今週のワタクシ12/18

12月12日 日曜日
 帳簿に打ち込んだあと机に置いていたはずの支払い調書が3通、消えた。
 5分後、麦茶のやかんを置いた鍋敷きの下から出て来た……。アリエッティめ!

12月13日 月曜日
 
病院に行き、インソールを作ってくださる織田先生(仮名)に昨日買った靴を見せたところ、「いいじゃないですか」とやたら褒められる。気を良くしてたら「靴だけで充分なんじゃないですか、インソールいらないんじゃないですか」──いまだに逃げようとしてんのかよ、おい。
 
12月14日 火曜日
 担当の先生が休みなのは分かっていたが、どうにも首が凝ってたまらんのでマッサージへ。初めての女性の先生にお願いしたところ、超攻撃的な揉みほぐし&鍼を施される。容赦なく揉まれ捻られ折り曲げられ伸ばされ畳まれ裏返され、そしてビンビン響くほどの鍼を矢継ぎ早に打たれ、息も絶え絶え。いつもの先生が、いかに遠慮しぃしぃ優しくやってくれていたかを痛感。
 けれど首と肩が、夜になっても嘘のように軽い。どうしよう、あたしもう、いつもの優しいだけの男(の先生)には満足できない体になってしまったのかも……。

12月15日 水曜日
 朝からワイドショーは「KAGEROU」の話題満載。東京では午前0時に売り出した店もあるという。
 ボジョレー・ヌーボーか。

12月16日 木曜日
 CBCラジオ
「多田しげおの気分爽快!朝からPON」に出演、「KAGEROU」を紹介する。
 ディレクターさんから「それが例の靴ですね!」と言われた。読まれている……。

 放送終了後、話し損ねた
「KAGEROU」の誤植部分のシールををかべさんに見せる。この誤植、実に絶妙だ。仕掛けなんじゃないかと思い、出版社の人に尋ねてしまったくらい絶妙だ。話のオチの意味がわからない人がいたら、このシールをめくるといい。わかるから。

 夜は
黒田研二と近所の居酒屋で飲み。ふたりで芋焼酎のボトルを1本と1/3あける。
 
12月17日 金曜日
 ラジオのリスナーから「ホントのところはどうなんですか」というメールやツイートが相次ぐ(笑)。どういう答を期待してるんだろう。ちゃんとラジオで喋ったじゃないか。なのに「ホントはどうなの?」と訊いてくるってことは、あたしが嘘を言ったと思ってるわけか。失礼な。

 文庫解説を仕上げて送信。一息つこうとしたら別のところからゲラが来た。

12月18日 土曜日
 ダンナの障害年金の支給が決まり(申請から半年!)、年金機構から封書が2通来た。

 1通目;「国民年金保険料の支払いが申請月に遡って免除されます。」
 2通目:「今月の国民年金保険料が支払われてません。払ってください。」

 どうしろと。 

KAGEROU騒ぎ

 CBCラジオ「多田しげおの気分爽快!朝からPON」に出演、「KAGEROU」を紹介する。

 本来なら、前もって読んだ本の中からあたしが「勧めたい、広めたい」と思ったものを紹介するコーナーなんだが、やっぱこのタイミングならリスナーが知りたいのは
「KAGEROU」だろうと。だから今日、「KAGEROU」を紹介することは出版前から決まっていた。もちろん「出版されたものを読んで、つまんないと思ったら変えますよ」とは断っていたけども。

 で、読んだわけですよ。軽くドキドキしながらね。
 結論から言えば──悪くないじゃん。けっこうなもんじゃん、これ。
 正直、コアな読書好きには物足りないだろう。でも普段は読書の習慣がなくて「水嶋ヒロの本だから」という理由で買ったってな層には、まさにうってつけじゃないかと。あと、中学生高校生とか。

 とっつきやすい。わかりやすい。するする読める。メッセージはストレートだけど、展開にはちょっとした仕掛けもある。ついでに字がでかい(笑)。ストーリーもキャラクタも無理に背伸びせず奇を衒わず、力の届く範囲内で堅実に書いたことが功を奏してる感じ。
 それに、いくらでもスタイリッシュな舞台設定は作れるだろうに、敢えて著者のイメージからはかけ離れた「くたびれた中年サラリーマン、二言目には親父ギャグ」というキャラを持って来たってだけで、なんかね、「ほう」という気がしたのだった。
 文芸作品として絶賛とか激賞とかってレベルではない。でも「姪っ子のクリスマスプレゼントにいいかも」と思える。うん、これなら、ラジオで紹介してもいいんじゃね?

