靴選び

足の裏・衝撃のB

 盟友いつみと一緒に近郊のスポーツオーソリティへ。病院の理学療法士さんが教えてくれた、ニューバランスのフィッティングイベントに行くのだ。予約もとって、既に電話で足の状態と勧められた靴も伝えてあるのだ。

 イベント会場(というか売場)に行き、予約と名前をいうと既に電話取材の結果「このあたりかな」というのを準備してくれていた。が、もちろんちゃんと計測します見てもらいます。ミズノやアシックスでもらった計測データも見せます。そして今度こそはという期待もあっさり裏切られ「扁平ですね」とのご託宣。しくしく。わかったわよ認めるわよもう。

 「アーチが低い、というのもそうなんですが、そもそも足が薄いですよね」というシューフィッターのお兄ちゃん。「電話で伺ったお話では治療院で
ニューバランスのWW584を勧められたということですが……うーん、この足でインソール作るんだとむしろ……」とちょっと考えた後で、「これ、お電話でお話を聞いてご用意させて戴いたものなんですが、とりあえず履いてみてください」と一足出してきてくださった。タウンウォーキング用の、柔らかいベージュのシューズ。あ、これなら洋服も合わせ易い。そして履いてみると、あ、ピッタリ!

 でも「ピッタリです、すごくいいです」というあたしの言葉にお兄さんは納得しない。歩いてください、という。一回りしてみる。あれ?

 「これ、すごくいいんですけど、足が内側に倒れる症状は矯正されてないような」
 「やっぱり……。やっぱりこれじゃ柔らか過ぎるんだなあ。倒れてるもんなあ」

 そうなのだ、すごくいいんだが、足を痛めた最大の原因である「足が内側に傾く」というのがこの靴ではまったく治らず、履いて立っただけで上から見ると思い切り内重心になってるのがわかるのだ。履いた感じは良かったのに……。

 「病院の先生からは、踵のホールドや中敷以外で何か指定されましたか? 革靴にしろとはいわれてないんですね? だったら……実はお客様の足を拝見したとき、これをお勧めしたいという候補がひとつ浮かんだんですよ。それ持ってきますんで、ちょっと待っててください」

 そしてお兄ちゃんが持ってきた靴を見て、あたしはひっくり返った。いつみもひっくり返った。

    WR760

    
なんぼなんでも派手じゃね?!

 てか、ランニングシューズ? 運動靴? パンツスーツにも合わせ易い、こじゃれたブラウン系の革のタウンシューズという目論見はどこに? カジュアルなデニムやトレーニングウェアとしか合わせられなくね? てかスカート穿けなくね?

 とりあえずお兄ちゃんの言うがままに、これを履いてみる。お兄ちゃんが紐をきりきりしばりあげる。げ、なんか血ぃ止まりそうなんですけど。後ろでいつみが「それくらいきつく縛るもんなの!」とお兄ちゃんを支持する。「これで歩いてみてください」

 ……あ、何これ。柔らかいのにしっかりしてる。指が中で動くくらい余裕があるのにしっかりホールドされてる感じ。そして歩くと、ついぞ感じたことの無かった「足の指で地面を蹴ってる」という感覚がくっきりと!

 「うわ、なんかこれまでとぜんぜん違うんですけど。なんで?」

 お兄ちゃん、満足げににやりと微笑み、

 「サイズは長さと幅だけじゃなくて、甲の高さも大事なんです。お客様の場合、足の甲が低い──というより薄いので、他の靴だとどうしても隙間ができるんですよ。このWR760というシリーズは他に比べて甲の前の方が低く作られてまして、その割に指の部分はちゃんと反ってるので、お客様に合うんじゃないかと
一目見て思いました

 
プロフェッショナル!

 「でもちょっと問題があります。お客様の足の指──特に親指の爪はかなり上向きですよね」
 「ああ、これ、生まれつきなんです。手の指の爪も反り返ってますもんあたし。ほら」
 「ホントだ……。この靴、他はいいんですけど、ちょっと親指が当たってるんですよね」

 それは自分ではまったく気にならない程度。でもお兄ちゃんは靴の上から親指を押さえ「動かしてみてください」「上げてみてください」といろいろ試したあと「惜しいな……」と呟いた。

 「ちょっと待ってくださいね、他のを持ってきます」

 さあ、それからお兄ちゃんの熱意が炸裂だ。これはどうだ、踵のホールドが甘い。こっちはどうだ、内くるぶしが当たる。お兄ちゃんが頭をかきむしって叫ぶ。
「どれも合格点にちょっと足りない!」最早、あたしがどうこうより、お兄ちゃんのシューフィッターとしての矜持と職人魂が場を支配する。

