名古屋オフ忘年会(死闘編)

 半期に一度の名古屋オフ。
 今回は人数少なめで、男性3人女性8人という〈ほぼ女子会〉のノリ。

 今回の会場はラシック8階の陳麻婆豆腐。売りは激辛麻婆豆腐だと言う。激辛ウェルカム、どっからでもかかってらっしゃいな気分で戦地に赴く。まずは前菜。蒸し鶏と胡瓜とナッツは、大蒜たっぷりのソースがたいへん美味。次に出て来た海老の塩炒めもたいへんに美味。桂花陳酒おいしーねー、いややっぱり紹興酒でしょ、ホットの紹興酒にザラメを入れて混ぜずに飲むと翌朝お肌ツルツルだよ〜、などといかにも女子会らしい会話に花が咲く。
 しかし、暢気に頬張っていたのは、ここまでだった。
 3品目、イカとパプリカの炒め物──か? この色は、何? なんか禍々しい茶色とそこから分離したラー油的オレンジが、なんつーか、こう……

 「これ、辛いですか?」
 「ゼンゼンカラクナイデスヨー」

 「辛くないって言ってるよ」「じゃあ辛そうなのは見た目だけかな」
 「では戴きましょう」「ぱく」「ぱく」「ぱく」
 「あ、大丈夫大丈夫。おいし──
ぐはぁげほげはっ、かかかかからっ

 時間差攻撃で食道から辛みが駆け上がる。

 「お姉さんぜんぜん辛くないって言ったのに!」「中国人はこれ平気なのか? これが辛くないのか?」「国際問題になるから伏せ字にするが××って××じゃねえのかっ!」

 場が騒然とするところに、次はチキンとナッツの炒め物。ああ、これなら大丈夫そうだ。おや、チキンとナッツはわかるが、この黒いのは何? キクラゲかな? お兄さん、これは何ですか?

 「ソレ、とうがらしデス」
 「唐辛子! 唐辛子の輪切り?! ……ってことは、これも辛いですか」
 「カラクナイデスヨー(にこにこ)」
 「さっきのイカと、どっちが辛いですか?」
 「……コッチカナー。デモ、カラクナイデスヨー(にこにこ)」

 さっきより辛いのかよ! チャレンジャーかおかおが、キクラゲにしか見えない唐辛子を一切口に入れる。一瞬の間。そして──

 「痛い痛い痛い
ベロが痛い!

 時をおかずして、テーブルのあちこちから同様の絶叫があがる。白飯をくれ白飯を。いや水を。これは何の罰ゲームか。しかもちゃんと美味いから不思議だ。美味いよ。でも辛いよ。アホかっちゅーくらい辛いよ。てか中国人(以下自粛)。

 そしていよいよメインである。麻婆豆腐である。既に心の準備はできている。念のため、店員さんに訊く。これ、辛いですか?

 「カライデスヨー(にこにこ)」

 ついにお墨付きを戴いた辛さ。ちゃんと白飯がついてくるあたりが、辛いよと宣言しているようなものだ。覚悟して食べた。そして辛さは覚悟をあっさり凌駕した。

 「ベロが痛い!」「食道が痛い!」「なんか体中の毛穴からヘンな汁が出るよ怖いよ怖いよ」「こ、この山椒の粒を噛んじゃダメなんだ、飲むんだ飲み込むんだ、麻婆豆腐は飲み物だ!」「日明恩の
「埋み火」に確かこんな辛い麻婆茄子を食べるシーンがあったなあ。読んだときは大げさだと思ったけど、今なら雄大たちに心の底から感情移入できるよ。ごめんよ日明さん!」「こんなに辛いのに、なんで美味いんだ」「辛みと旨味を感じる部位は別なのか」「美味いよー辛いよー」「白飯が足りん!」

 そして。闘い済んで日が暮れて。
 皆は「ごちそうさま」の代わりに「ナイスファイト……」と互いを讃えた……。
 食べた、というより、一試合終えた、という気持ち。

 デザートの杏仁豆腐がこんなに美味しかったのは生まれて初めてかもしれない。

 あ、ちゃんと忘年会恒例の今年のベスト本とか本の交換会もあったんですよ。でもそれはまた後日、別項で。こうしてあのメニューを文字にしてるだけで、なんか舌が痺れてきたよ……。