名古屋オフ忘年会(消耗編)

 名古屋オフは二次会に場を移す。
 普段ならビールだの焼酎だのを注文するメンバーなのだが、
一次会の〈死闘!激辛地獄〉のインパクトいまだ大きく、飲み屋なのに一斉にグレープフルーツジュースだのトマトジュースだのを注文。店にとってはやりがいのないことこの上ない。

 肴も同様で、普段なら酒に合うような味の濃いものだとかジャンクなものを頼むのに、舌も喉も食道も胃も疲弊しているため、「サラダが食べたい」「何かさっぱりするものを」「なめこおろしとか」──なめこおろしを肴にトマトジュースを飲む面々。しかも相次ぐトマトジュースのお代わりに、ついに店の在庫が尽きるという状況に。何の集まりだこれは。

 そこで起こったできごと。
 なめこおろしを二人前頼み、食べたい人でシェアしようということになったのだが、シェアするにはなめこおろしってえのはチト食べにくい。スプーンがあるといいよね、ということで、代表して水生大海さん(原書房より
「かいぶつのまち」が絶賛発売中)が店員さんにスプーンを貰えるよう声をかけた。

 「スプーンをもらうことはできますか」
 「何個ですか」
 「人数分もらうことはできますか」
 「他のお客様の分が足りなくなるので、人数分はちょっと」
 「では何個ならもらえますか」

 
あんたらはニューホライズンの英語の教科書か。

 〈風呂に入るのは簡単だが、それを文章で書くのは難しい〉と言ったのは芥川龍之介だったか。この会話の面白さを文章だけで表現するのは実に難しい。水生さんの、まるでアナウンサーのように語尾まで滑舌の行き届いた発声と、おもねるでもなく責めるでもない淡々とした物言いが、なんつーかもう、「英文を和訳して朗読してますっ!」って感じで、それが一次会の激辛地獄に疲弊したメンバーの笑いのツボを直撃したのよ。Can we have some spoons? How many spoons do you need? We need spoons for each person. Sorry, it's too many to provide. Then, how many spoons can we have?

 まだ深夜というような時間ではないし、トマトジュース祭りで酔っぱらってるわけでもない。なのになぜかこれを機に「英文和訳会話」がその場を席巻した。誰かが醤油をこぼせば「おしぼりはもらえますか!」「おしぼりは何枚もらえますか!」「おしぼりは2枚もらえます!」などとワケのわからない言葉が飛び交い、料理が出れば「これはお好み焼きですか」「いいえ違います」「これは何ですか」「これは卵焼きです」「これはイモ焼酎ですか。それともトマトジュースですか」という「見てわからんか」てな会話が交わされる。何だこのバカ会話は。昭和の英語教育の限界、ここにあり。

 あなたは三次会に行きますか。はい行きます。いいえ行きません。私は間もなく来るところの地下鉄で帰ります。半年後に行われるところの次の機会に再び会いましょう。というバカ会話のあと、解散。私はコーヒーが飲みたいです、コーヒーを飲めるところの店を知っていますか、いいえ知りません、というメンバー5人で夜の栄を延々歩き(下調べしとけよ!)、デニーズで一服して解散となったのであった。いやもうホントに本の話は殆どない忘年会であったことよ。半年後のオフは「あなたは何冊本を読みましたか。それは本格ミステリですか、それとも冒険小説ですか」からスタートさせてやるから覚悟しとけ。