名古屋本プロ交流会、始動
話は昨年12月に遡る。ツイッター発で東京在住の女性作家さんたちが「小説家の女子会なんて楽しいんじゃありませんこと?」と優雅なランチ忘年会を開催されたのだ。女子会いいなー、ガールズトークいいなー、と思いながら名古屋の片隅で指をくわえて見てたと思いねえ。なんせこちとら、地元で業界の友人とランチしよまいってなときには、20年近く変わらぬムサクルしいミステリ系のメンツ(誰とは言わんが)ばっかりだったからね。女子会でガールズトークしようにも、業界外の女友達と更年期の話題で盛り上がるのが関の山。まあ、それはそれで楽しいんだが。
で、その東京での小説家女子会に参加された中のひとり、碧野圭さんは、名古屋出身の作家さんである。名古屋を舞台にしたフィギュアスケート小説「銀盤のトレース」を出されたときには書店を100店舗巡って挨拶すると言う、そりゃどこのお遍路かというような企画を敢行された方だ。春頃、名古屋に一度帰省するかもってんで、東京女子会を指をくわえて眺めていた水生大海さん(デビュー作「少女たちの羅針盤」が映画になります)と一緒に「じゃあ迎撃するよ! 飲もうよ! 名古屋業界女子会をひっそりやろうよ!」という話になった。ええ、最初はそんなところからだったんですよ。
それがなんでこんなことに……。
どうせ名古屋に凱旋するのなら、徳川宗春よろしく3mの長煙管を手に大振り袖で輿に乗って登場するくらいのことはしないとね、などと面白がってツイッターに書いてたら、「それ出たい、輿かつぎたい」というメンションを頂戴した。それがとある書店員さんだった。この頃は、この書店員さんにしたところで「前にお会いした碧野さんがまたいらっしゃるし、なんかフザけた会になりそうで見てると楽しそう」というレベルだったはず。
でも。作家(と書評家)の飲み会に書店員さんも呼べるのなら。
これはちょっと面白いことになるんじゃないか。
しかも碧野さんの帰省が4月頭ということで、ブックマーク名古屋とも重なるじゃないか。
名古屋というのは大きな都市ではあるけれど、東京や大阪と比べると都会エリアが狭く、凝縮されてる観がある。でもって名古屋在住の作家さんもある程度の人数がいらっしゃる上に、書店は全国規模の大手チェーンから地元の老舗まで揃ってる。
ナゴヤメシだの名古屋嬢だのが一時期評判になったが、こと「本」に関しても、けっこう恵まれた環境の都市なんじゃないか? 集まろうと思えば、多すぎず少なすぎず、ほど良い規模で集まれる都市なんじゃないか? てか、もっと地元の業界関係者で繋がってもいいんじゃないか? せっかく近くに書き手と売り手がいるんだから、コミュニケーションを持たない方がもったいないんじゃないか? そうして名古屋発信で本の世界を盛り上げていく手が、何か生まれるんじゃないか?
昨年、鮎川賞の授賞パーティに参加したとき、「こういう集まり、小規模なものが名古屋でもできるといいのにな」とぼんやり考えていたことを思い出した。おりしも福岡では、こちらも二十年来の盟友(ただし本のつながりではなく自転車つながり)高倉美恵さんが福岡での書店イベント、ブックオカの準備に奔走されていた。名古屋は何もしないって法はない。
実際には名古屋は何もしてないどころか、ブックマーク名古屋はあるし、書店員さんたちのギルド(え?)もある。でもあたしと、あたしの交友関係は、それらとは関わりがなかった。なかった関わりなら、これから作ればいんじゃなかろか。女子会にこだわることもない、名古屋の本関係者なら、女も男もそれ以外もどんどん会えばいいじゃないか。
──とまあ、長くなりましたがこれが経緯です。
でもって本題(ここからか!)。
「名古屋に帰省される碧野圭さんを、長煙管持たせて大振り袖で輿に乗せてお迎えしよみゃあ会改め、名古屋の作家書評家書店員で交流しよみゃあ会」を以下の要領で開催します。
日程:4月最初の週末(1〜3日あたり)で都合の合う日。たぶん夜。
週末より平日の方が集まれそうなら、4/5以降で調整。
場所:名駅界隈。
現時点での参加者:
作家組 碧野さんの他、ミステリ系3名・児童系1名・歴史時代系1名。
他に、今話題のあの人やマニアなファンの多いあの人に声かけ予定。
書店組 ツイッターで手をあげて下さった方の中で確定2名。
〈調整の上、前向きに検討〉数名。ひっかけられそうな人1名。
書評組 てかあたし以外におらんのか名古屋には。いるだろう誰か。
こんな感じで、気の置けない気軽なパーティでもできればと思ってます。固い事抜きで、自由にいろんな人と話せるような。興味のある在名の作家さん書店員さん書評家さん、ツイッターで @ohyeah1101 宛にメンション下さるか、メールか、facebookでのメッセージかでご連絡戴ければ嬉しいです。もちろん、遠征参加も歓迎です!
てか、何がネックってあんた、作家も書評家も「名古屋出身」てえ人は何人もいるんだが、そのうちどなたが「名古屋在住」なのかが分からんのだよなあ。これまでホントにミステリ系としか付き合ってなかったからなー。その辺の情報収集からせなかんでいかんわ。
やりたい仕事

で、このアンソロジーはいわゆる「3F小説」──女性作家が書いた、女性が主人公の、女性読者向けの作品を集めたもの。Fってのはfemaleの頭文字ですね。
あたしは、大好きなショーン・ヘスのマゴディ町ローカル事件簿シリーズ(訳出の続きを熱望!)の短編が収録されてると聞いて取り寄せたんだが、その他の書き手もすごいのよ。メアリ・ヒギンス・クラーク、サラ・パレツキー、フェイ・ケラーマン、アマンダ・クロス、ルース・レンデル、ギリアン・ロバーツ、S.J.ローザン(リディア&ビルですよ奥さん!「夜の試写会」にも入ってないやつですよ!)などなど、錚々たる顔ぶれ。どうして品切れのままなんだろうなあ、もったいない。
小説としてのタイプは多岐にわたってるけど、いずれもミステリ。ヒロインには警官もいれば私立探偵もいるし、キャビンアテンダントに海兵隊員、そして主婦、キャスター、教師。コージーもあればスパイ物もあり、サスペンスもロマンもある。百花繚乱とはこのことだ。
そしてどの作品も、舞台やジャンルは違えど、ヒロインがそれぞれ自分の筋を通そうとする物語であるところに注目。いろんな意味で〈強い女性〉が描かれている。すべてがそうとは言わないけど(サイコサスペンス的なものやブラックなやつはちょっと違うから)、自分の持ち場をしっかりと守る女性たちが生き生きと描かれている。それも「フィクションのヒロイン」ではなく生活者としての女性。国が違っても、職業は違っても、みんな同じだよねという気持ちになる。登場人物にエールを送りたくなり、そして登場人物からエールを貰える、そんな〈女性による女性のための〉アンソロジー。
どうしてそんな20年も前の文庫の紹介をしてるかというと──こういうのが読みたいのに、日本にはないのよ! 以前、光文社文庫で山前譲さんが編まれた「女性ミステリー作家傑作選」があるけど、あれは「日本にはこんなに素晴らしい女性作家がいるんですよ」というところにフォーカスされたもので、〈女性読者のための女性の物語〉ではなかった。なぜかサイコなものが多かったりしたし。
日本にはなかなか系統だった「コージー」というジャンルは根付いてないのが現実だけど、書き手はいるのよね。作品もあるのよね。あ、コージーって言葉を使ったけど、それだけじゃなくて、サスペンスや警察小説、本格まで入れてもいい。要は、読者が自己投影できるような、読者がロールモデルにしたくなるような、生活者として描かれているヒロインで、寝る前に一編ずつ読んで「たいへんなことはいろいろあるけど、明日も元気に頑張ろう!」と思えるような作品で、それでいてミステリとしてもレベルが高いもの。そういう作品を集めた女性読者のためのミステリ・アンソロジーって、読みたくない?
てなことをツイッターに書いたらば、思いのほかたくさんの反響を戴いて驚いた。多いんじゃん読みたいって人! 思えばヴィレッジ・ブックスやRHブックスのコージーだのロマンティックミステリだのって、けっこうな固定読者がついてるんだよね。いわゆる〈読書マニア〉とは層が違うから大きな声にはならないだけで。女性向けの、気軽に読める短編集で、でも中身はしっかりしたものって、需要がありそうじゃないか。
これはやりたい。編みたい。編みたいなあ。編みたいと網タイツはちょっと似てる。そんなこたあともかく。ツイッターやメールで「出してください」という声をたくさん頂戴したのに気を良くしたものの、出してくれるところがないと話にならないので、ちょっと働きかけてみようかと思います。あ、ここにも書いておこう。「ウーマン・オブ・ミステリー日本版」に興味のある編集さん、いませんか?