 そして、迷ったときは原点に帰る。これはすべての基本だ。
 結局最初にお兄ちゃんが勧めてくれた、上の写真の靴。いろいろ履いた結果、あれを超えるものはなかった。お兄ちゃんも「インソールを作ってアーチができれば、指もちょっと押さえられるはずなので、これがベストだと思います」と納得(もしくは妥協)した様子。

 「このまま履いてくから」ということでタグを切ってもらいながら、ふとサイズを見てなかったことに気がついた。「これ、サイズいくつですか?」

 「23.5cmです」
 「え、24.0じゃないんだ。ぴったりだから24かと思ってた」
 「型番によって微妙に形が違うので、サイズは靴によって変わるんですよ」
 「へえ……で、幅は? やっぱり1Eですか?」

 
「いえ、です」

 B?! びびびびびびびびびびびいいいい〜? うしろでいつみも仰け反る。

 「Bって、え、えええ?」
 「1Eの下がD、その更に下がBです」
 「
それって最早、纏足なのでは……!
 「でも履いてみて、これが一番フィットしたでしょう?」
 「ええ。それは確かに」
 「幅も、靴によって微妙に違いますから。
  こっちの靴では2Eの人がこっちだとDなんてこともあります。
  実はうちでは1Eの靴ってあまり作ってないんですよ。
  その代わり、DやBはけっこうあるんです。
  お客様の場合は実寸だと1Eですが、幅より薄さの方が問題で、
  インソールを入れて土踏まずを上げてやると更に幅は小さくなります」
 「ひええええ、でも、でも、Bって! あたしずっと3E履いてたのに……」

 うしろからいつみが感に堪えたように一言。

 
「Cカップだと思ってたらAカップだったみたいなものよね」

 「違う」「違います」

 あたしとお兄ちゃん、ふたりしてソッコー否定。なんだその比喩は。長年のジム通い&フィットネスおたくのいつみには、的確なアドバイスを期待し付き添ってもらったというのに、そのキャリアに基づいて出た発言がそれか。それなのか。ジムで何を習ってるんだキミは。
 それでも「このシューズ、派手なのが嫌なんだったら紐を黒にしたら?」というかろうじて面目の立つアドバイスをもらい、且つ、紐遠しまでやってもらったので良しとしよう。

 さあ、明日はこの靴で病院に行き、織田先生(仮名)に見てもらうよ!
 実は買った直後に写メ撮って送ったんだけど、返事がないのよね。デート中だからなのか、やる気がないからなのか、そのあたりも明日じっくり問いつめる予定。
 

足の裏・vs織田編

 ダンナのリハビリ通院の日。
 インソールを作って下さる織田先生(仮名)に、昨日アシックスの店でとった足計測データを意気揚々と見せたら「わかりにくい」の一言で斬って捨てられた……。いつかこいつをひざまずかせてやると心に誓う。
 ただそんな織田先生も、アシックスの
WSX171の画像を見せると「お、かっこいいじゃないっすか」と身を乗り出す。初めて肯定的なコメントくれたよ! そこで意を強くして、昨日フィッターさんから聞いたアドバイスを告げる。

 「でも1Eなので、足底板を入れるには幅が狭いんじゃないかって」
 「狭きゃ削るんでどーにでもなります」
 「あと、中敷はずした下に、若干のカーブが」
 「まあ、それも削れば」

 そ、そんなテキト〜なことでいいの? ねえ、いいの?

 今のところこのアシックスが第一候補なのだが、明後日には最後の候補、ニューバランスのフィッティングイベントに行くことになっている。場所はスポーツオーソリティなので、ミズノにしろアシックスにしろ、ある程度は同じ店で扱っているはず。三社のデータが出そろったところで、明後日スポーツオーソリティで決めてしまおうと思っているのだが、そこでひらめいた。織田先生に一緒に行ってもらえばいいんじゃ? そこでプロの目でいい靴を選んでもらえばいいんじゃん。

 「先生、明後日、一緒にフィッティングに行ってもら」
 「あー、予定があります。残念だなあ。ホントに残念だ」

 ぜんぜん残念そうじゃない顔と口調で、こっちが尋ね終わる前に即拒否。
 い、いつか、いつか絶対こいつをひざまずかせてやるんだからねっ!
 

