緊急時に慌てない理由

 一昨日の日記を読んだ方から「なぜそんなに落ち着いて対応できるんですか」というメールを頂戴した。
 
拙著にも書いたけど、まずは阪神大震災の経験が生きてるってこと。でもそれだけじゃない。
 「読書」の功績が大きいよ。
 本を読むってことは、他人の人生を追体験するってことだから。本の登場人物がとった行動は、すべて自分の疑似体験となる。「こういうときは、こうするのか」という実例が、無意識のうちにどこかに蓄積されるんだと思う。
 あ、読書はもちろん純粋に楽しむためのものです。でも結果として、知らず知らずのうちにいろんなシミュレーションをしているってことになるのね。

 そこでこれを紹介しておきましょう。
日明恩『ロード&ゴー』(双葉社)
 救急隊員たちが〈救急車乗っ取り〉という事件に巻き込まれるサスペンス。日明さんらしく、〈お仕事小説〉としての情報も満載で、救急隊がどんな仕事をしているか、裏側はどうなってるか、患者にどう対応してるか、通報者に求められるものは何かということが、いろいろ出てきます。
 ああ、くれぐれも誤解しないで戴きたいんだけど、別に啓蒙書じゃないのよ。手に汗握るジェットコースター・サスペンスで、話の展開が意外性に満ちていて、めちゃくちゃ面白い小説。ただ、これを読んでおくと、かなり役に立ちます。そして救急隊員の皆さんに敬礼したくなります。

 
拙著に書いた言葉を再掲。「知識は力」です。知識があるってことは「どうすればいいか」の答(あるいはヒント)を持ってるってこと。パニクりそうになったときに「まずこれをしよう」っていう行動指針があるのと無いのとじゃあ、ぜんぜん違うのさ。

 ……まあ、そんなあたしも、運転してて車線変更間違うとめちゃくちゃパニクるけどな。車線変更小説って誰か書いてくんないかしら。

 あ、お仕事も告知。お仕事した雑誌が昨日届きました。

 
「asta*」2011年2月号(ポプラ社)で、
 
小路幸也『ピースメーカー』のレビューを書いてます。

 伝統的に運動部と文化部がいがみ合っている中学校が舞台。その架け橋となるべく奮闘するふたりの放送部員が主人公です。連作集でそれぞれに魅力があるんだけど、舞台が1974年ってえのがイチイチ懐かしい。細かい小道具の使い方が巧いんだよねえ。自分の中学時代のお昼の校内放送を思い出し、その流れのまま、中学のあの教室のざわめきや、窓から入る光の具合や、上履きで廊下を走ったときの足の感触といったものが思い出されてくる。

 善くも悪くも、鷹揚な時代だったよねえ。先生方も、職員室で当たり前のように煙草吸ってたしね。
 発売は1月13日だそうです。