なお、「ウーマン・オブ・ミステリー1」の編者であるシンシア・マンソンさんは、他にも「本の殺人事件簿I」「同 II」というアンソロジーを編まれていて、こっちもあんた、本にまつわるミステリというお好きな方にはたまらないテーマで、しかも書き手がマイクル・リューインだのマーガレット・マロンだのセイヤーズだのレンデルだのローレンス・ブロックだのプロンジーニだのマイクル・イネスだの、これもまたお好きな方にはたまらないラインナップで、つまるところ、何から何までお好きな方にはたまらないアンソロジーなのだが、品切れです。ぐすん。
こうしてみると、シンシア・マンソンさんて、いい仕事してるなあ。羨ましい。他にも猫ミスやクリスマスミステリーのアンソロジーも編んでいるとのこと。
緊急時に慌てない理由

拙著にも書いたけど、まずは阪神大震災の経験が生きてるってこと。でもそれだけじゃない。
「読書」の功績が大きいよ。
本を読むってことは、他人の人生を追体験するってことだから。本の登場人物がとった行動は、すべて自分の疑似体験となる。「こういうときは、こうするのか」という実例が、無意識のうちにどこかに蓄積されるんだと思う。
あ、読書はもちろん純粋に楽しむためのものです。でも結果として、知らず知らずのうちにいろんなシミュレーションをしているってことになるのね。
そこでこれを紹介しておきましょう。日明恩『ロード&ゴー』(双葉社)。
救急隊員たちが〈救急車乗っ取り〉という事件に巻き込まれるサスペンス。日明さんらしく、〈お仕事小説〉としての情報も満載で、救急隊がどんな仕事をしているか、裏側はどうなってるか、患者にどう対応してるか、通報者に求められるものは何かということが、いろいろ出てきます。
ああ、くれぐれも誤解しないで戴きたいんだけど、別に啓蒙書じゃないのよ。手に汗握るジェットコースター・サスペンスで、話の展開が意外性に満ちていて、めちゃくちゃ面白い小説。ただ、これを読んでおくと、かなり役に立ちます。そして救急隊員の皆さんに敬礼したくなります。
拙著に書いた言葉を再掲。「知識は力」です。知識があるってことは「どうすればいいか」の答(あるいはヒント)を持ってるってこと。パニクりそうになったときに「まずこれをしよう」っていう行動指針があるのと無いのとじゃあ、ぜんぜん違うのさ。
……まあ、そんなあたしも、運転してて車線変更間違うとめちゃくちゃパニクるけどな。車線変更小説って誰か書いてくんないかしら。

「asta*」2011年2月号(ポプラ社)で、
小路幸也『ピースメーカー』のレビューを書いてます。
伝統的に運動部と文化部がいがみ合っている中学校が舞台。その架け橋となるべく奮闘するふたりの放送部員が主人公です。連作集でそれぞれに魅力があるんだけど、舞台が1974年ってえのがイチイチ懐かしい。細かい小道具の使い方が巧いんだよねえ。自分の中学時代のお昼の校内放送を思い出し、その流れのまま、中学のあの教室のざわめきや、窓から入る光の具合や、上履きで廊下を走ったときの足の感触といったものが思い出されてくる。
善くも悪くも、鷹揚な時代だったよねえ。先生方も、職員室で当たり前のように煙草吸ってたしね。
発売は1月13日だそうです。
今年の文庫解説1号2号
ツイッターでその話をすると、複数の方からこの問題だろうとご指摘戴きました。IEのアップデータがそういう仕様になってるみたいね。「再読み込み(F5キー)する、他のブラウザを使う、マイクロソフトの手直しを待つ」というサジェスチョンも。
Win環境でも、他のブラウザだと大丈夫。IEもバージョンで違うみたいですね。うーん、でも特定OSの特定ブラウザだけの問題ってことになると、こっちで対応できることは何もない気が……。

2011年最初の解説文庫です。書いたのは去年だけど。
このキュートなイラストを見て戴けばお分かりの通り、コスプレマニアの話です。嘘ですごめんなさい。半狐半人の少年と怪しい陰陽師がコンビを組んで、町の事件を解決するほのぼのあったか連作ミステリ。家事や仕事がぽっかり空いた週末の午後、難しいことは考えず、リビングでごろごろしながら読むのにうってつけです。ちょっぴり苦くて、でも暖かい。上質のショコラのような物語。中高生にも良いと思うぞ。本日発売。

深谷忠記『毒』(徳間文庫)の文庫解説を書きました。
こちらは7日発売。
著者の真骨頂とも言える、胸にずんとくる社会派とトリッキーな本格の合わせ技。社会派と本格を両立させるって点にかけては、深谷さんは第一人者と言ってもいいと思う。トラベルミステリの印象が強いかもしれないけど、それこそ「落ちこぼれ探偵塾」(なまもの書評にリンク、でもIEユーザーは化けるかも)の頃から深谷さんは社会派本格を書き続けてる数少ない作家さんなんだから──てなことを解説で書いてます。
でもって今日は芥川賞・直木賞の候補作の発表もあったりして、「おおこれが」「やっぱりこれが」といろいろ思うところはあれど、なにはさておき今日〆切のエッセイをひたすら書いておりました。午後はコメダ珈琲に籠ったよー。最早コメダが仕事場と言っていい。コメダがなかったら〆切落としまくってるんじゃあるまいか。いっそコメダに住みたい。
ただコメダは、モーニングをやってる時間帯は相席当然ってくらいの混みようなので、午前中使えないのが難点。なんとかならんか。せめてあたしの〆切前だけでも、近所の方は午前中コメダに行くのを遠慮して戴けるとありがたいんだが。
ノリPに便乗

朝日新聞の無料会員サービスasParaに登録するとネットでも読めるようです。が、ま、そこまでして読むほどのものでも。
ただこの号はトップ特集があの酒井法子独占インタビューで、週刊朝日の売れ行きがいつもよりかなり良いらしい。そういう号に載せて貰えたと言うのは、こと宣伝という点においてはラッキー以外の何者でもない。のだが。
ただ、探して買ってくれた友人親戚にとっては……特に普段この手の週刊誌を買わない層にとっては、なかなかにハードルの高い買い物であったようだ。
「別に酒井法子興味ないのに、絶対ミーハーだと思われた……」
「わざわざ店員さんに訊いて、出してきてもらったら酒井法子って」
「オレもノリPにつられて発売日に買いに来た客だと思われたんだろうなあ」
これだけでもなかなか忸怩たるものがあったようだが、記事はノリPだけじゃない。
「表紙の上の方にある〈40代からの幸せ♥セックス〉って何っ!」
「わざわざ電話で取り置き頼んで、出された表紙に〈40代からの幸せ♥セックス〉…」
「違うんです確かに私は40代ですがその記事が目当てじゃないんですホントです!」
いやはや、すまないねえ。わははは。
ところでこの取材は近所のコメダ珈琲で受けたのだが、ライターさんが同い年の女性ということもあり、雰囲気としては終始雑談だった。話のメインは本のことでも介護のことでもなく「どうして男ってえのは、妻の運転に対して助手席からやいのやいの言うんだろうか。あの性質はY遺伝子に組み込まれているのではないか」という話で小一時間盛りあがったくらいだ。
あれで仕事になるんだろうかと危惧していたが、やっぱプロだな、ちゃんと記事になってるよ。ライターさんが言った「私は夫に助手席からあれこれ言われてぶち切れ、向こうが謝るまで1週間口をきかなかったことがあります」というエピソード以外、あたしは何も覚えてないのに。
中日新聞で紹介される
取材を受けたのは5日の夕方。
その時点では日本シリーズの行方が決まってなかったので、「シリーズが終わってからの掲載となります」と言われていた。しかも「勝ったか負けたかで、紙面も扱いも変わる」とのこと。いずれにせよ日本シリーズにからめて「ありがとうドラゴンズ」みたいな記事にしたいらしい。
だもんだから出来上がった記事を見て大笑い。ダンナの病気もリハビリも、すべての話はドラゴンズへと結びつけられている。まるですべての道がローマに通じるかのように、すべてのネタがドラゴンズへと通じている。これは中スポか。あ、いや、記者さんの主旨を汲んで、あたしがサービス精神全開でそういうふうに話したんですけどね。もちろんぜんぶ事実ですよ。
ただ、記事の後半で「和田一浩選手が骨折していたと知り、同じ“骨折仲間”として負けられない、とリハビリに励んだ」みたいな意味のくだりがあるんですが。ここであたしは「でも和田さんに勝てるのって髪の量だけですけど」というエスプリに満ちたコメントをしたんだが、それはばっさりカットされていた。やっぱりな。わはは。
なお、新聞記事は良いんだが、ネット掲載分で見出しが「リハビリ竜が励みに」となっているのがわかりにくい、という指摘をいくつか頂戴した。確かに、リハビリと竜の間に読点欲しいよね。どんな新種の竜かと思ったぞ>リハビリ竜。
ラジオ出演してきた
今日はCBCラジオの「多田しげおの気分爽快!朝からP・O・N」のゲストコーナーに出演なのだ。拙著の宣伝を兼ね、介護やリハビリについて話すのよ。バスの時刻の関係でかなり余裕があったので、主婦の夢である〈朝マック〉を堪能してから局に向かう。
7時50分、局着。CBCの前には大きなウルトラマンなんちゃらが立っている。そのなんちゃらの前を通り、東玄関で守衛さんに来意を告げてしばらく待つと、をかべまさゆきさんが迎えに来てくださった。今回の出演はをかべさんの差し金なのだ。拙著を読んで番組のディレクターやパーソナリティに、ゲスト出演を提案してくださったのである。
ラジオ出演となると、話題や内容はともかく「おしゃべりはできる人なの?」というのが出演の可否を左右する。実はワタクシ若かりし頃にお天気お姉さんをやっており、ラジオやテレビで喋るという経験はそこそこあったのさ。いや、ホントに大昔のことですよ。まだ近所の公園に恐竜がいて、小学生は夏休みの自由研究に三葉虫の標本を作っていたくらいの大昔。でもまあそれなら、昔打った篠塚ってやつで、なんとかなるんじゃね?と局の人も思ってくださったようだ。
8時18分、コーナースタート。
多田さんが本の紹介をしてくださった後で、リスナーがとっつきやすいようにまずはドラゴンズの話から入ります。「昨日の試合は残念でしたね」「あれは中田君が、名古屋で2試合できるようにと演出してくれたんですよ」「中田君って、君づけなんだ」「大学の後輩ですから」「そうなんですか! えっと、北九州市立大学? あまり野球で有名な学校じゃありませんよね」「はい、ですから中田君がドラフトで指名されたときには、うちの学校に野球部があったのかという方が驚きで……」
介護の話はどこに?