足の裏・アシックス編

 朝、CBCラジオの「朝PON」出演を終わらせ、朝マックしてカフェで仕事読書して、10時になると同時に栄のアシックス直営店に飛び込む。状況を話し、欲しい靴の条件を告げ、計測してもらうことに。

 いやー、ここの計測、これまでで一番細かい!
 そしてここの計測、これまでで一番扁平足!(しくしく)

 
ミズノでは平面的な長さと幅、そして荷重バランスしか測られなかったんだが、ここは足囲も出るし踵の幅やアーチの高さなど、やたらと細かく出る。そして感動したのは、踵を真後ろからみたとき、重心がどれだけ歪んでるかが出るのだ! 治療院で指摘された「足が内側に倒れ込んでる」というのが数値で出たよ感動したよ。左4.5度、右4.7度、あたしの足は内側に傾いてるらしい。

 足長はコンマ以下の差はあれど、今までと大きな違いは無し。そしてやはりサイズは24.0cmの1Eだと言う。しかしここでシューフィッターさんの顔が曇る。

 「24.0cmで1Eって、メーカーが殆ど作ってないんですよね」

 へ? なんですて?

 正確に測れば1Eだとか、それより更に小さいDサイズの女性が多いのに、自分では3Eくらいだと思い込んでる人が多い(あたしだ、あたし!)。実際は違うのに、そういう人が3Eを購入するため、1Eは需要が少なく商品も数が少ないという状況らしい。ああ、ミズノでも「24.0の1Eはない」と言われたが、そういうことであったか。

 もちろん、まったくないワケではない。ただ、あたしの条件(足底板を入れるので、中敷がとれること・その下が平板なことなど)を満たし、尚かつあたしの足と使用頻度に合うような靴は限られると言う。これも他のメーカーと同じだが、アシックスはそこで代替品ではなく、唯一の「24.0cm/1E」を出してきてくれた。おおおお、初めてだ! 初めて推奨サイズ丁度の靴が試着できるよ!

 これがそのWSX171という型番の靴。
 デザイン、悪くない! 運動靴っぽくなくて、これならたいていのパンツスーツに合いそうだ。スカートでもカジュアルなものとなら合わせられるかも。ただ見た目、かなり細いんですけど。ホントに入るの?

 
入った。

 しかもめちゃくちゃ歩き易い! 何これ。うわあ。ミズノでフィッティングしてもらったときも思ったが、ちゃんと測って、ちゃんと合ったやつを、ちゃんとした履き方で履けばこんなにフィットするものなのか! 感動で胸がおっぱいです。間違い。いっぱいです。

 ここでフィッターさんからしつこくらい注意されたことがある。靴紐は毎回結び直すこと。ついつい緩めに結んで、そのままほどかず脱ぎ履きする人がいるが、それではフィッティングした意味がまっっっっっったく無いと言う。毎回毎回、踵を地面につけ、爪先をあげ、踵を靴のヘリにちゃんと収めてきっちり縛るという行為が必須だと。
 うわーめんどくせえ……。なるほど、最近のウォーキングシューズに小さなファスナーがついてるのは、それか。きっちり結んだ紐はそのまま、ファスナーで脱ぎ履きできるようになってるんだ。なるほど。しかしこの
WSX171にファスナーはない。一段上の2Eならファスナつきがあるが、これにはない。つまり毎回紐を結び直す……。うーん。

 そしてもうひとつの問題。値段が、値段が、いちまんはっせんえん……(くらくら)。

 けれどフィッターさんは、売らんかなの人ではなかった。「足底板を入れるということなら、1Eより少しゆとりがあった方がいいかもしれない。療法士さんと相談してみてください」と言って下さったのだ。ありがたい。そうさせてもらうことにする。ありがとうございますありがとうございます。説明する声がでかいなーなんて思ってすみません。<そんなこと思ってたのか!

足の裏・ミズノ編

 靴選びの目安ができたので、さっそくミズノに行ってみることにする。

 東急ハンズ名古屋店4階にある
ミズノ・ウェルネスショップで改めて足の計測。ここは自動の機械計測だ。足長が左が23.7cm、右が24.0cm。あれ? 金曜に測ったときより大きくなってるよ? もしかして、あたしまだ成長期? いやそれは多分、東急ハンズの名古屋店と栄店を間違えて、ムダな距離を歩いたためむくんでるだけだと冷静なもう一人のあたしが突っ込む。しくしく。そして足幅は8.0センチで、やはりサイズは1Eだと言う。

 ところが24.0cmで1Eというサイズの靴はない、というではないか。そこで勧められたのは5KF052という型番の、23.5cmの2Eでどうかと言う。え、足長も幅も計測値と違うじゃん。何ソレ。

