすることに。どの仕事までが昨年の仕事になるのか、毎年税理士さんに教わるんだが、毎年この時期には忘れている……。入金した分じゃないって言われたんだよな、「昨年のうちに請求が発生した案件は、入金されてなくても未収金として昨年の収入に計上」って言ってたよな税理士さん。でもさ、そういう、かちっとした〆ってのがないのが出版界なのよ。

 そして〆はなくても〆切はあるのであった……。だはあ。

1月15日 土曜日
 
ようやく解説原稿のとっかかりが見つかる。てか、見つかったのはこれまでなかなか姿を現さなかった「やる気スイッチ」かも。

消えた町名

 CBCラジオ「多田しげおの気分爽快!朝からPON」に出演の日。
 今日紹介したのは、今尾恵介の
「消えた駅名 駅名改称の裏に隠された謎と秘密」(講談社+α文庫)でした。なんか思わせぶりな副題だけど、そんな禍々しい事情のものはありません。ごく普通に納得できる理由ばかり。町名変更とか、戦時中の事情とか、縁起が悪いとか、商売魂とか、聞き間違えるとかね。
 でも、ひとつひとつ見てると、いろんな歴史が見えて面白い。

 でもって今日ラジオで、「町名変更で消えてしまった町の名前が、駅名には残っている」例として挙げたのが、名古屋市営地下鉄東山線の「伏見」駅。
 これ、あたしは本書を読むまで知らなかったんだけど、今は
「伏見」っていう地名は存在しないんだってね。友人と飲み会の相談をするときなんかにごく普通に口に出す「長者町」も「矢場町」も、今はないんですってよ奥さん! あのあたりは全部、昭和四十年代に栄○丁目とか錦○丁目とかに変わったのだそうだ。

 伏見界隈──いや、伏見町だったところ界隈を歩いてると、交差点の名前に「広小路長島町」だの「広小路桑名町」だのと三重県の地名と同じ名前がついている。名古屋に嫁いできた当初から「このあたりは三重と何か関係が?」と不思議に思って、調べてみたことがある。
 予想通り、信長の時代に三重から来た人々が住み着いた場所で、自分の故郷の名前を町につけたのだそうだ。もちろん、桑名町も長島町も、今は交差点の名前だけ。そういう歴史まで消えちゃうのはもったいないっつーか、でも交差点の名前だけにでも残って良かったっつーか。

 伏見も矢場町も、今は存在しない町名だけど、駅名には残ってるわけで、これは大事にして欲しい。あ、栄も昔は「栄町」だったそうだ。辻真先さんが何かのエッセイに書いていたが、辻さんは「栄町」のご出身で、それは今の「栄」とはまったく別なのだとおっしゃっていた。そもそも指すエリアが違うんだものなあ。伏見も矢場町も今は「栄」なんだから。
 名鉄瀬戸線が都心乗り入れを果たした時、駅名が「栄町」になったのは市営地下鉄との区別のためだろうけど、あの名前を懐かしく聞いた人もきっと多いのだろう。

 そう言えば、名古屋の地名で面白いなあと思ったのは
「名駅」。名古屋駅周辺の地名なんだけど、駅の略称をそのまま地名にするって、何だそれ(笑)。駅ができたのがよほど嬉しかったんだろうか。東京や大阪で東駅・大駅なんて地名、ないもんなあ。

 もちろん「名駅」という名前ができたのは名古屋駅ができたあとだそうで(そりゃそうだ)、それまでは「堀内」とか「笹島」とかだったらしい。あ、「笹島」は今もあるか。……あるよな? ……(調べている)……げっ、無いわ。
「笹島」という地名も、今は交差点名と駅名だけなのかー。うわあ。

 とまれ、名古屋駅ができたので「名駅」という地名をつけたという発想は、その善悪はさておき、興味深い。と思って気がついた。
町の象徴をそのまんま地名にすると言えば、豊田市がそうじゃないか! 挙母(ころも)という由緒ある地名があったのに「世界のトヨタ」があるからってんで市の名前をまんま会社名からとったという……。そう言えば、すったもんだでボツになったが、南セントレア市なんていう案もあったっけ。つまりこれって愛知県民の県民性なのか? そうなのか?

「蛻」と尾張藩

 
 直木賞候補作、犬飼六岐「蛻」を読む。びっくりした。
 いやあ、この設定、江戸時代を舞台にした特殊状況のクローズドサークル、しかも連続殺人じゃないか! めちゃくちゃ本格設定だがや。本編はフーダニットよりも閉鎖状況での人間模様がメインになってて、それはそれでもちろん読み応え満点だったのだが、同じ設定で誰か本格プロパーの人が書いてみないかなあ。

 話は、八代将軍吉宗の時代──というより尾張藩主が徳川宗春だった時代。尾張藩の江戸下屋敷の敷地内に実在したという、「宿場町をリアルに再現した観光スポット」で殺人事件が起きるというもの。将軍家や大名家の接待のために、「下々の者が暮らしている様子をリアルに見物できる」という場所を作ったんだそうだ。
 そこから先の本書の設定は著者の創作だろうが、
尾張藩下屋敷の庭園にこういう「宿場町&町民生活再現」趣向があったのは事実のようで。つまり、これってテーマパークじゃないか。

 作ったのは二代藩主・徳川光友公。……何考えてたんだろうこの殿様。尾張の殿様と言えば、風雲児・宗春がその放埒且つスットンキョーなキャラ&悲運で有名だけど、どうしてなかなか二代様も数奇者でいらっしゃる……。自分ちの庭に、日光江戸村や志摩スペイン村を作るようなもんだぞ。