本の奥付の著者紹介に「座右の銘は〈岩瀬で負けたらしょうがない〉」とあるのを多田さんが取り上げてくださったので、「それは〈万全の準備をして、最善と信じる手段をとったのであれば、それで失敗したとしても後悔はしない〉という深い意味があるのです」と返す。すると「それは病気やリハビリの話にも通じますね」と誘導してくださるあたり、さすがプロである。正直、そんなことは考えてなかったのだが。<こらこら。というわけで、ダンナの発症当時の話やリハビリの様子の話題へ。このあたりは拙著の内容とかぶるので割愛。
ただ悔やまれるのは「リハビリで驚いたことは何ですか」と言われ、とっさに何も思いつかなかったことだ。今にして思えば、「思いつかなかった」ということ自体がネタになる。つまり、
「医者の説明だけでは正直、知りたいことがすべてわかるわけではない。だからダンナの発症直後には、とにかく脳卒中に関係する本を借りまくり、読みまくった。それで予習ができたので、リハビリで殊更驚くということはなく、むしろ状況がとても良く理解できた。知識は力です。できるだけ早く“情報収集”をすることで安心が生まれます」
という話に持っていくチャンスだったのに──。情報収集の大切さ、言い損ねたなあ。まあ、素人判断の危険性とか、失語症というマイナーな障碍の話ができたら、いいか。
そうそう、もうひとつ後悔したこと。ダンナは鉄道マニアで失語症でも鉄道車両の型式だけはすらすらと話せたという話題があったのだが、あたしが出たゲストコーナーは〈暮らしに鉄分〉という名前だったのよ! うわあ、鉄っちゃん話とコーナー名を巧いこと絡められたのに本番中に思いつかなかったよー。
20分のコーナーが終わり、御礼を申し上げて局を辞す。デニーズでコーヒーを飲んでるところに番組を終えたをかべまさゆきさんがいらっしゃって、45分くらいお喋り。拙著2冊にサインして、共通の知り合いの近況や、本の話などに花が咲く。出演コーナーの録音CDも頂戴した。ありがとうをかべさん! ひさびさにお天気お姉さん時代の自分を思い出して楽しゅうございましてよ。
そしてまた、この一件が次なる展開を呼ぶことになるのだが、それはまた別の話。
脳天広告
(左/中日新聞 右/朝日新聞)


中日新聞が思い切りドアラ押しなのに対し、朝日にはドアラのドの字も無し。帯も無いし、紹介文の中にも「ドラゴンズファンで云々」という表記がまったく無い。まあね、ライバル新聞のチームなんだから、当然か。でもこうして見ると、ドアラがないと寂しいなあ、この本。
という時点で何の本なんだか、著者自身が見失っていることが判明。
「脳天」@名駅・三省堂他
というわけで今日は名駅の書店を巡る。
本来は、毎月我が家でやっていた三婆……げふんげふん、三人娘(いつみ・かおかお・こいん)を招いての茶話会の日なのだが、せっかくなので今回は名駅書店巡りを兼ねて、お外でこじゃれたディナーでも食べましょうそうしましょうということになったのだ。
実はこのいつみ・かおかお・こいんの3人、『脳天気にもホドがある。』にもそのままの名前で登場している(イラストもある)。登場人物には献本することにしているので、今日は書店で『脳天』を購入して彼女たちに献呈する予定なのである。
午後3時に、セレブマダムっぽく名鉄グランドホテルのスカイラウンジで待ち合わせ。
まずはホテルの入ってる百貨店の5階に紀伊国屋書店に行き、ノンフィクションコーナーの平台に2冊あったのを発見。
ところがそこでスットコ娘・こいんが、近くに「森見登美彦コーナー」が出来ていたのを見て「こっちに置きましょう、これと替えましょう」と言いながら「ペンギン・ハイウェイ」の山を動かそうとしたので、慌てて押しとどめる。ななななんちゅうことを。アホかお前は。
次は高島屋11階にある三省堂書店。
ツイッターなどで、どうやら『脳天』は書店によって置かれる場所がまったく違うということが判明したため(ノンフィクション、介護・福祉、スポーツ、ドラゴンズ、女性エッセイなどなど)、手分けして探そうということになった。
「検索禁止、店員さんに尋ねるのも禁止、自力で探すこと!」
とワケのわからないルールをいつみが宣言し、4人で売場に散る。が、意外とあっさり見つかった。
レジ目の前の「ドラゴンズコーナー」と新刊や話題本が置かれている「注目書籍コーナー」の2カ所。なんか目立つところに置いてくださっててありがたく、担当の方にご挨拶させていただいた。
で、ここで三婆に献呈する本を買ったわけだが、レジに並んでいるときにとんでもないものが目に入ってひっくり返りそうになる。
『脳天気にもホドがある』のパネルが、レジの後ろに立てかけてある!
なんだあれは。あんなものがあるのなら出してくれよ、いや出さなくてもいいがとりあえずブログ用に出したところを写真に撮らせてもらえまいか。そう頼むと快く出してくださった。

落合監督の著書と「ニーチェの言葉」に囲まれる『脳天』の図。
写真だけ撮って「ありがとうございました、もうしまって戴いてもけっこうです」と謙虚に申し出たのだが、担当の方は「僕も今、出社してきたところでまだやってなかったけで、出す予定でしたから」とそのままにして下さった。ありがたやありがたや。
平積みして下さってる書店さんはけっこうあったが、こうしてパネルとかが出ると目立ち方が違うなあと感動しきり。あおい書店ではまったく違うパネルで客引きをしてださっていたが、こちらは正真正銘、拙著のパネルだ。いつまであるか分からないので(こらこら)、近所の人は早めに行って一度見ておこう。冥土の土産になるぞ。
そのあとはジュンク堂名駅店に回る。ここもやっぱりドラゴンズコーナーで多面展開して下さっている。店員さんは、「こんなに注文した覚えはないんですが」と著者に向かって驚くほど正直過ぎる本音を言ってくださった(うわははは!)後で、「でも入荷してすぐに数冊出ましたから、とても良いペースだと思います」とすかさずフォロー。
それにしてもドラゴンズコーナーに置かれているケースが多い今日このごろ、野球シーズンが終わったあとでどうなるのかが心配。上に書いたように、ツイッターによると他の地方ではノンフィクション、介護・福祉、スポーツ、ドラゴンズ、女性エッセイなどなど書店によってまったく違う場所に置かれているようなので(なんと札幌ではついに動物キャラクターのコーナーに置かれていたそうだ!)、新刊コーナー及びドラゴンズコーナーが存在するうちに買ってくださいプリーズ。
「脳天」@栄・あおい書店
続いて黒田研二と一緒にスカイル5階のあおい書店へ。ここは昨日の時点では未入荷だったが、今日20冊だか30冊だか入る、という話を聞いていたので楽しみにしていた。どのコーナーかなー。ドラゴンズ本かな、闘病記かな、エッセイかな〜。
無い。
ぐるぐる探しまわるが、無い。20冊だか30冊だかというので平積み中心に探してたんだが、無い。店内の検索端末で見ると、「ここにあるよ」という場所が示されてるんだが、そこに行っても、無い。
しょうがないので店員さんに訊いてみたら、その「ここにあるよ」という場所に案内され、平台ではなく棚刺しの1冊を出してくださった。あれ? 1冊だけ? 病院の療法士さんたちに差し上げる本をここで買おうと思ってたんだが、1冊じゃあなあ……。
1冊しかない、というところでカミングアウトするのも恥ずかしいっつーか、申し訳ないんだが、実はこの本の著者でして、知り合いに配る本を何冊かまとめて買いたいと思いまして、と尋ねてみる。
「少々お待ちください……(検索している)あ、ございます。30冊入ってます」
どこに?!
その店員さん(若いお姉さんだった)は、「30冊なので、どこかにまとめて平積みしてると思うんですが」と言いながら探して下さる。いろんなコーナーを見てくださる。文芸書、話題の新刊、エッセイコーナー、スポーツ、医療……ってところはいいが、えっと、戦記物とか経済本とかのコーナーまで見ていただかなくても、たぶんそこには無いと思うが。てか、あったら店のポリシー疑うが。
「申し訳ありません、今日は担当の者が休んでまして、ちょっとどうなっているのか……」
「あ、お休みなんですか」
「はい、でも30冊入ってるのは確かですから、あるはずなんですけど」
「まだ入荷されたまま、荷物が解かれてないのかもしれないですね」
「はあ……」
「わかりました、また後日まいります」(←と言いつつ丸善で買って帰ろうと思っている)
「申し訳ありません」
しょうがないね、行こうかと同行の黒田研二に声をかけ、下りのエスカレータに乗ろうとした、そのとき。エスカレータ近くに、っていうかさっきまでずっといた検索機の目の前に。
ワゴン1台、まるごと脳天。
ギャース! なんだこれ。ずっとこの前にいたのにぜんぜん気付かなかったよ! まさかこんな置かれ方してるとは思わなかったよドアラ! っていうか、なぜ店員さんも気付かないんだこれに。
黒田とふたりして「なんだこれ!」とひっくり返る。慌てて取って返してレジの中にいたさっきの店員さに、「ありました! あそこ!」と指さしてみせた。
「はあ……」と不得要領な顔の店員さん。「写真撮っていいですか?」というこっちの問いにも「あ、はあ……えっと……」と、なぜか歯切れが悪い。
あれ? もしかしてさっきの店員さんと別の人に声かけちゃったかな?
いやあ、もともと映像記憶力が弱い上に、若い女性ってみんな同じ顔に見えるもんだからさあ。ま、いいか(いいのか)。と写真を撮った次第なんだが。
写真を撮りながら黒田が言う。
「なあ、これってスゴいんだけど、ただ……レイアウト作業、途中っぽくね?」
「あ、あたしも思ってた!」
「普通なら、これだけ積んだらPOPとかポスターとかついてそうなもんだけど」
「担当さんがお休みだって言ってたから、とりあえず開店前に荷解きだけしたって感じ?」
「そこで時間切れだったのかー」
「でもこうして、良い場所に積んでくれてるだけでもありがたいよ!」
良い場所の割に、店員さんですら見つけられなかったじゃないかというツッコミはさておき。
実はこのワゴン、大きい割にはそこに『脳天気にもホドがある。』があるとは、一見気付かないような仕組みになっているのだ。POPの類いが無くて作業中っぽく見えるというだけじゃない。もっと大きな罠──ありていに言えば、ミスディレクションがあったのである。
脇に「もしドラ」の立て看板が!
そんなところに『もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』のでっかい看板置いてたら、どう見てもそこには「もしドラ」が積まれてると思うじゃないか!
何このミスディレクション。何このレッドへリング。っていうか、
看板が『もしドラ』・商品は『もえドラ』
って巧いこと言うてる場合か。いや、ホントありがたいんだけども、でも、『もしドラ』探してる人がここに来て本を手にとったら……戸惑うだろうなあ(笑)。
まあ、担当さんがお休みということで、いつまでもこのままじゃあるまい。あたしとしては、ドラッカーに客引きして貰えるならこんなありがたいことはないが、ドラッガー(の女の子)の方が迷惑だろう。今後あおい書店での『脳天』がどうなるか、栄に行かれた方はレポートをプリーズ。
明日(24日)は飲み会がてら、名駅の書店を巡るよ! カツオ君とワカメ! そうでなくて。刮目して待て!
「脳天」@栄・丸善&ジュンク堂
ってことで今日は栄(名古屋の繁華街の地名です)に出る用事があったので、ついでに主立った書店を巡ってみた。黒田研二につきあってもらうことにして、午後2時半に明治屋2階のデニーズで待ち合わせ。丸善の隣だからね。
そういえば、黒田のデビュー作「ウェディング・ドレス」が上梓されたときも、ふたりで書店を巡って「あるある!」ってはしゃいだよなあ。あれからもう10年か……と思いながらデニーズの角まで行くと
デニーズが無い。
いつ無くなったんだよオイ。出足からこれかい。今日の計画、いきなり暗雲がたれ込める。
気を取り直して直接、丸善で落ち合うことに。したらばさ、入り口入ったところにドラゴンズ本コーナーが出来てまして、そこにいきなりあったよ。
うおおおお、落合監督の著書の隣に! ペナント優勝記念写真の下に!
担当の方に取り次いでもらってご挨拶と御礼。そしたら「話題の本」のコーナーにも置いているということで、わざわざ案内してくださった。
ぎゃ。三冊分のスペースで多面展開して下さっている!
なんか周囲の本が、めっっちゃ堅いんですけど。いいのかしら。そんな中にドアラ。「大いなる暗愚」とか「読み解き般若心経」だとか「死ぬときに人はどうなる10の質問」とか、そんな作品群の真ん中に脳天気なドアラ。あ、いや、脳天気なのはドアラじゃなくてうちの夫婦なんだが、しかし浮いている……。大丈夫なんだろうか。
更に2階の闘病記のコーナーにも置いて下さっているとのこと。「昨日も問い合わせの電話があったり、初日に何冊か出たり、好調ですよ」とおっしゃってくださった。そんなペースでは本当はいかんだろうと思うのだが、黒田もここで購入。偶然、自転車チームの友人が買いに来てくれたりして、とりあえず面目は立ったか。
たぶん、その問い合わせの電話は昨日の日記に書いた友人のことだと思うが、これほどまでに積んで下さっているのを見ると「問い合わせの電話に、著者名ではなく『ドアラのですね』とおっしゃったそうですが」という指摘はできない。ええ、ドアラの本ですとも。ドアラ上等!