 どうやら幅を示すEというのは足長のサイズによって異なるらしい。
「足長に対しての比率」で決まる相対寸法であり、1Eが何センチというような絶対寸法ではないという。つまり23.5cmの2Eと24.0cmで1Eはほぼ同じ幅なのだそうだ。えー、なんだよそれ知らなかったよ。しかも、足長のサイズは1センチくらいの遊びを爪先に作ってあるので、24.0センチのあたしでも23.5cmの靴は入るのだとか。

 とまれ、勧められた型番にはそのサイズが店になかったので、他のシリーズでそのサイズを履かせてもらった。履くときに気をつけること(まず踵をしっかり靴のヒールカップにはめてから、きつめに紐を縛る)を教わりながら、シューフィッターさんが紐を結んでくれる。歩く。

 おおっ、なんだこれ、歩き易いぞ! カポカポしないぞ! その威力たるや、もともと履いていた靴に足を戻した瞬間「うわあ、頼りねえっ」と思ってしまったほどだ。「一度いい靴を履くと、安いものは履けなくなる」と言われたのはこのことか。

 では
5KF052を取り寄せるかというと、色が黒しか無いということと、一旦取り寄せたらサイズが違っても返品できない(またか!)と聞き、断念する。なんだろうこのシステム。しかも、ニューバランス同様、ベスト寸法がない上での代替品だしなー。一応、型番だけ控えを貰って帰った。次はアシックスだ。

足の裏・靴選び開始

 ダンナのリハビリついでに、理学療法士の織田先生(仮名)に金曜日に貰ったフットプリントを見せ、フットケアトレーナーからニューバランスのWW584を勧められたという話をした。商品紹介ページをパソコンで見せると

 「なんかおしゃれじゃないっすね」

 一言でバッサリ。ええーーーー、先生がそれを言うか!

 そりゃまあね、確かに洋服を選ぶよなあとは思っていた。レザーとは言え、いかにも運動靴だからさ。
 でも機能重視だし、おしゃれ靴とは違うんだからと自分に言い聞かせていたところに、インソールを作って下さる側からまさかそんな見た目の話が出るとは。普通は「見た目より機能ですよ」と諭すのがそっちの立場じゃないのか。

 「いくらですかそれ。いちまんごせんえんっ? たかっ!」

 だからどーしてそう患者のモチベーションを削ぐようなことを言うかなあ織田先生。

 ただ、実は他にも懸案があった。フットケアトレーナーさんからはWW584の24cm/2Eを勧められたものの、治療院に在庫がなく試着できなかったのである。しかも本当は1Eなのに、メーカーに1Eのものがないからという代替候補なのだ。それなのに一旦取り寄せると返品はできないという。試着してないのに取り寄せて合わなくてもキャンセルが効かないってのはどうなのよ、と。

 ここで話は土曜に遡る。忘年会のとき、太田忠司さんやいつみといったジム通いのベテランから運動靴メーカーについて、あそこがいい、あそこは縫製がイマイチ、あそこはモノはいいんだけど日本人の足には合わないなどといろいろ情報を頂戴し、そのとき「日本人の足に合って評判がいいのは、アシックス・ミズノ・ニューバランスの三社」という話を聞いていたのだ。そしてそのとき彼らからは
「靴に金はケチるな、一度いい靴を履くと安い靴は履けなくなるぞ」とまで言われたのさ。

 ニューバランスももちろんいいんだが、他にいろいろ試してみるのもありかもしれない。ミズノは名駅に、アシックスは栄に、足の計測をした上で靴を見繕ってくれるショップがあるらしい。そしてニューバランスは折よく次の週末に、スポーツオーソリティのとある店舗でシューフィッティングのイベントがあるという。だったらそれを回ってみるに如くはない。

 「じゃあいろいろ試してみますが、どんなことに気をつけて靴を探せばいいですか」
 「あー、履き易けりゃ
何でもいいっすよ別に

 ……先生、もしかしてやる気ゼロ? あたしがこんなに燃えているのに?

