足の裏・理学療法編

 ダンナは毎週2回、リハビリのためにかかりつけのK病院に通っている。右麻痺の機能回復訓練のための理学療法(PT)と、失語症の回復のための言語療法(ST)の2種類。
 PTの担当はT先生、STの担当はN先生で、いずれも入院時からずっと担当して下さってるんだが、
拙著をお読みの方には、織田先生(仮名)・羽柴先生(仮名)と書いた方が通りがいいかもね。

 でもってこのリハビリはあたしが送り迎えをしているわけだが、ものはついでとPTの織田先生(仮名)に先だってからの
足の裏問題(1)(2)を相談してみたと思いねえ。最初は何の気なしに「足底腱鞘炎ってPTの範疇ですかあ?」と尋ねてみただけだった。

 「まあ、範疇っちゃ範疇ですけど」

 露骨に「それがどうしたオレにはカンケーねえしもう昼飯の時間だし」と顔に書いてある。でも負けないの。そんな織田先生(仮名)のぶっきらぼうな風情の下は、実は意外とキュートだって知ってるから。その場で足を見せながら、いえね先生、実はこうでこうで、この病院の整形外科で見てもらったらこう言われて、マッサージ院で見てもらったらこう言われて、という説明を一通りしたところ、横から織田先生(仮名)の上司にあたるK先生が話に入ってきた。

 「ああ、その内くるぶしの出っ張りは、外脛骨(がいけいこつ)だね。
  骨自体はもう治らないから、歩き方の矯正と、インソール(靴の中敷き)だなあ。
  丁度いい、
織田君、今、インソールの勉強中だよね。作ってあげなよ
 「えっ。ホントに?!」
 「ええ〜〜〜〜〜? 何言ってんすか!」

 露骨に嫌がる織田先生(仮名)。

 「あ、織田先生がやってくれるなら嬉しいですぅ。でもインソールって高いでしょ?
  治療院で聞いたら、1万数千円から2万円するって言われて迷ってるんですよう」
 
「練習だし勉強だし、材料費だけでいいよ、なあ織田君」

 
「ええええ〜〜〜〜〜?!」

 心の底から不満そうな織田先生(仮名)を「練習練習、はっはっは」と笑い飛ばすK先生。このチャンス逃してなるものかと「ホント? ホントに? いいの? ホントにいいのなら御礼するよ何でもするよ芸術のためなら脱ぐよ!」とすがりつく。

 「……時間のあるときなら。練習台ですよ。練習台。あと、脱がないでいいです」

 瓢箪から駒とはこのことだ。もちろん御礼はするよしますとも。
 基本ボランティアでやってくださるとなれば、時間だ何だと無理は言えない。ただせっかくそういう話になったんだから、とりあえず今日は実際に足だけでも見てもらおう。その場で「外脛骨って、これですよね」と靴下を脱ぐ。と。
 いつもクールな織田先生(仮名)が珍しく大声を出した。

 
「うわああ、すげえ扁平足!」

 ……え? ええええ? 扁平足? あたしが? 嘘っ、土踏まずあるもん!
 46年生きて来て、扁平足だなんて思ったことも言われたこともないもん!

 「どこがですか。一目見ただけで扁平足ですよ。写メ撮って送りましょうか」

 この瞬間から、あたしと織田先生(仮名)の静かな闘いが始まったのであった。(続く)

 付記:このやりとりの間、もくもくとリハビリ(床に座る練習)を続けていたダンナがぼそっと「オレはずっと、それ扁平足だって思ってた」と呟いた気がしたが、失語症なので何かを言い間違えたのだろう。そうに決まってる。