続いて、ナディアパークの中のジュンク堂へ。
ここは7階に専門書、地下に文芸・雑誌・コミックと分かれていて、どちらにあるのかチト迷ったが、とりあえず地下に行ってみる。
うーん、無い。昨日の報告によれば、昨日はスポーツ書籍のコーナーにあったというんだが、ない。検索しても場所は店員に聞けと書いてあるので、聞いてみる。そしたら、文芸書のエッセイコーナーにあったよ。
この写真ではわかりにくいでしょうが、「余命1年からの奇跡」「天国の薫〜世界で一番キミが好き〜」という2冊に挟まれてます……。いや、いいんだけど。ジャンルとしては多分同じなんだけど。でも、やっぱちょっと、なんつーか、その、「ふざけてスミマセン」と心の中で謝る。
ここでも担当さんに御礼を申し上げたら「ドラゴンズが今日勝ったら、もっと出るかもしれませんね」と言われた。もうすっかりドラゴンズ本扱い。でもその方がいいの。真面目な闘病記の中に入れられると申し訳ないの。しくしく。
しかし、次に訪れたあおい書店では、もっとたいへんなことになっていたのであった。(続く)
『脳天…』発売&目撃情報

ちょっと日記の更新が空いてしまいましたが、過去日記は追って補完します。
今日は告知。
『脳天気にもホドがある。』発売されました〜!
まあほら、でもさ、ドアラ帯だしね、ドラゴンズ色が前面に出てるしね、東海圏中心に配本するって聞いてたんで、他の地方の方はネット書店をご利用下さいねなんて言ってたわけよ。
ところがさ。今日になってツイッターやメールに、関東や関西から店頭での目撃&捕獲情報が続々と入ってきたから驚いた。
「秋葉原ヨドバシカメラの有隣堂では、10冊くらい平積みになってました」
「横浜綱島の書店でゲットしました!」
「表参道の交差点の小さな薄〜い本屋で1冊見つけました」
「港区田町の駅前にある本屋でも平積みされてました。ちゃんとドアラの帯付きでした」
「横浜地下街の有隣堂でも平積みになってました! 山がそこそこ窪んでいた気がします」
「紀伊国屋書店梅田店で面出しに」
「ブックファースト梅田で10冊積んであった」
「千葉県は丸善津田沼店で平積みされていた5冊中、1冊購入しました。
野球のコーナーにあったのですが、リハビリ本ではないのでしょうか」
まさに今、CSで中日相手に劣勢に立たされているジャイアンツの地元と、既に善戦虚しく真っ白な灰になってしまった阪神の地元で、ドアラ帯の本を売って下さっているんですか! 今年さんざん勝ち星を稼がせてもらった上に身売り話でバタバタしてる横浜でも平積みして下さってるんですか!
なんて心の広い都市なんだ!>東京&大阪&横浜。
ところがお膝元の名古屋からのレポはと言えば
「星野書店パッセ店に駆け込みで購入。闘病記コーナーの棚差しラス1でした」
「丸善なう。2階書棚で確認。でも1冊だったから断念したなり」
「あおい書店に無かったよー」
「リブロには置いてなかった……」
「らくだ書店の店頭にはありませんでした」
「名駅高島屋の三省堂も×でした〜」
「名古屋東部にある三洋堂書店に行きましたが、25日入荷だそうです……」
「CSの最中にナゴヤドーム前イオンの書店がドアラ帯の本を置いてないって、どゆこと?!」
地元名古屋の方が入手しにくいって何これ。ただ一方で、
「あおい書店は明日(23日)20冊だか30冊だか入るってさ」
「栄の丸善は1階の新刊・話題の本コーナーに積まれてたよ」
「三洋堂猪高車庫東店は25日に20冊入るって」
「高島屋三省堂は、明日の荷物に入ってるかもしれない、だそうです」
「名駅のジュンク堂で買えました。スポーツコーナーにありましたよ」
「ロフトのジュンク堂で買えました。明日、大量に入荷してスポーツ書籍コーナー他
いろいろな場所に置かれるそうです」
というレポートもありました。特に栄の丸善さん。話題本コーナーに置いて下さってたのか。「1冊しかない!」というメールをもらって「えええ、丸善があ?」と思ったけど、別のコーナーにあったらしい。高島屋の三省堂さんの、まるで田舎から親が送ってくれる食料を待ってるかのような、頼りなくも誠実な受け答えも好き(はぁと)。
そう言えば版元の営業さんのメールによれば、文芸書と医学コーナーに置きますとか、女性エッセイのコーナーと新刊コーナーに置きますとかっていう、複数のコーナーに在庫を分けて置くってな書店さんがあったなあ。
なので棚差し1冊だった、と思っても実は別のコーナーにあったりという可能性もあるので、大きな書店では店員さんに尋ねてみてください。フクさんは梅田の紀伊国屋書店で「医学書のリハビリテーションのコーナーに行ったら影も形もなかった。途方に暮れてうろうろしていたら、ドアラと目が合った。ノンフィクション棚にあった」とツイートして下さってます。上記の千葉県津田沼の丸善さんみたいに、野球コーナーに置かれてるケースもあるようだし。まあ、間違いでは、ない……よな?
てかフクさん、阪神ファンなのに魂を売るような買い物をさせてしまってすみませんすみません。
ただ、丸善さん。話題の本コーナーに置いて下さってるのはホントに嬉しいんだが、友達が電話で「脳天気にもホドがある、という本は入ってますか?」と問い合わせたとき、「はい、ドアラのですね! 入荷しております」と答えたそうじゃないか……。
ありがたいが、ありがたいんだが、なんだかモニタが滲んで見えるのは何故?
ということで、街に出るついでがあるので、明日の午後に自ら栄の書店を巡るよ!
平積みしてくださってるような書店があったら(あるか?)ちゃんと挨拶して写真を撮ってこよう。栄の書店の関係者さんがもしここを読んでたら、その一瞬だけでもいいので多面展開してください(笑)。
名駅の書店は飲み会ついでに日曜日に行ってみようかな、と思っております。うふふ。
中日新聞にコメント載った。が。

お気づきでしょうか、名前の次にカッコ付きで、名古屋在住と記されていることに。そして碧野圭さんの『銀盤のトレース』には〈愛知県が舞台の〉という説明付き。記事本編を読めば、朝井リョウさんも岐阜県出身と明記されている。
午後、中日新聞のこの欄の担当さん(同い年の女性なのだ)と会ったときに、「名古屋在住とか岐阜県出身とか、要るんですか?」と尋ねてみた。答は「要るんですよ〜」
彼女自身は「要らなくね? いい本や面白い情報を紹介するのに、どこに住んでる人かって関係なくね?」と思わないでもないようなんだが、地元密着新聞としてそこははずせないという伝統になっているらしい。
なんか、愛三岐の東海三県って、身内っていう感覚が強いらしい。だから新聞に載せるにも、どこの人だか分からないより、「うちの子」の話の方が読者の興味を引く、と。
言われてみれば、心当たりがある。
地元出身の芸能人がテレビに出てきたとき、普通なら「あ、この人好き〜」「可愛いよねー」「あのドラマが良かったね」という話になると思うのだが、あたしの出会った名古屋人の場合。
「あ、舘ひろしだ」「舘ひろしって、千種高校だよな。頭いいよな〜」
「浅田真央ちゃん、頑張れ!」「大須のスケートリンクでときどき見かけた」
「加藤晴彦が出てる〜」「うちの弟が同じ学校でさー」
“憧れの有名人”ではなく、すっかり近所の兄ちゃん姉ちゃん。何この身内感覚。
よく、大阪で芸能人が街を歩くと、通りすがりのおばちゃんがまるで知り合いのように声をかけてくるという話を聞くが、名古屋の場合、ホントに知り合いだとかよく見かけたとかというケースが多くて驚く。
他にも、東山線であみんの岡村孝子をよく見かけたとか。バイトしてたガソリンスタンドに彦野(元中日)が来てたとか。誰もがなんかひとつはその手のエピソードを持っている。ホントに持ってる。それが名古屋。
ちなみにうちがときどき利用する介護用品のショップは、八神純子の実家が経営してます。いや、それだけなんですけど。だから何ってんじゃないですけど。
ところで、中日新聞に名前が載った今日、市内の家族友人から「新聞見たよ!」という連絡が押し寄せて驚いている。あたしはこれまで他のいろんな新聞に何度も書評を書いたりコメント載せたりしてきたが、何も言われたことなかったのに。中日新聞に載って一人前なのか。そうなのか。
初めてのパーティ・不死鳥編
9日、爆睡して起きたら雨。
どっかでブランチでも食べて帰ろうかー、てな相談を黒田としていたのだが、一足早く帰路についたらしい太田忠司さんのツイートを見て、慌てて予定変更。なんとなれば、「新幹線が満席でチケットがとれない」「1時間半足止め」などと書かれてるんだもん。
とりあえず空きっ腹を抱えて東京駅へ。「雨だし、傘ないし、タクシー使うよ!」というあたしの決断に黒田も文句は言わない。てか言わせない。そして東京駅までは1430円。これくらいなら行きもタクシー使えば良かったと改めて臍を噛んだことは言うまでもない。ぷんすか。
東京駅に着いたらばなるほどやっぱり満席で、電源も無線もない700系の喫煙車両しかとれない。それでも背に腹は代えられないので、取れる中で最も早いチケットをとり、弁当を買って車中の人となる。
名古屋には午後1時着。名駅近くのスーパーで買い物をして2時頃帰宅。
「ひとりでひとばんおるすばん」にトライしたダンナの顛末はまた項を改めて書くとして。
頂戴した名刺を整理し、ネットで昨夜からのツイッターだのブログだのメールだのをざっとチェックしてみたらば。うわあ、そんな作家さんも来てたのかあああ、居るってわかってたら探したのにーーー、とノタウチ回る情報があちこちにあってケツが六つに割れる。米澤穂信さん、いらしてたのか。石持浅海さんもいらっしゃってたのか。ふんがー。
そしてその一方で、「ご挨拶したい気持ちは山々なれど、どうせあたしのことはご存知ないだろうし、お仕事したこともないしなあ」と思っていた御大の方々については、よくよく考えれてみれば、直接の面識はなくとも担当の編集さんを知っているというケースが多いことに、今更のように気付く。