 「うーん、じゃあ、足底板を入れるんで、中敷をはずした下が平板なこととー、
  踵の後ろと土踏まずの内側が硬めでちゃんとホールドしてくれるってことっすかねー。
  あと、紐靴がいいっすよ。まあ、でも、基本は履き易い靴なら何でもいいっす」

 なんだかとっても投げやりなのが気になるんですけど、まあようやく条件が出そろった。
 いよいよ靴選びのスタートだ。

足の裏・計測編

 ダンナ担当の理学療法士・織田先生(仮名)にインソールを作ってもらうことになったのは、この日の日記に書いた通り。しかし基本ボランティアなので、ぜんぶ先生にお任せするのではなく、自分で出来ることはやろうという殊勝な心がけの大矢である。

 ってことで、今日は行きつけのマッサージ院でフットケアトレーナーによる、〈自分の足を知ろう:無料測定サービス〉というのを受けてみた。数値の他にフットプリントも戴けるというので、それを持って織田先生のところに行けば先生の手間も省けるのではないか、と。

 トレーナーさんは若くてキレイな女性。
「実はこれこれこういう症状がありまして、知り合いの理学療法士さんがインソールを作ってくださるので、その前に自分でも自分の足を知っておきたいなと」と説明する。

「その療法士さん、あたしの足を見て扁平足だなんて言うんですよ。
 ちゃんと土踏まずあるのに。ちょっと見て戴けますか?」
「扁平足って、本来はレントゲンをとって骨の状態を見ないと、
 見た目だけからはなかなか判断できないものなんですけど……」

 ほらぁ、一目見ただけで「扁平足」と断じた織田先生(仮名)に、このトレーナーさんの慎重な姿勢を見せてやりたいぞ! と思いながら靴下を脱ぎ、足を出す。と、間、髪を容れず。

 
「完璧な扁平足です(ズバッ)」

 えーーーーーっ。いや、見た目だけでは判断できないってアンタたった今言ったじゃん!

 「いえ、これはわかります。扁平足です。扁平足です。」

 繰り返さなくていいです。

 そしてトレーナーさんは問診票を見ながらあたしの足をつまんだり回したり折ったり伸ばしたり裏返したり畳んだりして、「関節がルーズですねえ……」と言った。本来足首が曲がるべき正面方向には固いのに、左右にぐらぐらしてると言う。「捻挫しやすいでしょ」「歩いてて何もないところで捻るでしょ」ええ確かに。わかるもんなのだなあ。

 次に台の上に立って計測しつつフットプリントを取る。サイズは右が23.8、左が23.6。そして足の幅は靴のサイズで言えば1Eだと言われて驚いた。あたしずっと今まで自分の足、幅広だと思ってたよ。3E履いてたよ!

 「足の骨が歪んでいるので、1Eだと擦れる部分が出るというだけのことです。
  サイズから言えば、1Eです。幅広の靴を履いてると中で足が動いて、捻り易くなります。」

 そしてそのあと、歩く様子をビデオ撮影。その映像と、さっき撮ったフットプリントを見ながらトレーナーさんが解説してくれた。

 プリントで見ると確かに土踏まずがあるように見えるけど、本来アーチになってなければならない箇所が潰れている。加えて、歩くときに外側から着地し、内側で蹴り出してるので不自然な荷重の移動が起きている。その結果、内側に力が滑ってしまってくるぶし部分の骨が出てきてしまった、と。その逆側が内にくびれてしまって、足全体の形が左右で >< ←こうなってるそうだ。

 もうこの骨自体は治らないので(行く先々でこう言われる……)、歩くときに足が外側や内側によれたりしないよう、踵と両脇をしっかりホールドする靴を選んでください、とのこと。
 それで勧められたのが、
ニューバランスのWW584という銘柄だった。いちまんごせんえん……しかし、今は足の上で荷重が横滑りしているため、膝の動きもブレているし、それは腰にも負担であるらしい。まあ、向こうも商売だから話半分としても、先々の医療費を考えれば決して1万5千円の靴ってえのは、高くはない、と思うのだが。

 このままこの治療院でインソールを作るのならこの靴でもいいんだろうが、そこは織田先生(仮名)に相談せねばなるまい。靴を買うかどうかは保留にさせてもらって(丁度のサイズの在庫がなかったので試着できなかったのだ)、とりあえず結果を持ち帰った。(続く)

足の裏・理学療法編

 ダンナは毎週2回、リハビリのためにかかりつけのK病院に通っている。右麻痺の機能回復訓練のための理学療法(PT)と、失語症の回復のための言語療法(ST)の2種類。
 PTの担当はT先生、STの担当はN先生で、いずれも入院時からずっと担当して下さってるんだが、
拙著をお読みの方には、織田先生(仮名)・羽柴先生(仮名)と書いた方が通りがいいかもね。

 でもってこのリハビリはあたしが送り迎えをしているわけだが、ものはついでとPTの織田先生(仮名)に先だってからの
足の裏問題(1)(2)を相談してみたと思いねえ。最初は何の気なしに「足底腱鞘炎ってPTの範疇ですかあ?」と尋ねてみただけだった。

