初めてのパーティ・ベルサイユ編

前回までのあらすじ1

 二次会はなんとなくの流れで、太田忠司さん・愛川晶さん・篠田真由美さん・大崎梢さん・久世番子さん・ポプラ社の編集さん2人とあたしの8人で、ホテル1階のラウンジへ。おお、こじゃれたラウンジだが芋焼酎があるぞ。飲む。とりあえず飲む。だってパーティじゃあ、ぜんぜん飲み足りてないんだもん。
 ただそこはホテルのラウンジらしく、とってもおしゃれなグラスで出てきたけどな>芋焼酎。

 魔夜峰央さんいらしてましたねー、びっくりしましたねー、というところから、久世さんや大崎さん、篠田さんとマンガの話をしていたとき、テーブルの脇をすっと歩いていった男性がいた。

 島田荘司さんだ!

 何度も書いているが、今回の上京では「お仕事したことのある作家さんにご挨拶できれば」というのが狙いだった。でもって以前、島田荘司さんの文庫解説を書いたことがあるのだ。
「都市のトパーズ2007」である。そのとき、島田さんからとても丁寧な感想のメールを、編集さん経由で頂戴したのよ。
 今日のパーティに、その編集さん──講談社のM嬢がいれば話は早かったのだ。M嬢とは仕事の関係とは別に、個人的に親しくしているので(野球と自転車と小説の3分野の話が同等にできる女友達はこいつだけだ)、彼女がいればソッコー島田さんに紹介してもらおうと思っていたのに。

 上京前、M嬢にその旨をメールしたら、「アタクシ、その日はフランクフルトに出張ざぁますの」と切り捨てられた……。応援してる横浜ベイスターズが不調だからって、身売り話まで出てるからって、そんな仕打ちしなくてもいいじゃないか。そりゃウチは優勝したけどさあ、おーっほっほっほ。いや、そうじゃなくて。

 だから島田さんへのご挨拶は諦めていたのだが、これはチャンスじゃないか。「太田さん、島田さんに紹介してくださいよ!」と頼むと、「いや、ダメ! 無理! 僕からは声をかけられない!」
 ……え、そうなの? じゃあ、と愛川さんや篠田さんの方を見ると、一様に首を振る。
 なんで? ダメなの?

「とてもとても、こちらから声をかけるなんてことは」
「向こうから話しかけてくだされば別だけど」
 そして篠田さんが
「ほら、ベルばらにあったでしょう。身分の低いものは上の者に声をかけることはできないって。
 アントワネットが声をかけてくれるまで待つしかないって。
きょうはベルサイユは……

 久世さんとあたし、身を乗り出して声を揃えて

 
「たいへんな人ですこと!」

 ぶわはははは! しゃれたホテルのラウンジで、思わず爆笑。
 これは『ベルサイユのばら』序盤で、ルイ家に嫁いだばかりのアントワネットが、舅であるルイ14世の妾、デュ・バリー夫人に話しかけたセリフ。アントワネットはデュ・バリー夫人を軽蔑して一度も声をかけなかったのだが、政治的な圧力がかかり、意に反して泣く泣く話しかけざるを得なくなったのだ。ベルサイユでは身分が下の者が上の者に話しかけるのが御法度だったので、こういうシーンが生まれたわけだが、王家内部の人間模様とアントワネットのプライドの高さを象徴する重要なシーンであると言えよう。

 いやあ、それにしても「きょうはベルサイユは」で「たいへんな人ですこと」の合唱ができるとは思わなかったよ。しかも篠田さんと久世さんとあたしって、世代バラバラなのに。やはりこのあたりの強烈な個性を持つマンガというのは、誰がいつ読んでもハマるものなのだなあ。

 アントワネットを思えば、島田さんに声をかけてもらうのを諦めるのは簡単。でも島田さんが「きょうはエドモントは、たいへんな人ですこと」って話しかけてくる様を想像して、しばらく笑いが止まらんかった。まあ、そう話しかけられても困るけどさ。

 そのあとは「解説書きにくい小説ってないですか」と問われ、「苦手なジャンルのものは最初から受けないので」という話など。
「大矢さんが苦手なジャンルって?」
「幻想、ハードSF、ヒロイックファンタジーってあたりですね。ファンタジーは、
 東洋物や日常と地続きのものは平気なんですが、中世ヨーロッパっぽい異世界はダメです。
 吟遊詩人とか白魔術とか魔法の剣とか出て来たら、もうアウトです」
「ああ、私も苦手です! 世界のルールがわかんないですよね」と久世さん。
 そこで大崎梢さんの言った一言が印象的だった。

「どう見ても外国っぽい舞台なのに、眉を八の字に寄せたりするんですよね」

 だ、だめだ、腹いてぇ……(悶絶)

 ラウンジは10時閉店。解散後、まだぜんぜん飲み足りないので、黒田に電話をする。メフィスト系の皆さんと一緒に和民にいるというので、そちらに合流させてもらうことに。三次会の様子は次の項で。

続く。