文春のB嬢とは中日ファン仲間ではあるが、彼女は北村薫さんの担当なのだから、紹介してもらうよう頼めば良かったのだ。「アンタが来ると中日が負けるからCSには来るなよ」なんて話をしてる場合じゃなかったっつーの。あ、いや、それはそれですごく大事なんだけど。北村薫さんの面識を得ることと中日がCSに勝ち抜くことのどっちをとるかと言われたら、えーっと、その、北村さんとは今後も会えるかもしれないが中日の完全優勝のチャンスは次いつあるかわかんないしな。うん。あたしの選択は間違ってなかった。ホントに来るなよ負け神B嬢。
そして同じ文春のIさんは、以前、桜庭一樹さんと食事をした際、あたしの話を出したことがあると言っていたことを今頃思い出す。Iさんに間に入ってもらえばスムーズに桜庭さんにご挨拶できたかもしれんのに、失念していた。まあ、そのときIさんがどんな流れであたしの名前を出したかというと、「大矢さんて人は、赤朽葉家の毛毬とよく似た青春を過ごしたらしいですよ」という話だったらしいので、それを思い出されても困るのだが。てか、そんな暴露話をおつきあいの無い作家さんにしないように。>Iさん。
その一方で、会えるといいなと思っていた人たちが欠席だったのは残念だった。近藤史恵さんと自転車の話をしたかったのになあ。「アンディのおなかの薄さって、あれ内蔵入ってんですかね」なんて話、他の人とはできんよ。それって鮎川賞パーティの場で話すことかというツッコミはさておき。
貫井徳郎さんがいらっしゃらなかったのも、返す返すも残念。ダンナが入院していたとき、わざわざお見舞いに送ってくださったスープの缶詰セットの御礼を直接申し上げたかったのに。
数少ない、お会いしたことのある作家さん──田中啓文さんとか水生大海さんがおいでじゃなかったのも寂しかった。次に機会があったらぜひお会いしましょう。てか水生さんには地元で会えばいいんだが。
あ、そうか。近藤さんが出席されてたら、飯田橋で時空の歪みにはまったときアドバイスを戴けなかったかもしれないんだ。そう考えると、近藤さんはあたしを助けるためにパーティを欠席して控えていてくれたという考え方もできる。世の中ってうまく回るように出来てるなあ。<いや、それはちょっと違うぞ。
とまれ、お会いした皆さん、たいへんお世話になりました。
お話させていただいた皆さん、どうもありがとうございました。楽しゅうございました。
そして。
受賞された三名の新人さん、おめでとうございます。
って、これが今回の本筋。末筆ですみません。
著作は拝読します。これからも畏れることなくいい作品をどんどん書いて、来年のパーティでは「安萬さん・月原さん・美輪さんにご挨拶したいな、誰か紹介してくんないかな」とあたしを右往左往させてください。期待してます。
初めてのパーティ・望郷編
黒田がいるという和民に向かう。駅まで出てもう一度電話すればフクさんが迎えに来て下さるとのことだったが、駅に着く手前で和民を見つけた。電話で確認するとそこで間違いないらしい。
言うまでもないことだが、立志編で黒田が駅のホームで「いつもあのあたりで飲んでる」と言いながら指差したビルとは、まっっっっっっったく別の場所だったことをここに報告しておきます。
わざわざフクさんが店の入り口で待っていてくださり、そのまま案内して戴く。そうかフクさんて幹事体質なんだな……。名古屋オフのメンバーに似たタイプがひとりいるな、rosioさんとフクさんで幹事対決させてみたいな、などと考えてるうちに個室へ。おお、なんかみっちり人がいるよ。えっと、12人くらいいる?
手前の場所をあけていただき、フクさんと政宗さんの間に座る。向かいにいらした千澤のり子さんや汀こるものさんにご挨拶。ただ、それ以外が誰が誰なのかさっぱりわからん。黒田の隣に千街晶之さんがいらっしゃるのがわかっただけだ。でもって千街さんとは3年前に一度お仕事で会っただけなので、おそらくあたしのことは覚えてらっしゃらないだろう。そもそも、もうすっかり場が出来上がってるところに途中から入って自己紹介してまわるってえのも無粋だし、とりあえず芋焼酎呑もう。
ただ、テーブルの奥の方から時折「オオヤさんが」「オオヤさんに」という声が聞こえてくるのが気になった。ここがホームグラウンドの名古屋なら、片足をテーブルに上げて諸肌脱ぎ、「言いたいことがあるならはっきりおっしゃい! 素手の喧嘩なら表で買うわよ!」と啖呵を切るところだが、ここはアウェー、あたしは新参者。ものすごく気になりつつも、つとめて芋焼酎に集中。
ちょうど頃合いだったこともあり、芋焼酎を1杯飲むまえにこの場はお開きとなった。結局、誰だったのかわからないまま多くの人と別れる。うーん、誰がいたんだろう……。そして近場に宿をとっている残った面子で改めて三次会に出ることに。その面子というのが。
「錦通信」「UNCHARTED SPACE」「政宗九の視点」「くろけんのミステリ博物館」「なまもの!」
現存サイトにも敢てリンクはしない。この並びを見ただけで分かる人には分かるだろう。1996年から97年にかけて、個人ホームページ黎明期にミステリ系サイトを立ち上げたメンバーの顔合わせだ。それがサイト開設から13〜14年経って一堂に会すの図。ちょっと奥さん、これってすごくね? これってなんか、初対面なのに同窓会みたいじゃね? まあ、初対面なのはあたしだけなんだけどさ。
「いいサイトがあったらソースを見て、コピーしたりしてましたよね」
「HTMLのタグを全部手打ちしてましたもんねえ」
「フレームって、初めて見たとき感動しませんでした?」
「ネットするのはテレホーダイの時間だけで」
「ニワトリが絞め殺されるようなモデム音が」
「あの頃ってサイトオーナーも読者も互いに距離の取り方がわからなくて」
「平気で個人情報書いてたよなあ」
「変なメールとかもらったりしたよね」
「でもコメント欄の概念がなかったから、炎上とは無縁だったね」
「そうそう、でもどっかの掲示板で攻撃されてたりして」
あたしらは御一新前を懐かしむ明治の年寄りか。
でもホントにそんな時代だったのよ。なんつーか、同胞感ハンパねえ。このうち二人が作家となり、二人が書評家となり、一人はカリスマ書店員として名を上げた。こんな未来が待ってるなんて、夜中にちまちまとタグを手打ちしていて「おお、太字に出来た」と喜んでいた時代には予想もしてなかったよなあ。ましてや、その面子でこうして飲んでるなんて。ただ単に、井上夢人さんの「99人の最終電車」を読みたいがために始めたネットだったのに。
その後は作家になった「ミステリ博物館」オーナーの初期作品に於ける致命的な欠陥の話とか、「錦通信」オーナーの出世作に於ける深層心理とか、煙草やめたとかやめないとか、結婚してるとかしてないとか、結婚の前に社会人として果たさなくちゃならないことがあるんじゃないのかとか、黒田とあたしのなれそめ(そんなものはない)とかを話しながら夜は更ける。
ただ、いくら小説技法の話とは言え、いいトシした大人が大声で「俺はレイプは好きじゃないな」「ええ、俺はレイプ、いいと思うけどなあ」「そもそもレイプの意味ってさあ」「でも殺人とレイプのどっちがいいかって言ったら」「俺はレイプ好きだけどなあ」なんて話をするのはやめた方が良かった、と今にして思う。
そうそう、このメンバーの共通点がもひとつあった。
みんな、サイトのイメージ、そのまんま。口調も物腰も、すべてあのまんま。
だから初対面って感じがしないのだ。文は人也って、ホントだよなあ。
おっと、ただ、あたしだけは、サイトのイメージよりかなりおとなしくて控えめでキュートで、ちょっぴり寂しがり屋のお茶目な主婦さ、ということだけはお断りしておかねば。
ちなみに、ふと思い出して「錦通信」オーナーに「さっき和民でオオヤさんが、って話してませんでした?」と尋ねたら、アパートの大家さんの話だったことが判明。おお、リアル叙述トリック!
存分に喋ってホテルに戻り、更に部屋で黒田とちょっと飲んで、ようやく長い一日が終わった。初めてのパーティ体験、最後はすっかり、オフ会。さあ、あとは帰るだけだ。
続く。←続くのか!
初めてのパーティ・ベルサイユ編
二次会はなんとなくの流れで、太田忠司さん・愛川晶さん・篠田真由美さん・大崎梢さん・久世番子さん・ポプラ社の編集さん2人とあたしの8人で、ホテル1階のラウンジへ。おお、こじゃれたラウンジだが芋焼酎があるぞ。飲む。とりあえず飲む。だってパーティじゃあ、ぜんぜん飲み足りてないんだもん。
ただそこはホテルのラウンジらしく、とってもおしゃれなグラスで出てきたけどな>芋焼酎。
魔夜峰央さんいらしてましたねー、びっくりしましたねー、というところから、久世さんや大崎さん、篠田さんとマンガの話をしていたとき、テーブルの脇をすっと歩いていった男性がいた。
島田荘司さんだ!
何度も書いているが、今回の上京では「お仕事したことのある作家さんにご挨拶できれば」というのが狙いだった。でもって以前、島田荘司さんの文庫解説を書いたことがあるのだ。「都市のトパーズ2007」である。そのとき、島田さんからとても丁寧な感想のメールを、編集さん経由で頂戴したのよ。
今日のパーティに、その編集さん──講談社のM嬢がいれば話は早かったのだ。M嬢とは仕事の関係とは別に、個人的に親しくしているので(野球と自転車と小説の3分野の話が同等にできる女友達はこいつだけだ)、彼女がいればソッコー島田さんに紹介してもらおうと思っていたのに。
上京前、M嬢にその旨をメールしたら、「アタクシ、その日はフランクフルトに出張ざぁますの」と切り捨てられた……。応援してる横浜ベイスターズが不調だからって、身売り話まで出てるからって、そんな仕打ちしなくてもいいじゃないか。そりゃウチは優勝したけどさあ、おーっほっほっほ。いや、そうじゃなくて。
だから島田さんへのご挨拶は諦めていたのだが、これはチャンスじゃないか。「太田さん、島田さんに紹介してくださいよ!」と頼むと、「いや、ダメ! 無理! 僕からは声をかけられない!」
……え、そうなの? じゃあ、と愛川さんや篠田さんの方を見ると、一様に首を振る。
なんで? ダメなの?