 「まあ、範疇っちゃ範疇ですけど」

 露骨に「それがどうしたオレにはカンケーねえしもう昼飯の時間だし」と顔に書いてある。でも負けないの。そんな織田先生(仮名)のぶっきらぼうな風情の下は、実は意外とキュートだって知ってるから。その場で足を見せながら、いえね先生、実はこうでこうで、この病院の整形外科で見てもらったらこう言われて、マッサージ院で見てもらったらこう言われて、という説明を一通りしたところ、横から織田先生(仮名)の上司にあたるK先生が話に入ってきた。

 「ああ、その内くるぶしの出っ張りは、外脛骨(がいけいこつ)だね。
  骨自体はもう治らないから、歩き方の矯正と、インソール(靴の中敷き)だなあ。
  丁度いい、
織田君、今、インソールの勉強中だよね。作ってあげなよ
 「えっ。ホントに?!」
 「ええ〜〜〜〜〜? 何言ってんすか!」

 露骨に嫌がる織田先生(仮名)。

 「あ、織田先生がやってくれるなら嬉しいですぅ。でもインソールって高いでしょ?
  治療院で聞いたら、1万数千円から2万円するって言われて迷ってるんですよう」
 
「練習だし勉強だし、材料費だけでいいよ、なあ織田君」

 
「ええええ〜〜〜〜〜?!」

 心の底から不満そうな織田先生(仮名)を「練習練習、はっはっは」と笑い飛ばすK先生。このチャンス逃してなるものかと「ホント? ホントに? いいの? ホントにいいのなら御礼するよ何でもするよ芸術のためなら脱ぐよ!」とすがりつく。

 「……時間のあるときなら。練習台ですよ。練習台。あと、脱がないでいいです」

 瓢箪から駒とはこのことだ。もちろん御礼はするよしますとも。
 基本ボランティアでやってくださるとなれば、時間だ何だと無理は言えない。ただせっかくそういう話になったんだから、とりあえず今日は実際に足だけでも見てもらおう。その場で「外脛骨って、これですよね」と靴下を脱ぐ。と。
 いつもクールな織田先生(仮名)が珍しく大声を出した。

 
「うわああ、すげえ扁平足!」

 ……え? ええええ? 扁平足? あたしが? 嘘っ、土踏まずあるもん!
 46年生きて来て、扁平足だなんて思ったことも言われたこともないもん!

 「どこがですか。一目見ただけで扁平足ですよ。写メ撮って送りましょうか」

 この瞬間から、あたしと織田先生(仮名)の静かな闘いが始まったのであった。(続く)

 付記:このやりとりの間、もくもくとリハビリ(床に座る練習)を続けていたダンナがぼそっと「オレはずっと、それ扁平足だって思ってた」と呟いた気がしたが、失語症なので何かを言い間違えたのだろう。そうに決まってる。

足の裏・東洋医学編

 一昨日痛めた足はまだ痛い。当初ほどではないけど、主として朝イチが痛い。
 今日はぽっかり時間が出来たので、外には出ずデスクワークの日にして足を休めようと思ったのだが、「そうだ、マッサージに行こう」と思いついた。肩凝り首凝り持ちのあたしにマッサージは必要不可欠な施術にして、リフレッシュの場でもあるのだ。そこで足のことも相談してみよう。
 思いついたら即行動。行きつけの治療院に電話すると担当の先生の予約がとれた。

 このH瀬先生ってのがアンタ、まだ若くて可愛い男の子(と言いつつ最近の若い人のトシは見た目じゃわからんのだが、たぶん二十代だと思う)で、もうこのキュートな子に揉まれてると思うとそれだけでヘロヘロに癒されてしまうのよおばちゃんは。
 この治療院では靴のインソールを作ったりとかテーピングとかスポーツ外来とかがあって、必要ならそういう施術も受けられるのだが、とりあえず、いつもの肩揉み首揉みの流れでH瀬先生に診て戴く。

 実は一昨日こうなって、痛みはこんな感じで、病院では足底腱鞘炎だかケンマク炎だかって言われて湿布もらって、という一連の状況を報告する。でもって靴下を脱ぎ、先生の前に左足をでんと出す。

 「あ。内側のくるぶしの下に、もうひとつ骨の出っ張りありますね」
 「整形外科でも言われましたよそれ。珍しいんですか?」

 実はうちではあたしもダンナも、両足の内くるぶしの下にもうひとつ、くるぶし状の出っ張りがあるのだ。小さなくるぶしで「小くるちゃん」と我が家では呼んでいる部位である。大矢家では〈小くる率〉100%なので気にもしてなかったが、実は日本人の15〜20%にしか見られない骨だと言う。へえ。