 ただ、発売になった日のワイドショーはすごかったね。午前0時と同時に売り出す書店、並ぶ客。ボジョレー・ヌーボーか。

 それにしても、テレビやネットを見てると、話題の持って行き方が変だ。
 「作家になりたいなんて夢みたいなこと言って、すったもんだの挙げ句に俳優を辞めた水嶋ヒロがホントに小説書いて、しかもそれが賞をとったよ。そんなうまい話ある?」ってんで騒いでるんだろうけどさ。
 あのね、ノーベル文学賞や直木賞をとったわけじゃないのよ。こう言っちゃなんだが、いち出版社が、素人向けに公募してるイベントなのよ。公募新人賞なんてそりゃもうたくさんあって、毎年たくさんの新人賞作家が出てるの。その中のひとりに過ぎないの。
 そしてたくさんいる新人賞受賞者の中から、2作目、3作目も評価されて、息の長い職業作家になれる人ってのは、ホントにホントに一握り。受賞作は素晴らしい評価を受けたけど後が続かなかった人もいれば、受賞作の扱いは地味だったけどその後大化けした人もいる(そういう光る前の原石を発掘するのも新人賞の目的)。
 齋藤智裕さんは、やっとそのスタートラインに立ったというだけなのだ。素人として書いた物語が存外評価されたが、今後はプロの仕事が要求される。勝負はこれから。今のこの段階で何を騒ぐことがあるかと。

 劇団ひとりの
「陰日向に咲く」はちょっと驚いたくらいよく出来た小説で、「劇団ひとり、才能あるなあ」と思わされた。しかしその才能をもってしても、2作目以降は最初ほど話題にならない。齋藤智裕にも、おそらくは同じ試練が待っている。彼が本物かどうか分かるのは、その後の話でしょう。

 それにしてもネガティブな意見を言ってる人(しかも出版業界以外の人)って、過去のポプラ社小説大賞受賞作を読んでるのかな?
「削除ボーイズ0326」「Rocker」と比較して、あまりにレベルが違うとなれば議論の余地もあるだろうが、だいたいこの賞は若い人向けの、ストレートにメッセージが伝わるような間口の広い作品が受賞してるんだから。そんな賞の主旨に合ってるんだよ、「KAGEROU」は。

 ありとあらゆる層の40万人が読んで、その40万人全員が等しく満足する小説なんかありませんわよ。村上春樹にだってアンチはいるし、東野圭吾や宮部みゆきを読んで「意味がよくわからなかった」という読者だっているんだから。
 だからあたしが書評家として出来ることは、
「KAGEROU」を否定することではなく、どういうタイプの読者に向いてるか、どういうふうに読めば面白さを味わえるか、それを知らせることだと思ってる。まあ、そのスタンスは今回に限らず、何を取り上げるときでも同じなんですが。

 今回、齋藤智裕ならぬ水嶋ヒロってのが前面に出るのは、著者本人としてはどう感じてるかはわからないけど、少なくともその効果で、書店に足を運ぶ人が激増した。ある書店員さんのツイートによると、
「KAGEROU」以外の本の売り上げも伸びたそうだ。つまり「本屋で本と出会う」という体験をした人が、それなりの数、いたということ。これはすごく嬉しいことじゃない?

 あと、蛇足ながら。
 普段、小説なんか読みもしないし興味もないくせに「水嶋ヒロの小説大賞って、どうなのあれ」と斜に構えたことを言う人を見たとき、なんか既視感があった。ちょっと考えて思い至った。あれだ。歌舞伎なんか見たこともないし興味もないくせに「海老蔵ってどうなの」と訳知り顔でコメントする人と似てるんだ。

足の裏・衝撃のB

 盟友いつみと一緒に近郊のスポーツオーソリティへ。病院の理学療法士さんが教えてくれた、ニューバランスのフィッティングイベントに行くのだ。予約もとって、既に電話で足の状態と勧められた靴も伝えてあるのだ。

 イベント会場(というか売場)に行き、予約と名前をいうと既に電話取材の結果「このあたりかな」というのを準備してくれていた。が、もちろんちゃんと計測します見てもらいます。ミズノやアシックスでもらった計測データも見せます。そして今度こそはという期待もあっさり裏切られ「扁平ですね」とのご託宣。しくしく。わかったわよ認めるわよもう。

 「アーチが低い、というのもそうなんですが、そもそも足が薄いですよね」というシューフィッターのお兄ちゃん。「電話で伺ったお話では治療院で
ニューバランスのWW584を勧められたということですが……うーん、この足でインソール作るんだとむしろ……」とちょっと考えた後で、「これ、お電話でお話を聞いてご用意させて戴いたものなんですが、とりあえず履いてみてください」と一足出してきてくださった。タウンウォーキング用の、柔らかいベージュのシューズ。あ、これなら洋服も合わせ易い。そして履いてみると、あ、ピッタリ!

 でも「ピッタリです、すごくいいです」というあたしの言葉にお兄さんは納得しない。歩いてください、という。一回りしてみる。あれ?

 「これ、すごくいいんですけど、足が内側に倒れる症状は矯正されてないような」
 「やっぱり……。やっぱりこれじゃ柔らか過ぎるんだなあ。倒れてるもんなあ」

 そうなのだ、すごくいいんだが、足を痛めた最大の原因である「足が内側に傾く」というのがこの靴ではまったく治らず、履いて立っただけで上から見ると思い切り内重心になってるのがわかるのだ。履いた感じは良かったのに……。

 「病院の先生からは、踵のホールドや中敷以外で何か指定されましたか? 革靴にしろとはいわれてないんですね? だったら……実はお客様の足を拝見したとき、これをお勧めしたいという候補がひとつ浮かんだんですよ。それ持ってきますんで、ちょっと待っててください」

 そしてお兄ちゃんが持ってきた靴を見て、あたしはひっくり返った。いつみもひっくり返った。

    WR760

    
なんぼなんでも派手じゃね?!

