発作=地震説

 ダンナのリハビリ通院の日。
 リハビリ前の診察で、主治医の先生に昨日の出来事を話し(昨日のうちに一度電話で伝えていたので話が早かった)、大学病院からの手紙を渡す。主治医の言葉は、昨日の大学病院の先生と同じ。昨日点滴を受けて薬を処方されて、それでそのあと再発してないので、同じ薬を続けてみましょうということになった。
 
 癲癇の薬はたくさんあって、合う薬が見つかれば
発作は抑えられるという。いやもう、神様仏様薬様な気分。全世界の薬メーカーと研究者に心からの感謝を捧げたい。
 ということで、まずは今の薬を続けてみて、2週間後に血液検査をしましょうと言われた。それで薬成分の血中濃度が一定量に達してるかどうかを判断し、達してるようならOK、足りないなら増やす、多いなら減らす、効果がないようなら薬を替えるなどの対応をとるそうだ。
 なるほど、定期的に「薬が効いてるかどうか」を数値で確認できるというわけか。

 先生曰く、「薬を飲んでても発作を起こすケースもないわけではない。でもそれはどうしようもないことだからね、
癲癇では死なないから。薬をちゃんと飲んで、睡眠不足にならないよう規則正しい生活をして」とここでも昨日と同じことを言われたよ。

 リハビリでは、発作のことよりむしろ「大矢さん、その顔は!」とお岩さん状態が話題の的だったらしい。ただ、CTでは見えない部分の脳の異常という可能性を考え、療法士さんが麻痺の度合いの変化を丹念に見てくださった。その結果、「肋骨打って痛いのと疲れてるせいで動きは悪いけど、麻痺自体に悪化は無い」という診断。一安心。

 そしてST(言語療法)の時間は、「癲癇って脳がシェイクされるわけだから、失語症が亢進しちゃうことがある」ということで、言語聴覚士さん──拙著に出て来た羽柴先生(仮名)がいろいろテストしてくださったらしい。その結果、大きな問題はなし。ただやはり昨日の今日なので脳も疲れてるらしく、聞き取りと情報処理のレベルがやや下がってると言う。しばらくはそのつもりでコミュニケーションをとってください、とのこと。
 本人も、「なんか今日は言葉が入ってこないなあ」とちゃんと自覚できてるらしい。先生も「昨日、脳がシェイクされたばかりなのに、なぜそんなに落ち着いてるの?」と逆に不思議がってたくらいなので、大丈夫でしょ。

 ということで大過なく通常生活に戻ったわけだが、そうは言っても、やはり心配の種は尽きないわけで。大学病院の先生も主治医の先生も異口同音に、「
発作で死ぬことはないけど、突然意識を失うので、倒れて頭を打つとか、入浴中で溺れるとか、車を運転中で交通事故を起こすとか、食事中で食べ物を詰まらせるとか、そういう二次的な状況の方に危険がある」とおっしゃったが、でもさあ、風呂や食事をやめることもできないし、じゃあどうすりゃいいのよ?
 やっとダンナに留守を預けて、一晩出かけたりが出来るようになってたのに、前に逆戻りかなあ、できるだけ離れないようにした方がいいのかなあ、でも離れないって言っても実際にはそんなこと不可能だし。
いつどこで起きるかわからない、そもそも起きるかどうかもわからないことに、対処のしようなんかないじゃないか。心配や不安といった感情の問題に折り合いをつける方法はあるのかな?

 で、知り合いにも心配をかけたので、ツイッターに書いたわけですよ。「発作自体では死なない。怖いのは転んで頭をぶつけるとか入浴中で溺れるとか、そういう二次的な状況の方」と。
 したらばさ! 
ヨウゾウさんのこのリプライに蒙が啓かれた。

 
地震で「揺れたことで人が死ぬ」ことがないように、ですね。

 わあ、そうか、そうだよ! 地震と同じだよ!
 起きるかもしれないし起きないかもしれない。起きるかどうかはコントロールできない。でも、起きても、それ自体が原因で死ぬってことはない。ただ起きたとき、何をしてるか、どこにいるかで運不運がわかれるだけ、と。

 地震と癲癇、まるっきり一緒じゃないか!

 火を使ってるときに地震が来るかもしれない。足場の悪いところにいるとき、地震が来るかもしれない。海水浴の最中に地震が来て津波に遭うかもしれない。だからって、料理もせず階段も登らず海にも行くのもやめる、なんて人はいない。
 自分が留守をして、家族がひとりでいるときに地震が起きるかもしれない。だからって、それが心配で、四六時中家族と一緒にいて、家から一歩も出ず、トイレにも風呂にもはいらないなんて人はいない。

 なあんだ、そう考えればいいんだ!

 もちろん健康な人よりは、罹患者の方がリスクは高い。でもそれって、ヨーロッパに住んでる人より日本にいる人の方が地震被災のリスクが高い、てのと同じじゃない?

 この
ヨウゾウさんの一言で、ものすごーーーーーーーーーーーく気持ちが楽になった。
 とりあえず、薬の効き目についてある程度の目処が立つ2週間後までは、長時間の外出は控えよう。でもその間再発がなければ、またちょっとずつ自立作戦を復活させるのだ。外出中はマメに連絡をとるとか、いろんなサービスを利用するとか、方法はいろいろあるさ。他人様を巻き込む恐れがあるのは車の運転だけど、これは今は既にやめてるから問題無し。
 癲癇の経験者は少なくないという。でもみんな薬を飲んで普通に生活してるんだもんね。やることをちゃんとやって、あとは気楽にいこう。

 ダンナ本人も「これで薬を飲めるようになったんだから、今後は安心。可能性を知らないまま、薬も飲まず、いきなり危ない場所で倒れるリスクが減った」という(意味のこと)を言ってます。あたしもノンキな方だと思うけど、ダンナもダンナで前向きだなあ。

 というわけで、ご心配下さった皆様、お見舞いツイートを下さった皆様、ありがとうございました!