 「大矢さん、学生時代とかけっこうマジでスポーツしてました?」
 「してましてしてました。そりゃもうアタックNo.1な青春で」
 「この骨の出っ張り、いつ頃からあります?」
 「さあ……覚えてない。靴がたいていその部分から切れるんですよ」
 「そうでしょうねえ」

 そしてH瀬先生は、おもむろにあたしの足を曲げたり伸ばしたり畳んだり裏返したりし始めた。一昨日の整形外科では足の裏の腱をぐりぐりされて痛みにのたうち回っただけだったが、H瀬先生は足首を持って踵をくるくる回して見たり、内くるぶし&小くるの周辺を確認したり、更に上のふくらはぎの方まで押さえ始める。それがアンタ

 「せせせ、せんせーふくらはぎ痛い痛い! なんでっ」
 「足の裏から内くるぶしの下からふくらはぎって、ずっと1本の筋なんですよ」
 「いやだからって! これまで
気付かなかった場所の痛みを発見しなくていいからっ!

 そしてやっぱり足の裏はぐりぐりされると痛い(が、一昨日ほどではない)。ふくらはぎも揉まれると痛かったが歩く分には問題ない。問題は、歩くと痛い内くるぶし周辺だ。そしてH瀬先生が診断を下す。

 
「これ、思春期のスポーツ選手によく出る症状です」

 
大矢博子、昭和39年生まれ。辰年。46歳。思春期

 「先生……客観的に判断して、あたしって思春期にもスポーツ選手にも見えないと思うんですが」
 「まあそうなんですけど」

 多分、若い頃の継続的なスポーツによって内くるぶしの下の骨が歪んだんだろうと。足の荷重がまっすぐじゃなくて内側に落ち込んじゃってるらしい。「X脚ってこと?」と尋ねると違うと言う。X脚とは膝が内を向いてる症状だが、大矢さんの場合は足首から上はまっすぐで、ホントに足(脚じゃなくて)の部分だけが内側に傾いてるんです、と。

 「もうこの骨の出っ張り自体は治りませんから、この状態でできるだけ
  歪んだ部分を補正していくしかないですねえ。
  今の痛みはマッサージで筋をほぐしてやれば楽になると思いますが、
  この骨の歪みのままだとまた何かのはずみですぐ再発しますよ」
 「ああ、それは整形外科の先生にも(結論だけ)同じことを言われた……」

 先生によれば、一番良い対処方法は靴の中敷き、いわゆるインソールを作ることだそうだ。あたしの足に合わせたインソールを使うことで体のバランスを調整するという。でもね、オーダーメイドだしね、靴も一足だけじゃないしね……ということで、まずは手軽な方法としてサポータを見繕っていただくことにした。思春期の若造にはインソールなんて贅沢さ、若造にはサポータあたりがお似合いさっ(ヤケ)。
 次回予約は来週水曜。その前に、ダンナのリハビリの付き添いで病院に行くので、理学療法士の先生に相談してみよう。あ、
「脳天気にもホドがある。」に出てきた織田先生(仮名)のことです。<なんか読者の間で密かにファンが出来たらしい。

 それにしても思春期のスポーツ選手とは。
 そういえば10年ほど前に左上腕を痛めて整形外科に行ったら
「野球肩だね」と言われたことがあったっけ。やってないし、しかも利き腕でもないのに。「原因は変化球の多投」って、投げてない投げてない。「今中や川崎もこれだったんだよね」って、いやだから違うって絶対に!

 あのときは野球が好き過ぎて、想像妊娠ならぬ想像野球肩になったんじゃないかとまで思ったが、事ここに至っては、どうやらあたしの体は身に覚えのない部分でものすごくスポーツをしてるとしか思えない。しかも思春期だし。あたしの中にいる15歳くらいでスポーツマンのビリー・ミリガン出て来い。

足の裏・西洋医学編

 大御所推理作家の小説がドラマ化されるとき、その著者の名前が冠として使われることがある。
 よく見るところでは「西村京太郎サスペンス」「山村美紗サスペンス」などがそうで、別のパターンとして「松本清張の『黒革の手帳』」「東野圭吾の『白夜行』」なんてえのもある。
 ところで、同じようにドラマに名前を冠される大御所作家に夏樹静子さんがいる。でもって、彼女のとある短編がドラマ化されたときも、ご多分に漏れず「夏樹静子の」という枕詞がついたわけだが──。