 この庭園については、小寺武久
「尾張藩江戸下屋敷の謎 虚構の町を持つ大名庭園」(中央公論新社)という本が出ているようなので、とりよせ──ようとしたら品切れだった。読んでみたいなあ。「蛻」が直木賞をとったら復刊されたりしないかしら。

 と言いつつ、あたしの予想は道尾秀介
「月と蟹」(文藝春秋)の一点買いなんですが。木内昇「漂砂のうたう」(集英社)も期待はしてるんだけどなー。木内さんはとてもステキな新選組小説を書かれた方なので、個人的に応援しております。

 ところで、もしあたしが大富豪で自宅の庭にこの手のものを作るとしたら──ジャニーズの合宿所か、昇竜館かな。いや、どっちも中身が好きなんだから、建物じゃ意味ないわ。

やりたい仕事

 扶桑社ミステリーが90年代前半に出した印象的なアンソロジーがある。「ウーマン・オブ・ミステリー1」「同2」の2冊だ。すでに流通してなくて、楽天ブックスには商品ページすらないというテイタラクなので、Amazonにリンクしたけどもさ。書影もないので手持ちのを撮ってみた。こうしてみると、シリーズとして装丁を揃えようなんてまったく考えてなかったのだなあと。

 で、このアンソロジーはいわゆる「3F小説」──女性作家が書いた、女性が主人公の、女性読者向けの作品を集めたもの。Fってのはfemaleの頭文字ですね。
 あたしは、大好きなショーン・ヘスのマゴディ町ローカル事件簿シリーズ(訳出の続きを熱望!)の短編が収録されてると聞いて取り寄せたんだが、その他の書き手もすごいのよ。メアリ・ヒギンス・クラーク、サラ・パレツキー、フェイ・ケラーマン、アマンダ・クロス、ルース・レンデル、ギリアン・ロバーツ、S.J.ローザン(リディア&ビルですよ奥さん!
「夜の試写会」にも入ってないやつですよ!)などなど、錚々たる顔ぶれ。どうして品切れのままなんだろうなあ、もったいない。

 小説としてのタイプは多岐にわたってるけど、いずれもミステリ。ヒロインには警官もいれば私立探偵もいるし、キャビンアテンダントに海兵隊員、そして主婦、キャスター、教師。コージーもあればスパイ物もあり、サスペンスもロマンもある。百花繚乱とはこのことだ。

 そしてどの作品も、舞台やジャンルは違えど、ヒロインがそれぞれ自分の筋を通そうとする物語であるところに注目。いろんな意味で〈強い女性〉が描かれている。すべてがそうとは言わないけど(サイコサスペンス的なものやブラックなやつはちょっと違うから)、自分の持ち場をしっかりと守る女性たちが生き生きと描かれている。それも「フィクションのヒロイン」ではなく
生活者としての女性。国が違っても、職業は違っても、みんな同じだよねという気持ちになる。登場人物にエールを送りたくなり、そして登場人物からエールを貰える、そんな〈女性による女性のための〉アンソロジー。

 どうしてそんな20年も前の文庫の紹介をしてるかというと──
こういうのが読みたいのに、日本にはないのよ! 以前、光文社文庫で山前譲さんが編まれた「女性ミステリー作家傑作選」があるけど、あれは「日本にはこんなに素晴らしい女性作家がいるんですよ」というところにフォーカスされたもので、〈女性読者のための女性の物語〉ではなかった。なぜかサイコなものが多かったりしたし。

 日本にはなかなか系統だった「コージー」というジャンルは根付いてないのが現実だけど、書き手はいるのよね。作品もあるのよね。あ、コージーって言葉を使ったけど、それだけじゃなくて、サスペンスや警察小説、本格まで入れてもいい。要は、
読者が自己投影できるような、読者がロールモデルにしたくなるような、生活者として描かれているヒロインで、寝る前に一編ずつ読んで「たいへんなことはいろいろあるけど、明日も元気に頑張ろう!」と思えるような作品で、それでいてミステリとしてもレベルが高いもの。そういう作品を集めた女性読者のためのミステリ・アンソロジーって、読みたくない?

 てなことを
ツイッターに書いたらば、思いのほかたくさんの反響を戴いて驚いた。多いんじゃん読みたいって人! 思えばヴィレッジ・ブックスやRHブックスのコージーだのロマンティックミステリだのって、けっこうな固定読者がついてるんだよね。いわゆる〈読書マニア〉とは層が違うから大きな声にはならないだけで。女性向けの、気軽に読める短編集で、でも中身はしっかりしたものって、需要がありそうじゃないか。

 これはやりたい。編みたい。編みたいなあ。編みたいと網タイツはちょっと似てる。そんなこたあともかく。ツイッターやメールで「出してください」という声をたくさん頂戴したのに気を良くしたものの、出してくれるところがないと話にならないので、ちょっと働きかけてみようかと思います。あ、ここにも書いておこう。「ウーマン・オブ・ミステリー日本版」に興味のある編集さん、いませんか?

 なお、
「ウーマン・オブ・ミステリー1」の編者であるシンシア・マンソンさんは、他にも「本の殺人事件簿I」「同 II」というアンソロジーを編まれていて、こっちもあんた、本にまつわるミステリというお好きな方にはたまらないテーマで、しかも書き手がマイクル・リューインだのマーガレット・マロンだのセイヤーズだのレンデルだのローレンス・ブロックだのプロンジーニだのマイクル・イネスだの、これもまたお好きな方にはたまらないラインナップで、つまるところ、何から何までお好きな方にはたまらないアンソロジーなのだが、品切れです。ぐすん。
 こうしてみると、シンシア・マンソンさんて、いい仕事してるなあ。羨ましい。他にも猫ミスやクリスマスミステリーのアンソロジーも編んでいるとのこと。