鳥飼否宇さん来名

 『官能的〜4つの狂気』(鳥飼否宇・原書房)という本格ミステリがある。
 架空の都市・綾鹿市を舞台に起こる殺人事件とその謎解きが詰まった連作短編集で、バカミスすれすれに見えて実はけっこう緻密に練られたトリックや、シモネタすれすれに見えて実はすれすれどころか力一杯シモネタの、なんつーかその、薦める相手を非常に選ぶ、著者の名物シリーズのひとつだ。
 シモネタというだけで、苦手、と感じる人もいるだろう。ただ、たとえあなたがシモネタ嫌いであっても、あるいは本格ミステリというジャンル自体に興味がなかったとしても。

 
中日ファンなら、『官能的』は読んでおくべき本である。

 言っておくが野球小説ではない。野球のヤの字も出てこないし、ドラゴンズのドの字も出て来ない。それでも中日ファンが読めば、「ああ、これはドラゴンズ小説だ!」と納得していただけると思う。ちなみに本書を読んだときの、あたしの感想は
こちら

 さて、そんな小説を書かれた鳥飼否宇さんはもちろん中日ファンである。現在、奄美にお住まいなのにも関わらず、なんと6日の日本シリーズ第6戦を見るべく来名されたのだ。となればもちろん、歓迎の宴を開くべきであろう。
 本来なら名古屋城の天守閣を借り切って酒池肉林の盛大なパーティを催すべきところだが、鳥飼さんと会えるのが7日の夕方というのがネックになった。連絡をとり合った時点ではまだ7日に試合があるのかどうか分からなかったからだ。試合がないのなら大パーティも可能だが、あるとすればそれは最終戦、つまり勝った方が日本一という試合になるはずで、だったら飲んでる場合じゃあるまい?(もちろんこの時点では7日の試合があんなことになろうとは予想もしていない)

 結局、7日の試合がどうなるかは6日が終わらなくちゃわからないため、名古屋城は断念。「野球が無ければナンボでも飲むが、あるなら早めに帰る」という臨機応変な対応が可能の、在名の同業者にして中日ファン限定の迎撃となった。参加者は
太田忠司さん、水生大海さん、そして鳥飼さんとあたし。

 夕方4時過ぎに鳥飼さんお泊まりのホテルに集合。鳥飼さんとは全員初対面ではあるが、互いの著作を通じて知っていたということもあり、何はなくとも「何ですか昨日の6時間試合は!」という共通の話題であっという間に打ち解ける。
 予約していたダイニングカフェに場を移し(ここがまあ訳の分からない
真っ暗な店であった)、中日の勝利を祈って乾杯。今、完敗という嫌がらせのような誤変換をしやがったことえりに10分悪態をついたところだが、まぁそれはそれとして、仕事の話、本の話、野球の話、そして「なんで奄美なんですか」「虫が好きだから」ってな話、「こないだマダガスカルに行かれたそうですね」「虫が好きだから」ってな話、「会社をやめて専業作家になろうと思われたのは何がきっかけですか」「虫が好きだから」ってな話、てか、どんだけ好きなんだ虫。たぶんあたしと虫が溺れていたら、鳥飼さんは間違いなく虫を助けるだろう。

 あたしが大学時代を過ごした町と鳥飼さんの故郷が同じで、しかもかなり近所だったことに驚き、「旦過市場のとこに出る屋台って、おはぎがありましたよね」だの「守恒のニチイの坂を降りたところにあったスーパー、何て名前でしたっけ」「アピロス」というローカルにもホドがあるような話題(分かる人だけ分かってください)で局地的に盛り上がったり。

 そうこうしてる間にプレイボールの時刻となる。勝てば明日があるし負ければ終わりってことで、「プレイボールから見なくちゃ!」という切羽詰まった気持ちはないとはいえ、6時を過ぎると4人が4人ともまるで打ち合わせたかのようにモゾモゾし始める。「わ、ワンセグ入らないっ」「吉見対俊介だよね、たぶん」「とりあえずネットの速報を」「ナゴヤドームの俊介なら打てない事はないと思うんだけど」……「あ、先制されてる」「ええっ!」「あ、でも裏にすぐ取り返してる」「おお!」

 ……まあ、その顛末はどうであったかは、「勝ってるねー」「リードしてるねー」「安心だねー」と言い合ってそれぞれ帰途についた4人が、帰り着くなり声を揃えて
「どゆこと?!」とツイッターで叫んだ、とだけ書いておきましょう。しくしく。

 とまれ、たいへん楽しゅうございました。次回は野球の時間に縛られることなく、もっとゆっくりじっくり飲みましょう鳥飼さん……って、野球見に名古屋に来るんだからそれはハナから無理な相談か。では来年は、56年ぶりの完全制覇及び昌の日シリ初勝利の美酒をご一緒できることを願っております。