「とてもとても、こちらから声をかけるなんてことは」
「向こうから話しかけてくだされば別だけど」
そして篠田さんが
「ほら、ベルばらにあったでしょう。身分の低いものは上の者に声をかけることはできないって。
アントワネットが声をかけてくれるまで待つしかないって。きょうはベルサイユは……」
久世さんとあたし、身を乗り出して声を揃えて
「たいへんな人ですこと!」
ぶわはははは! しゃれたホテルのラウンジで、思わず爆笑。
これは『ベルサイユのばら』序盤で、ルイ家に嫁いだばかりのアントワネットが、舅であるルイ14世の妾、デュ・バリー夫人に話しかけたセリフ。アントワネットはデュ・バリー夫人を軽蔑して一度も声をかけなかったのだが、政治的な圧力がかかり、意に反して泣く泣く話しかけざるを得なくなったのだ。ベルサイユでは身分が下の者が上の者に話しかけるのが御法度だったので、こういうシーンが生まれたわけだが、王家内部の人間模様とアントワネットのプライドの高さを象徴する重要なシーンであると言えよう。
いやあ、それにしても「きょうはベルサイユは」で「たいへんな人ですこと」の合唱ができるとは思わなかったよ。しかも篠田さんと久世さんとあたしって、世代バラバラなのに。やはりこのあたりの強烈な個性を持つマンガというのは、誰がいつ読んでもハマるものなのだなあ。
アントワネットを思えば、島田さんに声をかけてもらうのを諦めるのは簡単。でも島田さんが「きょうはエドモントは、たいへんな人ですこと」って話しかけてくる様を想像して、しばらく笑いが止まらんかった。まあ、そう話しかけられても困るけどさ。
そのあとは「解説書きにくい小説ってないですか」と問われ、「苦手なジャンルのものは最初から受けないので」という話など。
「大矢さんが苦手なジャンルって?」
「幻想、ハードSF、ヒロイックファンタジーってあたりですね。ファンタジーは、
東洋物や日常と地続きのものは平気なんですが、中世ヨーロッパっぽい異世界はダメです。
吟遊詩人とか白魔術とか魔法の剣とか出て来たら、もうアウトです」
「ああ、私も苦手です! 世界のルールがわかんないですよね」と久世さん。
そこで大崎梢さんの言った一言が印象的だった。
「どう見ても外国っぽい舞台なのに、眉を八の字に寄せたりするんですよね」
だ、だめだ、腹いてぇ……(悶絶)
ラウンジは10時閉店。解散後、まだぜんぜん飲み足りないので、黒田に電話をする。メフィスト系の皆さんと一緒に和民にいるというので、そちらに合流させてもらうことに。三次会の様子は次の項で。
初めてのパーティ・回天編
太田忠司さんがいてくださったら百万の味方を得たに等しい。さきほどから斜め後ろに山口雅也さんがいらっしゃることに気付いていたあたしは「太田さん、山口雅也さんと面識あったら紹介してください」とお願いする。今年の春に「play」の解説を書かせて戴いた際、編集さんを介して「とてもいい解説です」とおっしゃってくださったのだ。社交辞令だとしても、御礼を申し上げねば。
挨拶して、とてもとてもやさしく丁寧に、あたしの解説のどこが良かったかを説明してくださった。ありがたくてもったいなくてケツが六つに割れる。
文庫解説や書評というものは、著者の方ではなく読者の方を向いて書いている。著者の意図を組み上げることはもちろん必要だが、それよりもまず読者にとって良きガイドであり手引きであろうと思っている。だから読者層によって、あるいは所属ジャンルによって書き方を変える。
そういう読者の理解優先の解説というのは、ともすればそれは、必ずしも著者にとって嬉しい書かれ方になっているとは限らない。それはそれで仕方が無いと思っている。でも、それでも、こうして著者から「嬉しかった」と言っていただくと、そりゃもう冥利に尽きるってもんだ。
俄然元気が出て、張り切って太田さんに引き回していただいた。
鯨統一郎さん(名前を言っただけで「北京原人の日」の解説者だと思い出してくださった)と西武ライオンズの話をし、青井夏海さんとも野球の話で盛り上がり(青井さんはパ・リーグのファンなので安心して話せる。セ・リーグに贔屓チームのある人とは、今年は立場上を気を使うので。ほーっほっほっほ♪)、大崎梢さんに千君のポストカードを頂戴し、その勢いで久世番子さんにご紹介戴き、森谷明子さんと作品の話をして、篠田真由美さんに「実は素人時代にお会いしたことあるんですよ」とカミングアウト、坂木司さんに「和菓子のアン」「切れない糸」の続編をせがんだ後で、「お互い頑張って稼ぎましょうね!」と生々しいエールの交換をして、この先の仕事の話。
その合間を縫って、千街晶之さんとすれ違い様に「その節はどうもありがとうございました」と声をかけ(講談社の座談会でお会いしたのだが、忘れられていたかもしれない)、国樹由香さんと「久しぶり〜、大矢さんすぐ分かりましたよ!」「国樹さん髪型変わってたからぜんぜんわかんなかったあ!」と後で考えるとたいへん失礼な会話を交わし、本の雑誌社のM村嬢がチキンラーメンをぶらさげて歩いている姿に呆然とし、いつもすごく好きな本の解説をまわしてくださるポプラ社の編集さん2人とようやく出会え、東京創元社の編集Kさんからは「実在したんですね……」と言われ、ばたばたばたばたと走り回る。
もちろん相手を見て、そっと「脳天気にもホドがある。」の宣伝もした(楽天は予約受付が終了したのでAmazonにリンクしてます)。たとえばPHPの文蔵の編集さんとかね。だって「脳天気にもホドがある。」は帯の推薦文がドアラですからね。ドアラ本をベストセラーにしたPHPには当然言っておかねば。
ところで文蔵の仕事は某編集プロダクションの仲介でやらせてもらってたんだが、編集さんに話を伺い、編プロの担当さんが呈示してくる〆切の設定がかなり実情と違うことが判明したぞ。言質は取ったぞ。ふっふっふ。天網恢々。
そうしてふらふらしてると黒田が飛んで来て、「辻真先先生に紹介するから来い!」と言う。背筋が伸びる。「お仕事した人とだけご挨拶できればいいから」と言っていたのだが、唯一の例外が辻真先さんだ。ポテト&スーパーはあたしの血肉と言っていい。辻さんの名古屋ミステリは、ご当地小説の秀作として何度も紹介させてもらった。とにかく、子どもの頃からずっとこの人の本格ミステリを読んで育ったのだあたしは。あたしのことはご存知ないだろうが、それでも、辻真先さんにだけはご挨拶したい。
自己紹介し、名刺を差し出す。そして積年の思いを込めて、
「アタックNo.1、ずっと見てました! あれ見て、バレーボール始めました!」
ちょっと待て、あたし何言ってんの?!
うわあ、舞い上がってる舞い上がってるよ。鮎川賞のパーティで、書評家ですと自己紹介しといて、ポテト&スーパーでも名古屋ミステリでもなく、なんでアタックNo1なんだよあたし! しかも「いや、こういう話をしたいんじゃないんだ」と思っているのに、なぜか口では「真剣に実業団めざしてたんです! 魔球も練習しました。木の葉落とし打てます!」って、何のアピールだよそれ……(号泣)。
そりゃ確かに辻真先という名前を最初に認識したのはアタックNo1だったさ。そりゃそうだ。でも、だからって、あたしってば……がっくし。
今回のパーティ、最大の痛恨時。
パーティはこれでお開き。大崎梢さんたちとのガールズトークが消化不良だったので、続きをするべく二次会に向かうことになった。
初めてのパーティ・怒濤編
17時半、ホテルの部屋で今日〆切の文庫解説を書き上げ、送信。てか、その担当編集さんとは30分後にパーティで会うんだが、まあとりあえず〆切は守ったよ。
と同時に、会議を終えた黒田からホテルに入ったと電話が来た。ソッコーで部屋に呼びつける。その後の展開はご想像にお任せします。ただ、文章で身を立てる者として、罵詈雑言の100や200はすぐに思いつくとだけ言っておきましょう。文学的な責め言葉からアバンギャルドな貶し文句まで、時と場合と相手に応じてよりどりみどり。それが文筆業。
しかし今からまた黒田の世話にならねばならんので、本来なら10の力で責め立てるところを7くらいに割り引く。なんせ今から鮎川哲也賞のパーティ。初めてのパーティ。右も左もわからないパーティ。水先案内人無しでは段取りが何一つわからず、やってはいけないときに、やってはいけないところで、やってはいけないことをしそうな気がする。てか、だいたいあたしはそういうことをやりがち。
何より、文字でしか交流の無い作家さんに挨拶するには、誰かに仲介してもらうしかないのだ。太田忠司さんもいるはずなのだが、人が多過ぎてどこだかわからない。黒田に頼る以外の選択肢がないのである。
受付を見よう見まねで済ませ、会場へ。とにかくもう、どっから沸いてきたんだというくらい人が多い。満員電車のような人の向こうで、どうやら北村薫さんや辻真先さんによる選評が述べられているようだが、ぜんぜん見えない。Ustで見てる人の方が状況を掴んでたんじゃなかろうか。
乾杯が終わったら、お仕事させて戴いた作家さんを探して黒田に紹介してもらってご挨拶を──と思っていたのだが、選評や表彰の間に死ぬほどおなかがすいたので、まずは食べる。食事、めっちゃ豪華。和牛ステーキにフォアグラのコロッケ、寿司、あと何だかわかんないけど上等そうなオードブル系。ドリンクもいろいろで、鮎川哲也賞ってことで「赤い密室」「青い密室」「鬼貫スペシャル」と名付けられたカクテルまで用意されていた。「鬼貫スペシャル」がノンアルコールのソフトドリンクだったのは、きっと鬼貫警部が糖尿病を患っていたことにちなんだのだろう。<そうか?
そしていよいよ挨拶の行脚に出る。黒田には「あたしが文庫解説書いた作家さんに紹介して。仕事したことない人は、あたしのこと知らないと思うから」とあらかじめ釘を刺しておいた。縁のない作家さんに紹介されて「……誰?」という反応されたら悲しいもの。
したらばさ、あれほど言っていたというのにいきなり「あ、山口芳宏さんだ! 山口さん山口さん、これ大矢。知ってますよね?」と背中を押される。いや、だから、知らない人に「知ってますよね」って言っても、向こうだって困るだろうがよ!
「ああ、大矢さん。っていうか、箱崎さんですよね? nifty時代の」
へ? あたしのパソコン通信時代のハンドルをご存知なの? ってことはFSUIRIの人だったのか山口さん。まあ、とまれ「誰?」的反応をされずに済んで良かった。でも黒田、くれぐれもあたしが仕事をした相手だけを紹
「あ、有栖川さん、これ、大矢博子です!」
だーかーらーっ!
