初めてのパーティ・回天編

前回までのあらすじ1

 太田忠司さんがいてくださったら百万の味方を得たに等しい。さきほどから斜め後ろに山口雅也さんがいらっしゃることに気付いていたあたしは「太田さん、山口雅也さんと面識あったら紹介してください」とお願いする。今年の春に
「play」の解説を書かせて戴いた際、編集さんを介して「とてもいい解説です」とおっしゃってくださったのだ。社交辞令だとしても、御礼を申し上げねば。
 挨拶して、とてもとてもやさしく丁寧に、あたしの解説のどこが良かったかを説明してくださった。ありがたくてもったいなくてケツが六つに割れる。

 文庫解説や書評というものは、著者の方ではなく読者の方を向いて書いている。著者の意図を組み上げることはもちろん必要だが、それよりもまず読者にとって良きガイドであり手引きであろうと思っている。だから読者層によって、あるいは所属ジャンルによって書き方を変える。
 そういう読者の理解優先の解説というのは、ともすればそれは、必ずしも著者にとって嬉しい書かれ方になっているとは限らない。それはそれで仕方が無いと思っている。でも、それでも、こうして著者から「嬉しかった」と言っていただくと、そりゃもう冥利に尽きるってもんだ。

 俄然元気が出て、張り切って太田さんに引き回していただいた。
 鯨統一郎さん(名前を言っただけで
「北京原人の日」の解説者だと思い出してくださった)と西武ライオンズの話をし、青井夏海さんとも野球の話で盛り上がり(青井さんはパ・リーグのファンなので安心して話せる。セ・リーグに贔屓チームのある人とは、今年は立場上を気を使うので。ほーっほっほっほ♪)、大崎梢さんに千君のポストカードを頂戴し、その勢いで久世番子さんにご紹介戴き、森谷明子さんと作品の話をして、篠田真由美さんに「実は素人時代にお会いしたことあるんですよ」とカミングアウト、坂木司さんに「和菓子のアン」「切れない糸」の続編をせがんだ後で、「お互い頑張って稼ぎましょうね!」と生々しいエールの交換をして、この先の仕事の話。

 その合間を縫って、千街晶之さんとすれ違い様に「その節はどうもありがとうございました」と声をかけ(講談社の座談会でお会いしたのだが、忘れられていたかもしれない)、国樹由香さんと「久しぶり〜、大矢さんすぐ分かりましたよ!」「国樹さん髪型変わってたからぜんぜんわかんなかったあ!」と後で考えるとたいへん失礼な会話を交わし、本の雑誌社のM村嬢がチキンラーメンをぶらさげて歩いている姿に呆然とし、いつもすごく好きな本の解説をまわしてくださるポプラ社の編集さん2人とようやく出会え、東京創元社の編集Kさんからは「実在したんですね……」と言われ、ばたばたばたばたと走り回る。

 もちろん相手を見て、そっと
「脳天気にもホドがある。」の宣伝もした(楽天は予約受付が終了したのでAmazonにリンクしてます)。たとえばPHPの文蔵の編集さんとかね。だって「脳天気にもホドがある。」は帯の推薦文がドアラですからね。ドアラ本をベストセラーにしたPHPには当然言っておかねば。
 ところで
文蔵の仕事は某編集プロダクションの仲介でやらせてもらってたんだが、編集さんに話を伺い、編プロの担当さんが呈示してくる〆切の設定がかなり実情と違うことが判明したぞ。言質は取ったぞ。ふっふっふ。天網恢々。

 そうしてふらふらしてると黒田が飛んで来て、「辻真先先生に紹介するから来い!」と言う。背筋が伸びる。「お仕事した人とだけご挨拶できればいいから」と言っていたのだが、唯一の例外が辻真先さんだ。ポテト&スーパーはあたしの血肉と言っていい。辻さんの名古屋ミステリは、ご当地小説の秀作として何度も紹介させてもらった。とにかく、子どもの頃からずっとこの人の本格ミステリを読んで育ったのだあたしは。あたしのことはご存知ないだろうが、それでも、辻真先さんにだけはご挨拶したい。

 自己紹介し、名刺を差し出す。そして積年の思いを込めて、

 「
アタックNo.1、ずっと見てました! あれ見て、バレーボール始めました!」

 
ちょっと待て、あたし何言ってんの?!

 うわあ、舞い上がってる舞い上がってるよ。鮎川賞のパーティで、書評家ですと自己紹介しといて、ポテト&スーパーでも名古屋ミステリでもなく、なんでアタックNo1なんだよあたし! しかも「いや、こういう話をしたいんじゃないんだ」と思っているのに、なぜか口では「真剣に実業団めざしてたんです! 魔球も練習しました。
木の葉落とし打てます!」って、何のアピールだよそれ……(号泣)。
 そりゃ確かに辻真先という名前を最初に認識したのはアタックNo1だったさ。そりゃそうだ。でも、だからって、あたしってば……がっくし。
 今回のパーティ、最大の痛恨時。

 パーティはこれでお開き。大崎梢さんたちとのガールズトークが消化不良だったので、続きをするべく二次会に向かうことになった。

続く。