 てか、ランニングシューズ? 運動靴? パンツスーツにも合わせ易い、こじゃれたブラウン系の革のタウンシューズという目論見はどこに? カジュアルなデニムやトレーニングウェアとしか合わせられなくね? てかスカート穿けなくね?

 とりあえずお兄ちゃんの言うがままに、これを履いてみる。お兄ちゃんが紐をきりきりしばりあげる。げ、なんか血ぃ止まりそうなんですけど。後ろでいつみが「それくらいきつく縛るもんなの!」とお兄ちゃんを支持する。「これで歩いてみてください」

 ……あ、何これ。柔らかいのにしっかりしてる。指が中で動くくらい余裕があるのにしっかりホールドされてる感じ。そして歩くと、ついぞ感じたことの無かった「足の指で地面を蹴ってる」という感覚がくっきりと!

 「うわ、なんかこれまでとぜんぜん違うんですけど。なんで?」

 お兄ちゃん、満足げににやりと微笑み、

 「サイズは長さと幅だけじゃなくて、甲の高さも大事なんです。お客様の場合、足の甲が低い──というより薄いので、他の靴だとどうしても隙間ができるんですよ。このWR760というシリーズは他に比べて甲の前の方が低く作られてまして、その割に指の部分はちゃんと反ってるので、お客様に合うんじゃないかと
一目見て思いました

 
プロフェッショナル!

 「でもちょっと問題があります。お客様の足の指──特に親指の爪はかなり上向きですよね」
 「ああ、これ、生まれつきなんです。手の指の爪も反り返ってますもんあたし。ほら」
 「ホントだ……。この靴、他はいいんですけど、ちょっと親指が当たってるんですよね」

 それは自分ではまったく気にならない程度。でもお兄ちゃんは靴の上から親指を押さえ「動かしてみてください」「上げてみてください」といろいろ試したあと「惜しいな……」と呟いた。

 「ちょっと待ってくださいね、他のを持ってきます」

 さあ、それからお兄ちゃんの熱意が炸裂だ。これはどうだ、踵のホールドが甘い。こっちはどうだ、内くるぶしが当たる。お兄ちゃんが頭をかきむしって叫ぶ。
「どれも合格点にちょっと足りない!」最早、あたしがどうこうより、お兄ちゃんのシューフィッターとしての矜持と職人魂が場を支配する。

 そして、迷ったときは原点に帰る。これはすべての基本だ。
 結局最初にお兄ちゃんが勧めてくれた、上の写真の靴。いろいろ履いた結果、あれを超えるものはなかった。お兄ちゃんも「インソールを作ってアーチができれば、指もちょっと押さえられるはずなので、これがベストだと思います」と納得(もしくは妥協)した様子。

 「このまま履いてくから」ということでタグを切ってもらいながら、ふとサイズを見てなかったことに気がついた。「これ、サイズいくつですか?」

 「23.5cmです」
 「え、24.0じゃないんだ。ぴったりだから24かと思ってた」
 「型番によって微妙に形が違うので、サイズは靴によって変わるんですよ」
 「へえ……で、幅は? やっぱり1Eですか?」

 
「いえ、です」

 B?! びびびびびびびびびびびいいいい〜? うしろでいつみも仰け反る。

 「Bって、え、えええ?」
 「1Eの下がD、その更に下がBです」
 「
それって最早、纏足なのでは……!
 「でも履いてみて、これが一番フィットしたでしょう?」
 「ええ。それは確かに」
 「幅も、靴によって微妙に違いますから。
  こっちの靴では2Eの人がこっちだとDなんてこともあります。
  実はうちでは1Eの靴ってあまり作ってないんですよ。
  その代わり、DやBはけっこうあるんです。
  お客様の場合は実寸だと1Eですが、幅より薄さの方が問題で、
  インソールを入れて土踏まずを上げてやると更に幅は小さくなります」
 「ひええええ、でも、でも、Bって! あたしずっと3E履いてたのに……」

 うしろからいつみが感に堪えたように一言。

 
「Cカップだと思ってたらAカップだったみたいなものよね」

 「違う」「違います」

 あたしとお兄ちゃん、ふたりしてソッコー否定。なんだその比喩は。長年のジム通い&フィットネスおたくのいつみには、的確なアドバイスを期待し付き添ってもらったというのに、そのキャリアに基づいて出た発言がそれか。それなのか。ジムで何を習ってるんだキミは。
 それでも「このシューズ、派手なのが嫌なんだったら紐を黒にしたら?」というかろうじて面目の立つアドバイスをもらい、且つ、紐遠しまでやってもらったので良しとしよう。

 さあ、明日はこの靴で病院に行き、織田先生(仮名)に見てもらうよ!
 実は買った直後に写メ撮って送ったんだけど、返事がないのよね。デート中だからなのか、やる気がないからなのか、そのあたりも明日じっくり問いつめる予定。