 その短編タイトルが「足の裏」だったのは、不幸な巡り合わせというしかない。

 新聞のラテ欄にばばんと載った
「夏樹静子の足の裏」。何をやるんだ2時間も使って。見ていいのか。っていうか見たいのか。そもそも誰か局内で止める人はいなかったのか。この話はミステリファンの間では有名なものなんだが、おかげで夏樹静子さんと言えば足の裏、足の裏と言えば夏樹静子さんという、非常に間違った印象をずっと持ち続けるハメになった。いや、「足の裏」は名作短編ですよ「夏樹静子のゴールデン12」で読めますよ。<何をとってつけたように。

 てな話はさておき(さておくのか)、今朝、朝食を食べ終わって立ち上がり、数歩歩いたとき、いきなり左足の内側がズキっと痛んだ。歩く度に、内側のくるぶしの前後が痛くて、まともに歩けない。ぶつけたわけでもないのに、何だこれは。
 じっとしてれば痛みはないのだが、歩くといきなり痛い。底が厚いクッション仕様のスリッパを履くとだいぶ楽。これでは生活に困るので、整形外科に行ってみた(靴を履くとだいぶ楽になった)。

 この病院はダンナがリハビリでお世話になってるところで(
拙著に出て来たK病院です)、医療事務員さんも看護士さんも顔見知り。診察室に入って、左足の内側のラインから内くるぶしにかけてが歩くと痛いんです、ときどき足の甲や足首の方にも痛みが広がるんです、と訴える。
 すると先生はあたしの足の裏を見始めたではないか。先生に向けて足の裏を突き出した状態で、「ほう、内側のくるぶしの下んとこの骨が出てるねえ」「あ、それは昔からです」などと言いながら親指をぐっと反らし、足裏の筋を伸ばした状態であちこち抑え始める。
 いえ先生、足の裏ではなくて、土踏まずの脇のあ──
いでぇぇぇーーーーーーー!

「いだいいだいいだいいいいい!」
「うん、やっぱりここか。これね、ソクテイ──足の底って書くんだけど、足底の腱の炎症」
「えーでも歩く時は足の裏なんて痛くもなんともないですよ」
「でもこうすると痛いでしょ(ぐりぐり)」
「いだいいだいいだああああああ!」
「ね、ここの腱が炎症起こしてるんだよ。だからここと繋がってる上の方まで痛くなる」
「だって一番痛いのは内くるぶしのあたりなんですよう」
「でもこうすると痛いでしょ(ぐりぐり)」
「いだぁぁぁぁあああごめんなさいごめんなさいごめんなさい!
 っていうか
痛いのわかってんなら押さないでもいいでしょ先生!

 楽しんでるとしか思えない。

「最近、いっぱい歩いたとかスポーツしたとかぶつけたとかの心当たりは?」
「いえまったく。むしろ運動不足気味なほど」
「まあ、これは原因不明でいきなりなるからね」
「不明なんだ……。骨とか腫瘍とかの怖い病気ってことは」
「ないない。湿布出しとくから足の裏に貼っといて」
「はあ……怖い病気じゃなきゃ、まあ、いいんですけど」
「でもこれね、一度なるとクセになるよ。何度も再発するよ〜」
「げ」
「つま先に体重かけると痛いから、踵で歩くようになるよ〜」
「げ」
「そうすると今度は腰に来るんだよね、あははははは」

 
絶対楽しんでるだろジジィっ!

 つまるところ、足底腱鞘炎(だったか筋膜炎だったか)ってことで、湿布出されておしまい。でもエラいもんで、痛い内くるぶしではなく足の裏(押されて死ぬほど痛かったところ)に湿布貼ってたら、ちょっと痛みは和らいできたよ。足の裏、侮りがたし。

 ところで診察後、事務員さんから「大矢さん! 
昨日の中日新聞見ましたよ!」と声をかけられた。まえの会社では合コン部員さんだったという美人事務員さんで、ダンナのリハビリ予約の調整にいつもお世話になっている人だ。

「あ、ご覧になりました? あれ写真載ってたから恥ずかしいんですよね」
「大矢さん、
メガネはずしてお化粧したらキレイなんじゃないですかー!

 なんかはっきりとケンカ売られてる気がするんですが。ほぼ2年間、毎週のように会ってますよねずっと顔見てましたよねお姉さん? で、今更のセリフがそれ? それなの?
 〈一度決着をつけねばならない人リスト〉のトップに名前を刻み込み、足を引きずりつつ病院を後にしたのであった。