ところが意外にして光栄なことに、有栖川有栖さんもあたしのことをご存知だそうで、とっさに「やべえ」と思う。<なんで? しかも「初めてじゃないですよね。初めてでしたっけ?」と言われた。初めてです。てか、まえに座談会の仕事で法月綸太郎さんにお会いしたときも同じこと言われたんだよな……。このあたりの方々は、いったい誰とあたしを間違えてるんだろう。あるいはあたしのドッペルゲンガーが会ってるんだろうか。失礼なことしませんでしたかそのドッペルは。それ、あたしじゃないですからね。
そして黒田に向き直る。とにかく! ホントに! 心臓に悪いから! 相手にも失礼だから! あたしが! 仕事した相手とだけ! 選んで! 探して! 紹介し
「あ、電話だ。ちょっとゴメン、俺ちょっと外出るからテキト〜にしてて」
衝動殺人、という事件が起きる経緯を全身で理解した気がする。
まあそれでもなんとか黒田がいるうちに、愛川晶さん、東川篤哉さんといった正真正銘仕事相手にもご挨拶できたし、同じ雑誌に書いてたこともある大森望さん(「なまもの!」の初期から読んで下さっていたそうだ。がーん! まさか拙サイトをご存知だとは思わなかった)や杉江松恋さんにもご挨拶できた。
編集さんにもご挨拶。まさに今日〆切だった講談社文庫のOさんとK嬢に「さっき送りましたから!」と報告。このK嬢、今年の新人だそうだが、なんと高校時代から「なまもの!」を読んでくださっていて、「編集者になったら大矢さんと仕事する」とずっと思っていてくれたのだそうだ。感動だなあ。そしてそれを実現させたんだなあ。すごいなあ。でももうちょっと大きな夢を持ってもいいんじゃないかなあ。
文藝春秋の編集にして「中日の試合を生観戦すると絶対中日が負ける」という負け神・B嬢にも出会えたので、名刺を交換する間ももどかしく「CSは絶対に見に来るな」と釘を刺す。

そうそう、今や書評家としてご活躍のフクさんや、実行力ある書店員としてその名を馳せる政宗さんにも、黒田を介して御挨拶できた。このあたり、個人がホームページを持ち始めた黎明期からミステリ系書評サイトをやっていた面々。初対面なのだが、ぜんぜん初対面という感じがしない。
その間、黒田は憧れの魔夜峰央先生(そうです出席してらしたんです!)に挨拶に行き、以前イラストを描いていただくという幸運に恵まれた「嘘つきパズル」の御礼を言ったはいいが、魔夜先生本人はその仕事のことをまるっきり覚えてなかった、という事実に直面していた。天網恢々、疎にして漏らさず。
魔夜先生の奥様が横から「ほら、あのオカマが出て来る話よ」と耳打ちし、「ああ、あの気持ち悪いやつか」とようやく思い出してもらえたようで、本人もほっとしていた。が、そんな思い出され方でほっとしていいのか黒田。
てなことを言ってる間に「じゃ、ちょっと出てくるから」と黒田が行ってしまった。すぐ戻るとは言っていたが、ひとりでは俄然心細くなる。どうしようかなあ。とりあえず酒でも飲むかなあ。でもこじゃれたカクテルやワインばかりで、芋焼酎とかなさそうだよなあ。
そう思って顔を巡らせたとき──あっ、太田忠司さんだ! よかった太田さんがいた! 外国で日本人に会ったときのような感動で太田さんに駆け寄る。誰もいなかったら抱きついていたかもしれん。
ここから挨拶回り第2弾が始まるのであった。
初めてのパーティ・彷徨編
飯田橋駅前の歩道橋の上に立ち、地図を見る。
それによれば、駅前で道が二股に分かれた箇所にモスバーガーがあり、その左側の道に入っていけば道沿いにホテルがあることになっている。なぁんだ、簡単じゃないか。
ところで前回の日記で、あたしは決断力と行動力に富んでいるということを書いたが、大矢博子を形成している要素がもうひとつある。それは、自分を信じている、ということ。
あたしは常に自分の力を、自分の判断を信じている。
自分の選択を、自分の考えを信じている。
だから、駅前にモスバーガーがなかったとしても、間違っているのは、あたしではなく地図の方だ、と考えてしまったのは、これはもう仕方ないことだと思うのよ。
目印はモスバーガー。でもそのモスバーガーがない。さてどうするか。
目の前の風景を地図に無理矢理当てはめるなら、道が分かれている境目の、そこらあたりがモスバーガーのはずなんだが……。なんか洋服屋さんになってるし。潰れたのかなあ。不景気だしなあ。
とりあえず歩道橋を降り、地図に沿って(沿ったつもりで)歩き出した。そのうちどこかに出るだろう。
ない。
ない。
地図に載っている交差点の名前と同じ交差点が、どれだけ行っても出てこない。
どうもおかしい。道、1本間違えたか?
1本2本というレベルではなかったのだが、それはこの時点ではまだわからない。
なんかホテルっぽい建物、ぜんぜんないんですけど。
そうこうしてるうちに、小学校にぶつかる。小学校? そんなもの地図には無いが。
その辺で裏道に入ってみるが、ホテルらしきものはない。どういうことだ? あたし今、どこにいるんだ? これが新井素子『……絶句』に書かれていた飯田橋の時空の歪みなのか? そこらに拓ちゃんとか、あもーるとかが、いるのか? てか、現実から目を背けず、言葉を飾らず、素直に描写するなら──
道に迷った。
とりあえず、さっき通り過ぎた小学校の手前にドトールコーヒーがあったことを思い出したので、そこに入って善後策を練ることにする。
あ、これを書いておかねば。あのね、こんだけ歩いてドトール1軒って、東京、喫茶店少な過ぎ! 名古屋ならコメダが2軒はあるよ! 困ったときのコメダだよ。東京の人は喫茶店使わないのか? スポーツ新聞はどこで読んでるんだ?
とまれ、ドトールに腰を落ち着けてケータイを取り出し、ツイッターに助けを求めることにする。
飯田橋で道に迷ったなう。たまたま見つけたドトールでやさぐれてるなう。誰か助けて(泣)
いやあ、ツイッターってすごいね。あっという間に「どこに行きたいの?」とリプライが集まる。「ホテルエドモントに行きたいの」と書くと、「ドトール、何軒かありますが、どのドトールですか」と相次いで尋ねられた。
どのドトールか説明できるくらいなら、迷ってないと思う。
しかしそんなことは言わない。東口から出て、しばらく歩いたところだと答えた。すると近藤史恵さんがおごそかに、こう言い放った(書き放った?)。
「今マップ見ましたが、方向的に逆なので、飯田橋駅まで戻ってください」
なんですて?
逆? 方向的に、逆? だって黒田がこっちだと指差した、まさにその方向に一直線に歩いたのよあたし。なのに逆ってどういうこと? これが飯田橋の時空の歪み?
「飯田橋から反対に来てます。それか、水道橋近くまで出ちゃってるかのどちらか。東口近辺のドトールは、エドモントの反対側か、ずうっと先しかありません」
水道橋ってことはないだろう。東京の地理には疎いが、水道橋というのはオレンジ色のウサギさんチームの本拠地があるところだという知識くらい持っている。ウサギさんチームは今日、正念場の試合がある日だから、これが水道橋近くならレプリカユニフォームを着たファンで溢れているはずだ。だから水道橋ではない。ということは、やっぱ「エドモントの反対側」なのかここは。
ツイッターで力を貸して下さった皆さんに御礼ツイートと「もう名古屋に帰りたい」という泣き言ツイートを書き、そのまま来た道を戻る。駅まで戻る。ガードをくぐったら……モスバーガーが、あった。すごく分かり易いところに、モスバーガーが、あった。駅のホームで黒田が指差した「こっち」という方向の、180度反対側に、あった。
そこからホテルは、一直線だった……。
翌日、名古屋に帰ってから改めてツイッターで近藤さん宛に「昨日はありがとうございました。あのまま間違った方向に進んでいたら東京ドームで野球見て名古屋に帰っていたかもしれません」と御礼のツイートを書いた。
そしたら、こんな暖かいお返事を頂戴した。
「慣れない土地で迷うと心細いですよね。私は推理ゲームみたいで楽しかったです。ところで東京ドームはまた別の方向です」
以上のエピソードから得たあたしの教訓はどれか。次の中から選びなさい。
A:もう黒田を信じるのはやめたほうがいい。
B:もう自分を信じるのはやめたほうがいい。
C:とりあえず、ツイッターってすげえ。
初めてのパーティ・立志編
新幹線のチケットもホテルの予約も悪友・黒田研二が自分の分と一緒に手配してくれたため、あたしはとりあえず彼に着いて行けばいい、ということになっている。だからルートも予定も何も考えず、ただ黒田に言われるがままに、12時15分、名古屋駅の新幹線改札で待ち合わせ。
新幹線に乗るのは3年ぶりだが、パソコン用の電源はあるし無線でネットもできるしで、快適この上ない。今日〆切の文庫解説がまだ出来てなかった(こらこら)のだが、ここで書けるじゃないか。
……まあ、それで実際に書くかどうかはまた別の話なんだが。
「東京に着いたら、キミ、どうするの。俺は本格ミステリ作家クラブの
執行会議があるから、そっちに行っちゃうけど」
「4時過ぎにホテルエドモントで人と会う約束があるから、直接ホテルに行く」
「じゃあ俺も飯田橋(ホテルの最寄り駅)で乗り換えだから、そこまで一緒に行こう」
「え、あたし東京駅からタクシーで行くつもりだったんだけど」
「もったいないよ。乗り換えも簡単だし、連れてくから大丈夫だよ」
「だってホテルと駅って、ちょっと離れてるじゃん。迷いそうなんだよね」
「迷うかなあ、うーん、確かにキミなら迷うかも……でも地図もあるから」
東京駅につき、なんとなく黒田についていき、なんとなく在来線に乗る。お茶の水で乗り換え。まだ不安なあたしは「ここで外に出てタクシー乗る。飯田橋の駅からタクシーじゃあ近過ぎるし」と言ってみた。しかし、「何言ってんの、ここまできてタクシーなんか逆に時間かかるよ」と言われ、そのままホームに入ってきた電車に乗る。確かに飯田橋にはすぐ着いた。が。
飯田橋のホームにて、「で、これからあたしはどっちに向かえばいいの」と尋ねる。
パーティ招待状に同封されていた地図をあたしに渡しながら、周囲を一瞥し、おもむろに「こっち」と一方向を指差す黒田。
「こっちだね。ほら、地図がこうで、ホテルここだし。
で、いつもパーティのあとで俺らが二次会で使う居酒屋があのビルのあたり」
「あ、ここから見える、居酒屋が入ってるあのビル?」
「そうそう、だいたいあの辺で飲んでる」
そうか、方向が分かれば、あとは地図があるし、入る道さえ間違わなければ1本だし、大きなホテルなんだから近くに行けば建物の雰囲気でわかるだろう。
ギリギリまで「そっちだからな、ぐるっと回ったりしないで、まっすぐそっちから出ろよ」という黒田のアドバイスを背中に受けながら、駅の外に出た。
自分は方向感覚に優れている、とは決して思わない。てか、むしろいわゆる方向音痴の部類に入ると思う。ただ致命的というほどではない、と思う。しかしここに別の不安要素がある。
あたしの取り柄は決断力と実行力なのだ。
想像してみて戴きたい。決断力と実行力のある方向音痴とはどんなものか。
このときあたしは何の疑いも抱かず、毎年来てる黒田が言うのだからと進む方向を決断した。そしていっさい迷うことなく、彼が指差した方向にそのままスタスタ歩き出した。
立ち止まらず、振り返らず、ただ前を向いて、歩き出した。
タイムマシンがあれば、このときの自分に言いに行きたい。
立ち止まれ。振り返れ。後ろを向け。
てか、16年もつきあってきて、黒田がどういうヤツかよく知っている筈なのに、なぜ信じた?
