女房元気で留守がいい・その3

  8日から9日にかけて一泊で東京に行って来たわけだが。
 これはダンナの「ひとりでひとばんおるすばん」訓練でもあり、
前にも書いたような準備を整えて出かけた。まあやっぱり心配っちゃあ心配だったわけだが、東京まで行っちゃえば心配してもしょうがないと割り切り、あたしはあたしで結構楽しんで帰った次第。そもそもダンナがどうしてるか心配する前に、自分が道に迷って泣きそうになってたしな。

 8日、「夕飯来た」とか「薬飲んだ」とか、随時メールが届く。なんとかやってるらしい。
 そして9日の朝、写メが届く。

morning

朝食用意しとるがね!

 体中の毛穴からビックリ汁噴射。その勢いで月まで飛べそう。
 トースト焼いて、コーヒー入れて、野菜ジュースついで、フルーツのゼリーも器に出してある。
 いやあ奥さん、ごくごくシンプルな朝食で驚くほどのもんじゃないと思うかもしれんが、ダンナは片麻痺なんですよ左手しか使えないんですよ。それがどういうことか、わかる?

 パンを焼くのはまだしも、コーヒーメーカーにペーパーフィルタを入れて粉入れて水セットしてスイッチ入れて、冷蔵庫から牛乳出してというのを、片足で移動しつつ、片手でやったということ。ジュースもしかり。
 そしてゼリー。ちょっと想像していただきたいのだが、ゼリーの容器にぴったりはりついたビニールの蓋を片手で剥がすのって、かなり難しいのよ。しかもこのゼリーは果汁たっぷりってやつで、「蓋を剥がすとき果汁が飛び散りますのでご注意下さい」と注意書きがついてるほど。それを片手で開けたのかー。

 しかも昼過ぎ、帰宅したときには更なるサプライズが。
 
台所のシンクがピカピカになっている! コーヒーメーカーが洗ってある!
 麦茶も自分で沸かして、自分でジャグに入れてある!


 そんなの今までやったことないのに、と思っていたらダンナの言うことには。
 自分のペースでちょっとずつやった、と。自分のペースで自分の好きにやれるからできた、と。

 そして一泊二日、ひとりで過ごしてみて「出来ることと出来ないことがはっきりすれば、もっと長い期間でも一人でどうにかできると思う」と言う。失語症でたどたどしくも頑張って話すダンナの報告を聞く。

 「できないのは、皿洗い。それと洗濯。
  あ、食パンの袋の、プラスチックの留めるやつ。あれ無理。パン乾く」

 あははは、あの小さい四角いストッパか! なるほどそれは確かに片手では難しかろう。
 洗い物も食洗機があるものの、細かい作業はたくさんあるしなあ。
 洗濯は洗濯機がやるとは言え、洗濯物を干したり畳んだりは厳しかろう。
 まあ、片麻痺の主婦の皆さんは皆工夫したり、OT(作業療法)で習ったりしてやってることなんだが、家事経験皆無の男性にそれを求めるのは酷というものだ。

 「朝ご飯は出来た。昼と夜は、弁当を届けてもらえば、食事も大丈夫。
  買い物は、弁当の人がやってくれる(買い物代行サービスのこと)。
  掃除機もかけれる(充電型コードレス使用)。通院は、タクシー使う。
  お風呂もたぶん一人で入れると思うんだけど……」

 うん、見ている限りでは、お風呂もたぶん大丈夫。あたしが心配でつい見てしまい、世話を焼いてしまうだけのこと。ただお風呂での「万が一」はホントに怖いからなあ。それにお風呂掃除も、バスタブ洗いはまえにトライしてちゃんとやってくれたけど、すのこを上げて排水溝掃除してなんていうレベルは無理でしょ。あと、ダンナは思い至ってないようだが、家事と言えばゴミ出し&郵便受けチェックも多分厳しい。それと足が不自由なため、自宅でもリハビリ用の室内履きを履いてるんだが、靴を洗うなんてのも難しいよ。

 「だから、できないところだけやってもらえる、ヘルパーさんを頼めば
  アンタが一週間九州に帰るとかってなっても、たぶん大丈夫。
  緊急時は、ボタン押すし(
あんしんネット21かけつけサービスの意)」

 ああ、介護保険でも名古屋市の
身障者福祉サービスでも、確かに在宅でヘルパーさん利用というのは可能だ。「あたしの安心」ということだけを考えれば、そりゃショートステイとか施設を利用する方が断然安心なんだが、それはあたしの感情的な都合。先々のこと・本人のことを考えれば、自立を目指す方がいいに決まってる。

 じゃあ、これからも少しずつ一人でやることを増やしていって、「これは助けが要る」っていう項目をちゃんと仕分けていこうか。他に今回の留守番で出来なかったことはなかった?

 「出来なかったのは……鉄道模型の予約が、〆切過ぎて、申し込めな──あっ」

 
調子に乗って語るに落ちたなダンナ!

 
留守番の3か条を忘れたか。
 1 無理・無茶はしない。
 2 随時、連絡を入れる。
 
3 勝手に鉄道模型を買わない。

 自立の道、まだまだ遠し。

 なお、この翌日から、
朝食はダンナが(できる範囲で)用意してくれるようになりました
 原稿書きで夜遅くなったとき、朝をダンナに任せられるって、すっごく助かる!
 あたしが家をあけることで、こうしてダンナの出来ることが増えるなら、これからもどんどん出かけるよ。椎名桔平に声をかけられたら明日からでも愛の逃避行に出るよ! だから桔平ちゃん、いつでもプリーズ!