飯田橋駅前の歩道橋と言えば、新井素子『……絶句』でタコになったやつじゃなかったっけ? などと懐かしく思い出しながら歩道橋を渡る。ホテルエドモントを知ってる人はこの時点であたしの間違いに気付くであろう。
新井素子、むさぼるように読んだよなあ。『……絶句』は、拓ちゃんの超能力のおかげで、飯田橋の時空が歪むという話だったよね。そうか、これがその場所なのか。じゃあ第13あかねマンションもどっかこのへんなんだな。ホントに時空歪んでたりしてな。歩道橋降りたらアフリカで、日本文学に詳しいライオンさんがいたりしてな。うわははは。
さすがにアフリカではなかった。しかし、飯田橋の時空はホントに歪んでいた。
それをこのあと、あたしは身を以て体験することとなる。
……まあ、歪んでいたのは時空じゃなくて、黒田の方向感覚だったことが後にわかるだけだが。
女房元気で留守がいい・その2
例えば名古屋在住なので東京まで出るのに時間と費用がかかるとか、作家さんとオトモダチになってしまうと書評が書きにくいので距離をとっておきたいとか、過去に書きたい放題評した作品の著者に出会ったらバツが悪いなとか、てかあたしが行ったところで「誰?」と思われるのがオチだろうとか、まぁ理由を挙げようと思えばナンボでも思いつくが、つまるところ、面倒だった、のだ。
だがしかし。今回初めて、東京創元社の鮎川哲也賞贈呈バーティに出ることにした。
10年もやってると、ありがたいことに文庫解説や書評を書いた作家さんから編集さんを通じて御礼や感想を頂戴する機会が増える。ところが、いろいろお声をかけて戴くのに地方在住を言い訳に不義理を重ねてしまった。一度ご挨拶しなくちゃ、と思っていた──というのが表向きの理由。
裏向きにして最大の理由は、ダンナの一人暮らしトレーニングにある。
ご存知のようにウチのダンナは脳出血の後遺症で体に障碍があるため、入浴や食事の支度など、ひとりでは難しかったり危なかったりということが多い。そのためこれまであたしはダンナを残しての遠出ができなかったんだが、前の記事にも書いたように、それではイカンだろうと。
イカンだろうとは思いつつ、それでも心配なものは心配で、これはもう「いくら心配でも出かけるしかない」という状況を作る他ない、と思っていたところにちょうどこのパーティのことを思い出したという次第。
10月上旬なら冷房も暖房も要らないので、「寒くないかしら、暑くないかしら」という心配をする必要もないし。って、今書いてて思ったけど、どんだけ過保護だあたし。
それで、10月8日の昼前から9日の昼過ぎにかけての一泊二日、ダンナがひとりで留守番する、ということにした。編集さんにも出席の連絡をしたので、もう戻れない。昼食と夕食は介護保険を使った配食サービスを頼み(旧なまもの日記の今年の9月9日参照)、必要なものはすべて分かる場所に出し、お風呂は入らないことにする。寝る前と起きたときにはメールを入れること、こちらから出した安否確認メールにはすぐ返事を出すこと、普段やらないようなことにチャレンジしないこと、あたしのいない間に勝手に通販で高価な鉄道模型を注文したりしないことなどを約束。うーん、こうして書くとやっぱり過保護だなああたし。子どもに初めて留守番させる親御さんってこんな感じ?
そしてそれでも起きるかもしれない緊急事態──コケて立てないとか──に備え、名古屋に本拠を持つタクシー会社経営の、緊急かけつけサービスに加入した。
あんしんネット21というそのシステムは、契約者の家庭とオペレーションセンターが端末で結ばれ、ボタンを押すだけで担当者と会話ができ、助けが必要な場合はヘルパーの資格を持ったタクシー運転手さんがかけつけてくれる(鍵を預けておいたり内緒の場所に置いておいたりして、家に入れるようにしておく)、というもの。普通に加入するとけっこうお高い上に、出来ること出来ないことがあったりするらしいのだが、介護保険を使うとお値打ち且つ便利に利用できるのだ。
この会社のタクシー(つばめタクシー)には、ヘルパーの資格を持つ運転手さんが乗り降りの介助や見守りをしてくれるというサービスがあり(別料金です)、それを過去に何度か使ったことがあった。ものはついでなので、このタクシー会社の身障者用カードも作る。
これがあれば身障者割引で10%安くなる(更に名古屋市の障碍者用タクシー助成で740円分のタダ券もある)上に、現金支払いの必要がなくなるのだ。なので名古屋市の障碍者タクシー利用券とこのカードを出せば、片手しか使えないダンナが財布からお金を出したりしまったりという手間がいらない。
ちなみにタクシーを呼びたいときは、上記のあんしんネット21の端末を使ってボタンひとつで呼べる仕組み。もしあたしの留守中にどうしても出かけなくちゃならなくなっても、これで大丈夫、のはず。
これだけ準備をすれば、ダンナを残して一泊くらいの旅行をしても大丈夫なんじゃなかろうか。てか、もう他に何かすべきことを思いつけない。これだけやってダメならしょうがない。岩瀬で負けたらしょうがない、というのと同じである。準備は万全なんだから、あとはやってみるのだ。杏より梅が安しというじゃないか。酎ハイか。そうでなくて。案ずるより産むが易しと言うじゃないか。
ということで、いよいよ明日は初めての「ひとりで一晩、お留守番」の日である。
ひとりで一晩、お留守番。なんかラップみたいだな。ひとりでひとばんおるすばん、ひとりでひとばんおるすばん、HEY、YO! 言うてる場合か。
なまものリハビリ日記が本になるよ!
『脳天気にもホドがある。 燃えドラ夫婦のリハビリ日記』

著者 :大矢博子
出版社:東洋経済新報社
配本日:2010年10月21日
定価 :1300円+税
造本 :四六版ソフトカバー 244ページ
ISBN :978-4-492-04399-8
表紙イラスト:ラジカル鈴木
本文イラスト:みほろ
右の書影をクリックすると、大きな表紙がでます。
帯のコピーや推薦文などはそちらでご確認戴けます。
3章構成で内容は以下の通り。
episode 1 脳出血と緊急入院と立浪引退発表 (書き下ろし)
episode 2 右片麻痺と失語症と開幕投手・浅尾 (書き下ろし)
episode 3 退院と鉄ちゃんと燃えよドラゴンズ (「なまもの日記」再構成)
……章題を見ればお分かりの通り、なんか随所にドラゴンズが滲み出てまして。
そのおかげで帯にドアラの推薦コメントを戴きました。アンタ今そんなことしてる場合じゃなかろう、というツッコミはさておき。ありがたいことですドアラ先生。
あ、でも、これまでのなまもの日記をご存知の方はご承知でしょうが、他チームのファンの方でも楽しめるように書いたつもりですので、警戒せずにご笑覧戴ければ幸いです。
予約も始まってます。楽天ブックス・bk1・7net shopping
まえがきより、一部抜粋します。
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夫が脳出血で倒れ、右半身の自由と言葉を失いました。
──と書いたら、愛と涙の感動闘病記だと思うでしょ。泣けると思うでしょ。
えーっと、ごめんなさい。たぶん、泣けません。
ホント申し訳ないんですけど、本書は泣ける本ではないんですの。
闘病記やそれを巡る家族の話って、ハタから見ると感動的だったり泣けたりするのかもしれないけど、いざ自分がその立場になってみると。
愛だの涙だの言ってるヒマないって!
山のようなお役所手続きに、みっちり組まれるリハビリ計画、大幅な変更を強いられる将来設計。もちろん日々の仕事や生活もある。家族が倒れようが光熱費は引き落とされるしゴミは分別しなくちゃいけない。どえりゃあ忙しい。正直言って愛より実務、涙より行動っすよ。
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本のテーマとしてはね、言いたいことはひとつだけ。
病人だって、介護する人だって、休んだり楽しんだり笑ったりしていいんだよ。
ダンナが脳出血を発症して後遺症が残ることが分かったあと、同じ環境にある人のブログがとても参考になりました。ご本人が書かれてるものもあるけど、立場という点では、ご家族の書かれたブログが良かった。感動闘病記とかじゃなくて、より具体的に、日々の工夫や楽しみを書いているようなものが何倍も役に立ったの。
そういう情報を発信できれば、というのが本書の目的です。同じ病気、同じ障碍のご家族がいらっしゃる方はもちろん、より広範囲の方にちょっとでも参考になればと思います。
……その割にはドラゴンズネタとか鉄道模型ネタとかが多いけどな。

そして本文中に、ミステリ系ネット者にはお馴染みの、みほろさんがステキなイラストをたくさん書いてくださいました!
そればかりか、販促用に内容紹介のステキなチラシを作ってくれたのさ。可愛いぞ〜。みほろさんのイラストも載ってるぞ〜。リンクをクリックして「ほえ〜」と思ってくれたまい!
本を出すって決まったとき、真っ先に「みほろさんに絵を書いて欲しい!」と思って依頼し、お忙しいのに快く引き受けてくださいました。感謝感謝です。ホントに可愛くて面白いイラストなので、あたしの本文はさておき、イラストを見るだけでも本書を買って戴く価値があろうかと。
基本的にはお気楽で、面白おかしく書いてるけど、内容が内容だけにところどころ(ホントにところどころだけど)は真面目です。でもそういうところにみほろさんのお茶目なイラストが入ってるので、読み易いと思います。
この他のネット書店での予約や名古屋での書店の展開など、また詳細が出ましたら随時このサイトで告知していきますので、どうぞよろしくお願い致します。
書評アップとメールのお返事滞ってます
えーっと、仕事が、〆切が、どえらいことになってまして。
通常の書評だの解説だのの原稿仕事がただでさえ「この仕事受けたとき、あたし何考えてたんだろう」と首を傾げるようなスケジュールになってまして、そこに年間ベストの未読潰しが加わるこの季節。
おまけに何でか知らんが、そういうときに限って、私生活の方でもちょこちょこ用事が入るから不思議。水は低きに流れるというが、この水を「予定」と言い換えるなら、あたしはマリアナ海溝並みに低いところにいるらしい。
そんな事情なので、頂戴したメール(サイト再開以来、ホントにたくさんメール頂戴してます! ありがとうございます!)への返事が思い切り滞ってます。鬼のように未読潰しをしてるんだけど、なかなかなまもの書評を書く時間がとれません。
しばらくお待ち戴けると嬉しいですう。
あ、メールの返事は無理でも、ツイッターで話しかけてくだされば反応できる可能性が大きいと思います。ただ見落としはあるだろうから、そこはお含み置きくださいな。